135話 買い物断念とハンバーグ
灰なら農家さんが普通に欲しがって、なおかつ手元にそこそこの量がある!焚き火の度にせっせと集めてて良かった!!
…と喜んだのも束の間。
その灰を渡す方法が無いことに気付いた。
いや、私の鉄の箱に小分けにすれば良いだけだが、それは鉄製農具と同じく非日常な物体だ。
普通に渡す方法が無いのである…。
そこらの木から入れ物を彫るのは難儀だし…。
シリュウさんが持ってる、鉄製以外の器は食料保存用だから譲る訳にはいかないし…。
どこかの工房が土魔法で作ったらしい石の箱とか、謎な色味の魔木製の樽とか、そもそも不適格なんですけどね…。
八方塞がりなので、買い物は断念することに決まった。
──────────
気分を変えて、料理といこう!
本日の食材を紹介するぜ!
デカい猛禽類な鳥と、デカい草原トカゲ!
以上だ!
…。
なんだかなぁ…。なんだろうなぁ…。
この鳥、名前なんだっけ…。無属性の魔物だけど、単純に高く速く飛ぶから厄介なやつだったよね…。
ドラゴンはあまりにファンタジー過ぎたから実感無かったけど、爬虫類を食べるって勇気要るよね…。
これを両肩に1羽と1匹担いで帰ってきたダリアさんとか、マジ冒険者。棍棒まで背負ってこれだからね…。血抜きはしてあり内臓も破棄してあるし、トカゲは頭が無いとは言え結構な重さだろうに…。
鳥の方を狙ってる最中に邪魔してきたから、棍棒を振り下ろして頭を爆散させたらしい…。殺生したからには解体して持ってきた、と…。
そんなダリアさんは、シリュウさんから岩塊バーベルを借りて筋トレ中。
シリュウさんと同じく、魔法が使えるのに筋肉鍛えるとか変わり者だよ。
せめて棍棒を背中から下ろしてやった方がよくありません…?好きにしたら良いけども…。
私は現在、食材予定の猛禽類の下準備中。
鉄で作った巨大ピンセットで羽を1枚1枚引き抜いている。
抜いた羽は募金箱的な形の鉄に貯めていく。魔物の羽だから何かしら素材にはなるはず。単純に澄んだ薄い青色だから綺麗だし装飾品かな。
それとも羽毛と言えばやっぱり寝具かな。布があればふかふかお布団とか。この羽、ちょっと硬くしっかりしているから不向きかな?そもそも1羽分じゃ足らないけど。布も無いし。
シリュウさんはトカゲの方を解体してくれている。
まあ、デカいから、ほぼほぼ見た目はワニだよね。草原トカゲは草食だけど普通に怖い。
色は違うけど、世界の果てに行くバラエティー番組で太眉女子が競走してたやつが近いか。
この鳥も毛を抜き終われば解体してもらうので頑張らねば…。
ううぅ…。生の手羽先や手羽元がなんか嫌…。黒味がかった肌の色がギャップでグロい。血を見るよりはマシだけども。
微妙に鳥肌になりながら作業を進めていく。
──────────
解体が終わったら素材は全てシリュウさんの革袋に一度入れる。
食材予定の肉達もこれで殺菌消毒、安心安全に食べられるのだ。
シリュウさんと相談しながら使う部位を決めて、その都度出してもらう。
「草原トカゲはあまり旨くはない。無理に調理しなくてもいい。」
「食べたことあるんですね…。」
「ドラゴンに近い種類とか言う奴もいるが、味は完全に別物だ。元々硬い肉だから焼けば更に硬くなる。ダリアが狩ったから俺は食うが、テイラは無理するな。」
「了解です。まあ、できる限りの調理はしてみます。」
「なんなら生で食うから放置でもいいぞ。」
そんな怖い食べ方をさせるくらいなら、ダメにしてしまう勢いで処理しますよ…。
「…頑張ります…!!」
「蒼翼鷲はなかなか旨味はある。少し臭みもあるが、どうにかなるだろ。」
あの鳥、そんな名前だったか。
「胡椒だけで臭みが抑えられたらいいんですけどね。こちらも要研究だな。」
「ギルドロードを渡るのは日が落ちてからだ。それまでに一通り終わればそれでいい。」
「分かりました。」
そう言ってシリュウさんも、隣に作った作業台の前に立つ。うどんの麺を捏ねたり、ドーナツもどきの生地を作ったりと、既にレシピを渡してある料理の下拵えをしてくれるのだ。
私の方も新作メニューにチャレンジしよう。
まずはトカゲ肉の味見から。
包丁で薄く切ってしっかり茹でた物を口にする。
もぐもぐ…
…うむ。確かに硬い。グニグニとした弾力で歯応え有り過ぎ。
噛んでもそんなに旨味はない。なかなか淡白な感じ。
臭みは存外無いから食べれなくはない。
こういうのは煮つけにしたら美味しく頂ける気はする。醤油も砂糖もないけど。
シリュウさんが持ってる玉ねぎもどきの粉末…、あれを塗り込めば多少は柔らかくなったりするかな…??こうシャリピアンステーキの要領で。
玉ねぎの酵素が肉を柔らかくする訳だし、乾燥粉末じゃ酵素が死んでて効果ないかな?
それよりは単純に物理で攻めるか?
トカゲ肉をひたすらミンチにして肉の繊維を全部切れば案外いけるかも。味を濃い目にすれば淡白な肉質をカバーできるか。
ってことから考えると、トカゲ肉ハンバーグを目指す感じか。上手くいくかな…??
う~ん…。
ダメっぽいならそのままそぼろにでもするかなぁ。
「シリュウさん。トカゲ肉ですけど、ミンチに…細切れにしても良いです?」
「…。ギョーザの中身にするのか?」
「それもアリかもですけど、ミンチ肉で調理したいメニューがあるので。」
「…。混ぜる物を全て確認するぞ。」
「どうぞ。と言うか革袋から出してもらう物しか入りませんけど。
とりあえず、出してほしいのが、パン粉にするパン、玉ねぎもどき…は名前何だっけ…?えーと、香味野菜の粉末を──」
──────────
包丁で滅多切りにしたトカゲ肉に、玉ねぎもどき(粉末)、ニラもどき(粉末)、削ったパン粉、出汁として板肉スープ、塩胡椒を入れ混ぜていく。
パン粉は例の如くガチガチに乾燥しているが、スープと混ざることで柔らかくなり繋ぎになる。
うーん…、味が心配だけど、まあ焼くか。
手のひらでハンバーグの形に整えて…、
ちょっと粘りが足りない。パン粉を足すか。いや、小麦粉を直接混ぜた方が早いかな?出してもらおう。
ジュワジュワジュワ…
ふむ。普通に焼き目は付いてるし、ちゃんと形にはなってるな。鉄の蓋で蒸し焼きにすれば、多少は硬くならずに火が通るはず。
私の方は太陽熱収束で調理してるから、熱が入る、が正しい表現か。
食べれる状態になります様に…。
──────────
「よし。ひとまず完成…!」
味見といこう。
もぐもぐ… もぐもぐ…
トカゲ肉にしては上出来…か?
とりあえず食えなくはないし、不味くもない。あまり進んで食べたくはないが。
草原トカゲの顔が散らつくんだよなぁ…。頭無いからこの個体の顔は見たことないけども。
「ソースがあればまた変わってくるけどなぁ…。肉汁も薄いし…。無い物ねだりしても仕方ないか…。もうちょい塩かけよ。」
「もう出来たのか?」
「あ、はい。材料を混ぜて焼いただけですので。」
「…。俺も食う。」
「はい。どうぞ。」
取り皿とフォークを手渡す。
もぐもぐ… もぐもぐ… ごくん
「…!これ、草原トカゲだよな。なかなかじゃないか。」
「食べれる形にはなりましたけど、味にパンチが有りませんね。なんかの旨い脂身でも混ぜ込みたい。」
「いや、十分だ。期待以上だぞ。」
「まあ、喜んでいただけるなら良いですけど。」
「よく硬くならずに焼いたもんだ…!」もぐもぐ
「ミンチにして、肉の繊維を全部切りましたから。」
「トカゲ肉は全部これにしよう。俺の作業を終わらせるから、作り方教えてくれ。」
「この料理名はハンバーグって言います。ミンチにさえすれば、どんな肉でも柔らかく食べれますよ。」
「良いな!」
さあて、どんどん焼いていきますか。
普通に買い物させたいだけだったのに何故こうなった…。
次回は8日予定です。




