134話 お金と買い物
狩りから帰ってきたダリアさんを交えて、宿場町への買い物を相談した。
買い物自体はできるならしたいが、問題がいくつかあった為に方針は決まらなかった。
ここに居るのは、見た目子どもの高魔力持ち、デカくて派手な棍棒を背負った大柄な女エルフ、〈呪怨〉はともかく姿は一般人な私、の3人だ。
この中で穏便に買い物できるのは恐らく私だろう。
だがこの国での常識に偏りがあるし、何より他国から不法に入ってる身なのでバレたら1番リスクが高い。
シリュウさんも1人で買い物できるだろうけど、見た目で嘗められてトラブルになることもままあるらしい。
そもそも女物の服を買うとか面倒だろう。
まあ、あの市場みたいな所に服屋があるかも不明なのだが。
最低でも布が手に入れば自作できるけど、そもそも布もそんな都合良くあるかどうか微妙なんだよなぁ。
更に、お金の問題もある。
「シリュウさんの、お金…。ほんっと。とんでもないですねぇ……。」
「…。」
「特級様だからね。金額的には普通だよ。小銭持ってないのが不便過ぎるけどねぇ。」
シリュウさんが貨幣を持ってはいたのだが、これがまたなかなかの物だった。
革袋から取り出したのは100万ギル硬貨だった…。
しかもまだ中に複数あるらしい…。
この大陸でよく使われてる貨幣、「ギルド通貨」。
もちろん冒険者ギルドが流通させている。
ギルド通貨、略して「ギル」。
大半が、複雑な彫り物がしてある金属製の硬貨だ。
1ギルは多分1円くらいの価値だと思う。この大陸でのまともな経験が小さな港町でのみだからちょっと自信ないけど。
この世界の需要供給によってかなり変動するものだろうし。
冒険者ギルドは各国を跨いで物の取り引きをする商人としての側面も強く、独自に貨幣を鋳造し大陸内の経済を回している。
冒険者はむしろ商品の護衛として各地で育成された、って順序らしい。
大陸を横断する移動にずっと同じメンバーに護衛させるのでは負担が大きいから、町から町、国から国の限定された区間だけ随伴して交代する形になっている。
その人や物を入れ換える場所が各地のギルド支部で──
…。
話を目の前のギル硬貨に戻そう。
なんでもシリュウさんが価値があると認識した上で、革袋内部の劣化効果に対抗できる魔法刻印が付加されているのが、100万ギル硬貨からだったらしい…。
100ギル硬貨や1000ギル硬貨はボロボロに崩れてしまうとか…。
価値が低い物は服のポケットに入れても戦闘をすれば壊れるし、そこそこ邪魔になるしで小銭は持ち歩かないことにした、と…。
クレジットカードしか持たないお金持ちか何かかな…??
100万硬貨はキラキラと虹色に光る紋様線が刻まれた、鈍い水色の金属板だ。日本のお札よりは一回りくらい大きいだろうか。「100万」とか「ギルド紋章の図形」とかが書かれているとは言え、単純に綺麗な見た目である。もうこれは美術品じゃないかな…。
1000万硬貨とかもあるらしいけど、入ってたりするのかなぁ…。もしかすると、魔石そのものを加工して作られていると噂される1億硬貨なんてのも──いや。考えたらダメだ。ここは無心でいこう。
シリュウさんが雲の上の人であることを再認識しつつ、服や野菜を買うにはあまりにも超過している金額に頭を悩ませる。
「やっぱり魔獣素材を換金するのが現実的ですかね。」
「とは言えそれもねぇ…。」
「角兎の毛皮や角なら量はあるんだがな。」
「角兎なのが問題なんですよねぇ…。」
「質の問題だよ。」
「…。全く不便だ…。」
手元に有る素材はシリュウさんの革袋の中、つまり価値あると認められた1品達だ。
角兎は中級冒険者パーティーが狩るべき強さの魔物で、その素材もそれ相応の価値になる。単純に魔力素材としても優秀らしいし。
そんな簡単には手に入らない物をその辺で売れるはずもない。やはり買い取りしてもらうには、冒険者ギルドを活用するしかないのだが──
「私はそもそも冒険者ですらなく、非国民の浮浪者ですしねぇ…。」
「アタシもギルドカードも無いし…。」
「事情を話して再発行してもらうとか──」
「シリュウに戦闘を仕掛けて、呪具を破壊されたので超級資格を失いました、ってか。どんだけ時間かかるか分かりゃしないよ。」
「そもそも魔力波長が完全に変化してやがるから、本人確認も難儀だろうな。」
「やっぱりシリュウさんにギルドに行って換金してもらうのが現実的かなぁ。」
「そこらのギルドは信用ならん。それに俺の本人証明も色々問題があるからテイラ達と大差無い。」
なんでもシリュウさんのギルド証はちょっと特殊らしい。
特級ランクは色々な事情があるから各人専用でカードを作製することがままあるので、小さな支部では対応できないこともあるのだとか。
「なら換金は諦めて、直接の物々交換かな…?」
「それも難儀なんだよな…。」
布とか野菜に釣り合う素材じゃないからねぇ…。
米を買うのに砂金の塊を出して拒否されたり物盗りに狙われたりしてたジ○リアニメの主人公の如く、トラブルに招くだけだ。中級魔獣素材もその類いだろう。
もちろん巨大魔獣の毛皮・ドラゴン革も同じくだ。
さっきダリアさんが狩ってきたのも両方とも魔物だし、見た目凄いし…。
普通の村人、町人との交換には使いづらい。
「まだテイラが作った農器具のがマシじゃないかい?」
「マシなんだがな。」
「それを交換する行為そのものが怪しさの塊ですよねぇ…。」
「盗品を金に換えようとしてると思われるな。」
金属の代わりになる硬い魔法植物が存在したり、土魔法で岩を生成したりできるから、銅とか鉄を加工する鍛冶場が多少珍しい。
だから魔獣鉄で鍬とか鎌とかをそこらの人に売り込んでも、「鍛冶屋じゃないのになんでそんなもん持ち歩いてんだ?しかもそれを金に換える??」となって警戒されること請け合いだ。
剣や槍ならなおのこと。オール鉄製の新品武器を売る冒険者がどこに居るのかと。
「シリュウさんが持ってる板肉…、硬い干し肉なら交換──」
「食える物をわざわざ出す訳ないだろ。」
「そこらの人間に食える硬さじゃないよ。」
出汁はとれるから普通の人にも利用可能だと思うけど、他の食材と交換が選択肢に無いなら仕方ないか。
「ん~…、ダリアさんが狩ってきた肉も一応あるし、野菜は欲しい…。でも鉄製農具は怪しいから取引できない…。こちらから肉を出すのも不可…。う~ん…。」
他に普通の農家さんが欲しがる物…。家とか、服…は私が欲しい物だって。
魔物避け・動物避け…。怪我とか病気を治すポーション…。植物の種…とか…。あとは畑に撒く肥料──
「あ!!灰だ!!」
次回は5日予定です。




