131話 移動再開と焼き石
「いやぁ、助かりました。おかげさまで快適な座席が帰ってきましたよ。ありがとうございます。」
「…、(礼を言う前にこの乗り物をどうやって──いや、要らないね…。)…ああ。」
「(水が美味い…。)」ちゅーっ…
「…、(シリュウはこいつで普通に運搬人をしてやがるし…。)」
現在は3人揃っての移動中。
シリュウさんは鉄管で水を飲みながら勢い良く人力車を引いている。ダリアさん増えても余裕の感じだ。
車体の横にダリアさんの武器っていうデカい塊まで付けてるのにね。
竜骨の棍棒はひとまずの完成に至ったし、ダリアさんの体調も戻ったので、移動の再開をしようということになった。
出発準備としてシリュウさんの黒い革袋に仕舞っていた人力車を出してもらって点検を行い、車輪に鉄タイヤ、ベアリングの回転等々、主要な部分は問題なかったのだが。
座席に使用した魔獣の毛皮がガチガチに硬化していることが判明した。シリュウさんの革袋の中で土属性魔力が再び馴染んでしまったらしい。
いやぁ、だいぶショックだったね…。
ダリアさんが半日かけてシリュウさんの魔力を抜いてくれたおかげで、柔らか座席が戻ってきて事無きを得た。
魔法使い様々である。
──────────
「やっぱり風の魔石が欲しいですね。握りの柄頭に嵌め込んで魔力タンクにしたい。」
「そうかい?風は足りてるけどね?」
「土属性はシリュウさんと共通してるし、出力の差を埋めるのは無理でしょう?なら、違いが出る風属性を少しでも多く使えると有利になりそうだな、と。あと、見た目。」
隣に座るダリアさんと武器の改造案を話して過ごす。
草原を走る人力車の上とは思えない安定感だ。会話ができる程に揺れは抑えられている。
いやぁ、スプリングが効いてるねぇ。快適な旅だよ。
「見た目なんて邪魔にならなきゃなんでも良いけどね。」
「まあ、まずは中身が伴ってこそですよね。魔石武器って単純に響きが良いから組み合わせたいんです。」
「風の魔石は無駄に高いからねぇ…。アタシじゃ入手は難しいし。極小魔石がまだ楽さ。」
「魔石はどれも希少で高価だから同じなんじゃ?」
「土と水はまだ安価なやつも有るんだよ。人工生成できんだと。」
「マジですか!?」
「ああ。なんでも魔木を利用するとかなんとか?」
「へぇ~!魔法技術凄い。」
「この国でもデカいギルドだったら置いてるはずだよ。」
「ああ~…、私、不法入国している身なのでギルドどころか大きな町に入ったことないんですよ。」
「…、(つつかない方が良い話だね、これ。)
魔力はアタシの自前で賄うとして。あの竜巻以外に機能が欲しいから──」
「それでしたら──」
「…。(良く話が合うもんだ。大陸の外産まれの少女と、百歳超えてたはずの土風エルフ、って珍妙な組み合わせなのに。)」タッタッタッタッ…
──────────
鉄の家を設置できそうな場所を見繕ったら人力車を停めて、いつも通りの夜営準備を整える。
結界の魔石を家の壁に嵌めた後は、役割分担の相談だ。
私は家の中で待機、シリュウさんはそこらの木から薪集め、ダリアさんは食材採集となった。
晩ご飯は出来合いの物にし、もし何かしら狩れたら捌いて明日以降の食材にする予定だ。
ダリアさんは1人で動いて大丈夫そうだし、シリュウさんの場合は好戦的な魔物ならまだしも普通の動物には避けられるので狩りには向かないらしい。追いかけてまで捕まえたい動物も居るか分からないしね。
シリュウさんよりも感知能力が高いみたいだし期待しよう。
日が落ちはじめて太陽熱調理も難しい。昼間に調理タイムと言う名の休憩を挟んでもらうべきだろうか?
アイデア整理をしながら2人の帰りを待つ。
やっぱり魔導コンロが欲しいな。私にも使えると考えると夢のまた夢だが…。
あの砂魔石で利用してもあまり意味がないことに気づいたからね。
非魔種は起動できないし…、シリュウさんが回路を繋いだら壊れるだろうし…。
レイヤの火の魔鉄。あれは何故か火炎を出すアーティファクトにならなかったんだよな~。
正確に言えば、レイヤが触れば火が出るけど私が触ると機能しなかった。
多分、レイヤは自身の魔法として扱い、私が〈呪怨〉の力で起動するからだろう。体内に魔力回路が存在するかどうか、体外の魔力を掌握できるかどうかが影響している、と推測している。
結果、体内に作用する、身体強化の腕輪の形に落ち着いた訳だ。
水の魔鉄も私の体に作用するタイプで、水を創り出す機能は発現しなかったし。それに、水生成はレイヤもアクアもできていたから水筒があれば事足りた。
土の魔鉄も岩石なんかの生成は無理だった。鉄オンリーの収納装置にはなったけど、やっぱり私から離れた場所の鉄を遠隔回収とか遠隔出現とかもできない。
相手の頭上に鉄タライ(硬さガチ)攻撃ができないのである。ゲ○ト・オブ・バビロンみたいに射出するのも叶わない。
風の髪留めは詠唱さえすれば気体生成が可能だが、思いのままに風を吹かしたり真空を作り出したりはできないしね。風の氏族エルフだから、その親和性の高さから私にも使えたのか…、世界樹の加護が呪いの鉄にも力を与えたのか…。
まあ謎だね。
ともかく、魔導コンロ…。砂魔石でも魔鉄でもなく…。
シリュウさんの革袋の中から…例えば…、火のドラゴンの…鱗とか…。上に置いた物を加熱してくれる物みたいな…。
他には…、溶岩…。火山…、噴火…、焼き石…?
焼き石調理ならできそうだけど、できるならシリュウさん、とっくにしてるだろうしなぁ…。
む~ん…。
それとも髪留めから水素生成とかにチャレンジして…ガス着火…。爆発オチ一直線だな。サイテー!
──────────
「ご馳走さまでした…。」手を合わせ…
「ああ。(相変わらず不思議な動作だ。)」
「ごっそさん。」
「(こいつは適当だな…。)」
今日も今日とて温かい料理が美味しい。
ダリアさんは別メニューで、シリュウさんから干し肉を貰って噛っていたが。私が板肉と呼んでるくらいガチガチに硬いのに良く噛めるよね…。
「シリュウとの旅って言ったらこれだよ。」とか定番みたいに言われても…。咀嚼音がミチミチって肉の感じじゃなくガリガリって金属みたいなんですけど…。
シリュウさんの土魔力が染みてて色々美味いそうだ…。体力回復に良いらしい。
好きにしたら良いと思う。
狩りに行ったダリアさんだが、食べられる動物は居なかったそう。
魔物ならネズミタイプが居たらしいが、あれの肉は大体不味いからねぇ…。国が変われば種類も変わるかもだが味に大差は無い様だ。魔力持ちとは言えネズミは病気も怖いし、シリュウさんも顔をしかめてたから食材にはしないでいい。
「そうだ、シリュウさん。料理のことで質問が。」
「なんだ?新しい料理か?」
「いえ、シリュウさんがやってない調理方法の確認…かな?」
「なんだそりゃ?」
「えーと…焼き石調理って言って…、硬い石を焚き火で高温に熱して、それを鍋の中に入れるんですけど。
伝わります?」
「なんだそれは…。石を食うのか??」
「いえいえ。単に鍋の汁と具材を加熱する道具として、ですよ。瞬間的に熱が入るから、なんか美味しくなるとかってテレビでやってまして。」
「(てれび?)」
ダリアさんがさして興味無さそうに軽く首を捻っている。
「…。言いたいことは分かったが、そんな焼き方は知らん。」
「そうですか。なら、今度やってみます?シリュウさんの魔法の手ならできそうですし。」
「俺の魔力に耐えれる石はどうする?」
「焼き石に使うのは、火山岩…溶岩が冷えて固まった後に出来る、熱に強い岩なので、シリュウさんならお持ちかな?と思ったりしてましたが…。」
「…。ただの岩だろ。そんなもんわざわざ入れたりしてない。」
「そうですか。存在しないんだし、どうしようもないですね。忘れてください。」
「…。(石を入れて加熱、ねぇ。可能性はあるのか…?)」
「…、(訳分かんない会話だねぇ。)」
私の鉄は魔法の加熱効果を弾いちゃうし、魔獣鉄でも代わりにはならないだろう。熱に耐えてもめちゃくちゃ錆びるし、鍋に入れたら臭いとか錆そのものが混ざりそうだし。
早々上手い方法は思いつかないね~…。
次回は27日予定です。




