130話 戦闘スタイルの提案
「だから、この刻印を配置したら接続がおかしくなるので──」
「振り回して叩いて突く!全部を魔法で強化するのは譲らないよ!」
「ですから、それ全部を魔法でやるのは魔力消費的にも回路配置的にも──」
「だったら──」
「そこを──」
完全回復したダリアさんは、私に次々と自分の理想の戦闘スタイルを説明してくれる。話をしてくれるのは有り難いけど、無茶なことばかりやろうとするのが問題だ。
改良しては外に飛び出して試し振りをし、更なる改造を要求してくる。
全く自分の武器の改良に余念がないことで…。
シリュウさんが的確そうな修正案を出しても聞きやしない。
まあ、罪悪感が気にならないくらい打ち解けたかな。
こっちも1歩踏み込んでみるか。
「良し!分かりましたダリアさん!ちょっと人形貸してください。」
「テイラと戦闘しろなんか言ってないだろ!?」
「…?…、あ、そうか。シリュウさん人形じゃないです。ダリアさん人形の方。」
「何する気だい…!?」
「ダリアさんの戦闘の理想形を、人形使って議論しましょう!」
──────────
「ダリアさんの理想はシリュウさんに殴り勝てる強さ。その為に強力な武器が必要。そう言うことですよね?」
「…、そうだね。」
自分の姿の人形を何に使うのかと不安な模様。
真っ当なことに使うから安心して欲しい。
「その為にはダリアさんの要求は見当違いだと断言します!」
「あん?」
「例えとして。私が魔力0。ダリアさんが魔力100──」
ポニーテールな鉄の棒人形(鉄槍持ち)と、ダリアさん人形を机に置いて示す。
「──そして、シリュウさんが10000だと仮定して話をします。」
ダリアさん人形より小っこい、角有り棒人形君を置く。オーラを描いた鉄板を背後に置いて強さを演出してみた。サ○ヤ人かな?
「ダリアさん。魔力を10籠めて岩の塊を打ち出せる魔法があるとします。ダリアさん人形はこの魔法を何回使えます?」
「10回だろ。」
「その通り。
そして、この魔法が直撃すれば相手にダメージ…相手の魔力を10削れるとします。」
「なあ!?これ人形要らねぇだろ!アタシもその黒い棒のやつにしろよ!!」
「あとで他のことにも使うから、とりあえず聞いてください。
で。この魔法でシリュウさん人形を倒すには──」
「千回必要だって言いたいんだろ!?んなもん分かってるよ!!」
「そうですね。だから。ダリアさん。棍棒を無闇に改造しても意味ないんですよ。
この例えで言えば、棍棒を改造しても魔力15の技とか魔力30の攻撃とかができる様になるだけです。ダメージはそのまま15とか30。ダリアさんとシリュウさんの間にある壁は、どうやったって覆りません。」
「…分かってんだよっ!!」チッ!
「そんなダリアさんが!シリュウさんに勝つには!
魔力を10籠めて、相手の魔力を1000消費させる!そんな攻撃方法だと進言しましょう!!」
「んな馬鹿みたいなことができるってのかい!?」
「できますよ?──私の鉄、なら。」
「は??」
「つまりはこう!!」
棒人形ちゃんの槍を、角棒人形君の頭にぶち込む形に移動させる。
「私の鉄は魔力を弾く性質が有ります!
この謎能力の使い道は魔法への防御に非ず!相手の魔法防御を貫通させる攻撃に有り!!
どんだけ魔法で硬化した皮膚だろうが、皮膚は皮膚!金属なら貫けるは道理!異常な回復魔法が有ろうとも、“目玉か喉を貫かれて生きてた奴は居ねぇんだよ!!”理論です!」
「!?(無茶苦茶なこと言ってるねぇ!?)」
「!?(恐ろしいことを力説してやがる!?)」
「と、まあ…。実際にする気は有りませんが、魔力0でも魔力1万を倒すことが可能であると証明しました。
もちろん!ダリアさんがやりたいのは殴り勝つことで殺すところまではいかないでしょう!
そこで私が提案するのは、この謎能力の鉄を棍棒の先端に取り付けましょう!って話です。」
「…槍に改造すんのかい?」
「いえいえ。単にその先端部分でシリュウさんの頭とか胸とかを叩き突けば、相応にダメージを与えることができるんじゃないかと。何度も突き込む必要はあるでしょうが。」
「…、呪いの鉄で?」
「はい。呪具の棍棒を使っていたダリアさんだからこそ、この提案をしています。嫌ですか?」
「そこまでじゃないけどさ…。効果あんのかい?」
「なら、実験。
ダリアさん、腕を…左腕を出してください。」
半信半疑といった感じだけど、指示には従ってくれるダリアさん。
「こちらが私の鉄。そして、こっちが角兎から作った鉄。これを腕に向かって同じ強さで叩きつけます。ダリアさんは腕を硬化させて、なんなら痛覚の軽減もできるならしてください。」
腕輪の中から鉄の塊を取り出し変形させながら、机の一部を分離させて同じ様に形を整えていく。
やはり体験してもらうのが一番だろう。
「あいよ…。」
「なら、いきますよ?まずは普通の鉄から。」
それなりの力で魔獣鉄の棒を振り下ろす。
ガキン!!と人の腕とぶつかったとは思えない音が響いた。
「むしろ、私の手が痛い…。
…どうですか…?」
「どうもこうも普通だよ。」
こんなあり得ないことが普通とか…。これだからびっくり人間どもは…。
「んじゃ、次は私の鉄でいきます。覚悟してください。」
澄ました顔のダリアさんの腕を目掛けて、同じ様に振り下ろす。
ガン!
「っ痛ぇ!?」
うん。これが普通。
「すみません。とりあえず回復魔法は普通に効くので、どうぞ。」
「回復させる程の怪我はしてないよ…。しかし、これもまた…。」
「まあ、〈呪怨〉そのものではないですけど、その謎能力は宿ってますからね。なんだかんだ。」
「魔力の効果の上から殴れる、ってのか…。確かにシリュウにも効くとは思うけどさぁ。そう上手くいかないよ?」
「シリュウさん、近接面の戦闘力も普通に凄そうですもんね。
そこで!魔力は身体強化に使って、棍棒を的確に当てる為の必殺技を考えるんです!それを実現する為の機能を棍棒に組み込むんですよ!
例えば──」
机の上のダリアさん人形を鉄操作を使って構えを変更し、鉄を追加してジオラマ風に周りの物を作り出す。
「こんな風に!棍棒を軸に竜巻を生成!それを横に伸びる形に構えます!
風の噴出させての魔法による遠距離突き!これなら直撃するなり回避されるなりしても相手の体勢が確実に崩れるでしょう!そして、格好いい!
そこから棍棒の先端を物理的に当てる二段構え!!」
つまりはス○ライク・エア!!からの斬り込み──じゃない、突き込み!
人形を使って実際の姿を想像しやすくすれば、集中力が上がって効果も上がる!魔法はイメージが大事!
「こうやって必殺技として重要場面でのみ魔力を使うのが最大効率だと申し上げます!私の鉄の威力を体験すれば相手は嫌が応にも警戒して──」
「(この子、変な思考に入って止まらないね…。)」
「…。(戦闘馬鹿のダリアを引かせるとか、ある意味快挙だな…。)」
「つまり、ダリアさんの目指すべきスタイルは──」
2人を置き去りにして、私のアニメ知識による戦闘指南が続くのであった。
次回は24日です。




