13話 騒動一段落
スティちゃんの超絶看病を受けること3日目。
熱はだいたい下がったっぽい。
体温計無いから不便だね。まあ、有っても何故か魔導具だから私は使え──
「お姉ちゃん。集中!」
「あっ、うっす。」
「返事はちゃんとするのが礼儀でしょ。」
「そ、うだね。ちゃんといただきます。」
完全に立場逆転したな。
まあ、おかげ様で卑屈な気持ちも落ち着いて、冷静に話できるようになったけど。
今は鉄テントの中でスティちゃんに見張られながらスープを飲んでいる。
あれから、スティちゃんが家のベッドに私を連れて行こうとしたり、服を着替えさせて体を拭いてくれようとしたりしてきて大変だった。なんとか阻止し続けたけどね。
あのベッドじゃあぶっちゃけ私が辛いし、素肌を見られることだけは回避しないとね。
テントを大きくして、中に鉄の簡易スプリングベッド的なものを作って、貰った布や猪の毛皮なんかを敷いて寝ることでスティちゃんにご納得いただいた。
そんなスティちゃんの横では、アクアがぽよぽよと飛び跳ねて、「遊んで」アピールをしてる。
飲み水のことを説明するのに紹介せざるを得なかった。かなり普通に驚いてたね、あの時のスティちゃん。
まあそらそうだ、こんな生き物居ないもんね。こっちの世界のスライムって、灰色や茶色で不透明なドロドロの粘菌みたい奴で、某RPGの青いぷるぷるとは似ても似つか──
いかん、ちゃんと食べよう。
「ご馳走さまです。」
「はい。良かったです。」
「…まあ、その色々ごめんね? こっちから拒絶しといて面倒かけて。」
スっと目が細められる。やばっ。
「感謝してるって意味でね!おかげで元気だよ!ほら!ね!?」
「病み上がりに暴れないで。」
「はい…。」
村の様子もだいぶ落ち着きを取り戻したらしい。ほとんどの人がいつもの仕事に出ている。
あの角兎達に関しては、北に隣接してる別領地の疫病騒ぎが原因だとか。街1つが新種の病気で混乱しており、魔物も動物達も周辺から離れる動きをしてるみたいで、その玉突き事故の影響が出た、と領主サイドは判断しているそうな。
もしかして、私の熱ってその疫病? と心配したがそんな症状のものでも無いらしい。
ほんとかなぁ…? まあ数日で治まる熱程度で街が混乱する訳も無いか。
ともかく領主は追加の人員配置を決めた。
戦闘力のある部下がしばらく後に来るみたい。それまでの短期的繋ぎとして冒険者達が先に派遣されるとか。山は1度見て回ったけど漏れもあるかもだし追加の魔物が来ないとも限らないからね。
ま、どのみち潮時だな。
いやこれは言葉の使い方を間違えてるか。とりあえず、そろそろ行こう。
冒険者には、できれば会いたく無いし。
山賊顔さん達は心配そうな渋い顔してたけどね。まったく良い人達だよ。
感謝の気持ちとして鉄の槍をいくつか渡しておいた。
しっかりした武器があれば、また角兎が出てもどうとでもなるだろう。領主サイドの人達が回収したとしても、まあ私が触れてなければ変形しないし、ただおかしな性質を持った鉄でしかないから問題無いだろう。
山賊顔さんには鉄ナイフもあげた。角兎の毛皮は普通の刃物じゃ切れず放置してあるらしい。いや、もしかしたら疫病に感染してるかもだから調査の為にそのまま保存されるかもだけど。肉食べれないのは、もったいないけどね。
スティちゃんは納得出来てなさそうだけど特に何も言っては来なかった。その代わりこうして最後まで一緒に居てくれてる。
「スティちゃんは本当に何も要らないの?」
「料理とか調合はレイおじさんのところで出来るし。小刀とかはお父さんがちゃんと準備してくれるって。」
「そっか良かったね。」
「それに。お姉ちゃんの鉄って量少ないんでしょう? また旅するなら多い方がいい。私にはあの文字板、あるから。」
勉強の時に作った50音表を大切にしてくれるらしい。ちゃんと加工したもんでもないから普通に錆びるかもって言ったんだけどね。
「スティちゃんが看病してくれてだいぶ元気なったからね。余裕あるんだな。なので!」
私は手のひらに拳大の鉄塊出して、ぐにぐにと形を変える。何か記念品でも餞別にあげよう。
モデルは…とりあえずアクアでいいか。
頭の中のイメージを手の上の鉄に流し込んでフィギュアを作る。
2本の手をうにょうにょ伸ばしたポーズのアクア像が現れる。台座付き。中は空洞にしたからけっこう軽い。
「これをどうぞ! まあ思い出の品的な?」
あら? スティちゃんは微妙な顔してる。
姿形はそっくりだけど鉄色じゃ気持ち悪かったかな?
アクアそのものがダメだった?
「色は鉄色しかないけど、形はいくらでも変えれるよ? 何か別のにしようか?」
あ、アクアが触手をバシバシ床に叩きつけて抗議してる。
「…お姉ちゃんがいい。」
「え゛っ? いや、自分で自分を作るのはハードル高い…。」
「お姉ちゃんと一緒に居たいよ…。」