128話 竜骨の棍棒
「これ!アタシの髪かい!?」
「ザッツライト!その通り!…です!
ダリアさんのキラキラ髪を鉄に混ぜて、武器の表面に魔力回路を形成する様に配置した物がこちらになります!!」
「…!!」パクパク…
ダリアさんの新たな武器になる予定の、竜骨の棍棒。
その握り部分の鉄には印が刻まれ、紋様が走っている。この橙色と緑色の魔力回路は、ダリアさんのキラキラ髪を切り刻んで粉にしたものを混ぜた鉄で構成されているのだ。
自分の魔力の結晶を組み込んだから、かなり親和性が高い媒体になっているはず。握りの中心には魔法の杖よろしく、残りの髪の毛を全て入れてもいるしね。
まあ、実際に魔力を流して上手く機能するかは未知数だけど。
「いやぁ、散髪した後、切った髪を気にせずにお風呂に入ってくれたからびっくりしましたよ。エルフの髪はとても貴重で物によったら高価にもなるのに。
だから片付けの時にきっちり回収しておきました!!」
「いや、アタシの髪とか、そんな価値…!?」
「“髪は女の命”ですよ?大切にしないと。」
「シリュウ!?焼いて処分してくれなかったのかい!?」
「…。どうだ?自分の魔石で意味不明な物を作られた気分は?言い様のない感情が湧くだろ?」
「て、手前ぇ…!!」
シリュウさんが謎の煽りをしている。フィギアの件で溜まった鬱憤を晴らしてるのかな?
「やっぱり、お気に召しませんか?」
「いや!ちょっと、ねぇ!?」
「気に入らないなら処分しても良いですよ?ほとんどの部分は魔獣鉄だからシリュウさんの火力で焼却できると思いますし。」
「はあ!?!?」
「おい、テイラ?わざわざ作ったんだろう?そんな簡単に言うなよ。」
「いえ?別に一晩程度の作業時間ですし、魔法発動の媒体とか私には無価値ですしねぇ…。どうでもいいですよ?
自分の髪の毛を勝手に使われるのが気持ち悪い、ってのも、大いに理解できますし。」
「…。あの鉄人形と随分扱いが違うな…。」
「作品じゃなくて、これは魔法関係ですからね。」
「…。(線引きが分からん…。)」
「ちょいと…。ちょいと時間をおくれ…。」
──────────
ダリアさんは私が作った武器をどうするのか、じっくりと検討したいらしい。
とりあえず、骨と握りを合体させた棍棒の前でウンウンと頭を悩ましている。
「やっぱり気持ち悪かったですよね~。物に髪の毛を仕込むとかいかにも呪い!って感じですし。」
「…。そうか?そんな印象は無いし、今更じゃないか?」
「ですかね~?」
「…。しかしよく出来てるな、アレ。素材はともかく作りは本格的だな?」
「まあ、ちゃんと刻印や紋様に沿った形にしてますから。
私には魔力の流れとか見えないんで、実際に使えるかは知りませんけどね~。」
「…。アレ、俺の土魔石も使ってるよな?」
「ええ。やっぱり分かるんですね。」
「まあ、な。自分の魔力くらいは、な。」
「ダリアさんの橙色の髪が量が足りなくて。だからシリュウさんの砂魔石でも補助になるかと思い、組み込みました。
あと、ダリアさんの魔力と、骨に染み込んでるシリュウさんの魔力とを仲立ちする役割も期待してます。」
「…。なるほどな?」
「同じ土属性でも、他人同士ですから反発するはずですからね。それを魔石同士が段階的に緩和してくれるかな、と。ダリアの手、ダリアさんの魔石、シリュウさんの魔石、そして骨。こうすれば多少なりとも操作力が上がるかもな、と。」
「よく一晩で作ったな?」
「作業時間的にはもっと短いですよ?やっぱり鉄操作で頭の中のイメージを投影できるから、魔獣鉄でも割りと形にするのは楽ですので。」
「…。(なかなかの作業だと思うが。)」
「それに実を言うと別の物を作るのに時間かけてまして。」
「…。(嫌な予感がする…。)
何を作った…??」
シリュウさんが引きつった顔をしている。
「そんな警戒しなくても大丈夫ですよ~、
……シリュウさんは。」
「ダリアに対して不味い物を作った、ってことか…?」
「ちょいと。人が悩んでる時に怖い会話してんじゃないよ。」
ダリアさんがこちらを振り返って、軽く睨んでくる。
「いやぁ、シリュウさんのフィギア作ったら不興をかったでしょう?
だから公平に?、ダリアさんフィギアも作ったんですよ。」
「「!?!?」」
「見ます?」
「何してくれてんだい!?!?」
「見よう。」
「おい!シリュウ!?狂ってんのか!?」
「何言ってんだ。ここは公平にいくところだ。お前も恥ずかしい目に会え?」ニタリ
「バッ!?それは話が別──」
「こちらになりま~す。」パカリ
握りのついでで作ったダリアさん人形をお披露目する。
「ア、アタ、…っ!?」プシュー!
「小さいが、なかなかちゃんと出来てるじゃないか。」ニヤニヤ
「いやぁ、肌の色に苦労しました…。シリュウさんのは橙色に灰の白を混ぜてなんとか再現できましたけど、ダリアさん色黒ですからねぇ。鉄の黒だと強過ぎて…。
最終的に外の砂粒を混ぜました。色味がばらつき多くて大変でしたよ…。人形の髪はそのまま短い髪の毛を植えて──」
「だらっしゃあああ!!」
ドゴン!!!
ダリアさんが奇声を上げて、机の上に置いてあるフィギアを殴り飛ばした。
そのまま壁に激突して凄い音が家の中に響く。
「まあ、そうなりますわな~。」ドキドキ…
「はあ!はあ…!」ぷるぷる…
「ダリア、酷いことするな。せっかくの人形なのに。」
「うるっせえ!!」
「少しは俺の気持ちも分かったか?」
「だあああ!表出やがれ2人とも!!」
「嫌ですよ。ダリアさん人形はネタで作っただけなんで、お好きに処分してくれたら良いです。だから私は戦闘しません。」
「上等だ!ボコボコに砕いてやるよ!!!」
ダリアさんが壁際に向かおうとする。
が、それよりも早くシリュウさんが人形を拾い上げていた。
「一応壊れてないな。鉄で良かった。」
「ごらあ!!それを寄越しなあ!!」
凄い剣幕の「そいつをこっちにWA☆TA☆SE☆」だな。バ○サーカーソウルが発動しそう。
「ダリアも俺の人形持ってるんだから、俺もこれを持ってて良いだろ?」
「なあああ!?正気かい!?」
「人形を持って悦に浸ってたお前が言うな。」
「あんたはアタシに興味ねぇんだろうが!!ごらあ!!」
錯乱して随分悲しいセリフを吐いてるなぁ…。ちょっと泣きが入って聞こえる…。
「人形を取り出せば、しつこいダリアも黙るだろ?ダリアの夫とか娘に見せ──」
「──だらっしゃあああ!!!」ブン!
「はっ。」クンッ
ドゴン!!
シリュウさんに突っ込んでいったダリアさんが軽くあしらわれて、轟音が再び響く。
これは不味いな。ちょっと外に逃げるか。
シリュウさんは余裕綽々の顔で、ダリアさん人形を片手に抱えている。
「ぶっ潰してやらあああ!!」
ブチ切れたダリアさんが竜骨の棍棒の掴み上げ、そのまま振り回しはじめた。
強力な突風が家の中に吹き荒れる!
身体強化!全力離脱!!
ドゴゴゴゴン!!
ゴイン!!ビュアアアアア!!
ふむ。シリュウさんはニヤついた顔のままだったし、多分大丈夫だろう。ポジティブに考えれば、あの棍棒の試運転ができている、とも取れる。
でも、あの家、耐えるかなぁ…。中のテントはお釈迦かなぁ…。
岩の陰に設置した緊急避難用の鉄テントの中から、見守るしかない私だった。
次回は18日予定です。




