127話 新しい武器よ!
アーティファクト作りの話をした後、ダリアさんは晩ご飯も食べず早々と自身のベッドに引っ込んでしまった。
やっぱり武器が作れなくて落ち込んでるのかな…?
「あいつもテイラに悪いことをしたと思って、距離をおいただけだろう。気にするな。」
「まあ、そんなに気にすることでもないんですけどねぇ。〈呪怨〉の活用法がおかしい子ども2人の話なだけですから。」
「…。(自覚はあるのに、開き直ってるのが性質が悪いな…。)」
とは言え、魔法が使えなくなってることに一抹の申し訳なさはあるんだよなぁ。
やっぱり私が髪留めを介して世界樹の葉を発動したから、回復が不十分だったんだろうと思うし。
あんだけギラギラ光ってても、預かってるだけの私じゃ無理があった訳だ。
武器ぐらいはどうにかしたいけど。
「シリュウさん。第2プラン──アーティファクト以外でのダリアさんの武器作り計画、についてお話が。」
「…。一応、聞こう…。」
「いえ、割りと普通にちゃんとした計画なんですけど──」
──────────
「おはようございますぅ~…。」ふああ… ねむい…
昨日はテントの中で作業しっぱなしだったから、随分起きるのが遅くなってしまった。
テントから出ると、家の中にシリュウさんが居なかった。衝立の向こうの気配を探ろうと思ってたら、外から何かの音がする。
2人とも外で作業でもしてる…?
閂がかかっていない扉を開けて、青空の下に出る。
「シッ!」ブン! グン!
「」バシッ パン
「フッ!」ブン!
「」パパン
草原の中、シリュウさんとダリアさんが喧嘩していた。
いや、違う。
ダリアさんが素早く移動しながら殴る蹴るを繰り出して、シリュウさんがそれを綺麗に捌いている。
これは…組み手的な…?格闘技の練習…??
「起きたか。少しは寝れたか?」パシ フンッ
ダリアさんの拳や蹴りを、涼しい顔して受け流しながら質問を投げかけてきた。
どんだけ、余裕なんだ…。ダリアさんはマジ顔なんだけど…。
「おはようございます。ええ、それなりに寝れました。」
「そうか。少ししたらこっちもお。わるから。それから飯にしよう。」パシッ ガッ! フン フッ
「クッソッ!!」ブン ゴン!! シッ!
…。
シリュウさん、強ぇ…。格闘技もできるんだぁ…。
──────────
「身体強化はまずまずだな。総合的には前よりかはマシだ。」もぐもぐ…
「なんで対応できんだい…。あの出力の風魔法を織り交ぜた戦い方、初見だろう。」もぐもぐ
「…。やっぱり肉が入ると美味いな…。」もぐもぐ…
「…、」
シリュウさんはご満悦の様子。
本日のメニューは栗もどきコロッケ、ドラゴンミンチ入り、である。
昨日の夜、私が別の作業をしている間にシリュウさん自身が準備していたやつだ。
ミンチコロッケと言うにはあまりにも肉が少量だが、ふざけた美味さが栗もどきの甘さと良いバランスで調和している1品だ。
ゴクン
「単に、あの戦い方も他にやってる奴がいたからな。…。別に初見でもない。」もぐもぐ…もぐもぐ
「アタシは初めてやっただろう。」
「んなもん目で追えるんだから対応できるだろう?」ゴクン…もぐもぐ…
「けっ!!」ガツガツ ガツガツ
ダリアさんが自棄食いしてる…。
ドラゴン肉を使うと言いはじめた時はどうしたんだろうと思ったけど、単に食べたくなっただけだそうだ。
まあ、ダリアさんと私のことを気にしてくれたのかも、だが。この物言いを見てると本当にただ食べたかっただけかもね…。
「おい、ダリア。ちゃんと味わって食え。」
「食ってるよ。苛つくくらい美味いよ!」ケッ!!
ダメだこりゃ。
──────────
「あんな少しの肉だけで、腹が膨れるのは良い料理だな…。」
しみじみと呟くシリュウさん。
まあ、幸せなら良いんじゃないかな?
「アタシはちょいと外を走ってくるよ。」
早々に動きはじめるダリアさん。
体を動かして、鬱憤を晴らすタイプなんだな。
「テイラ。出来たか?」
「あ、はい。一通りは。」
「そうか。
──ダリア。渡すもんがある。こっち来い。」
「…、なんだい?改まって。」
渋々といった感じに戻ってくるダリアさん。
「お前に武器をやる。」
「あ?」
「アーティファクトではないですけど、現状で出来る物としてはなかなかだと思いますよ。」
「あんたらが作ったのかい…?」
「俺は素材を提供しただけだ。とりあえず、これだ。」
シリュウさんが黒の革袋から、茶色く太い棒を取り出す。
「…、これ、骨、かい?」
「ああ。岩竜の太股の骨だ。」
つまりは大腿骨だね。
どっからどう見ても完全に恐竜の骨の化石です。ありがとうございます…。
ほんと。シリュウさんはパナイっすわ~…。
もしかしたら入ってるかもと質問した辺り、私も大分染まってきたよね~…。
「まぁた、えげつないもん出してきたね…。」
「イーサンと3人で倒した奴だ。少しは馴染みがあるだろ。」
「アレかい…。アタシとヒゲジジイは何もしてないだろ…。」
「逃げずに戦ってただろ。誇れ。
これなら棍棒に近いから、あの武器よりは上手く使えるだろ?」
「いや、握れないだろ…。太過ぎるよ…。シリュウの魔力が染み込んでて空中に浮かべるのも一苦労だよ、これ…。まだ細いところを掴めた金剛砕の方がマシだよ…。」
「そこはテイラが加工している。安心しろ。」
「はい!まずは見てもらってから、許可が出たら握りの部分を取り付けますね。」
「…、何の許可が要るんだい…?」
「ちょっと、ダリアさんの物を無断で使用してるんで…──」
「…??(アタシの物??)」
私はテントの中から徹夜して作った鉄塊を持ってくる。
私にはちょっと重いので身体強化を発動するレベルだ。
「これです!」
「…!?!?」
「…実物見ると、話を聞いてても驚くな…。」
橙色と緑色の幾何学模様が入った鉄塊である。
金属バットの下半分がちょっと太くなった、くらいな大きさだ。
ドラゴンの骨と接合する部分は、予め型を取ってあるから、後で骨を挟み込んで固定したら完成である。
これがあれば太い骨も振り回せるだろう。
「ダリアさんに合わせて魔法を発動する媒体にもなる様に工夫してみました!
骨の硬さを操作できる『固体操作の刻印』を、魔力伝達を手助けしてくれる『流入の紋様』状に配置!
応用すれば硬さだけでなく欠けた部分を修復もできるかも知れません!
この辺りには『突風の刻印』をセットしたので、装備者の意思に合わせて風を起こすことも可能です!
さらにこの刻印はいくつかあるので、骨から風を噴出させて、振り回し易くもできたりするはずです!!
どうでしょうか!」
「これ…、これ…!?」
「はい。」
ダリアさんがわなわなと震えている。
「橙色と緑色!アタシの髪かい!?」
次回は15日予定です。




