126話 詫びと魔鉄
「王手。」
こっちは角が効いてて、そっちの道は龍が塞いでて…、ここに歩を置いても馬と銀で取り合って──
「………。参りました…。」
「これでアタシの5連勝…。なあ、テイラ?あんた弱過ぎないかい?これ、あんたが作ったんだろう?」
「暇潰しになるかと再現して作っただけで、得意なものじゃないです…。」
とりあえずの作戦として、ダリアさんと将棋で対決してみた。これなら直接殴ったり斬ったりなんてことにはならないから安心安全である。
まあ、ルールを知ったばかりのダリアさんにここまで負けるとは思ってなかったけど…。
「上手いな。知ったばっかでよく動かせるもんだ。」ギシギシ
グリップで握力を鍛えながら、ずっと横から眺めてたシリュウさんが誉めている。
「こんなもん普通だろ。」
「流石に長生きしてるだけはあるな。」ギシギシ
「…、闘るかい?」ゴゴゴゴゴゴ!
おいおい、死ぬわ。シリュウさん。
ダリアさんの背後に怒りの炎が見えるんですけど。火属性に目覚めそうな勢いですよ。
「ショーギなら付き合うぞ。今ので上手い手も学んだし。」
「表出ろって言ってんだよ!!」
「今のダリアじゃ勝負にならん。」
「知るか!その頭カチ割ってやるよ!!」
「ダリア。本気で止めとけ。」
「うるせぇ!」
立ち上がって怒鳴るダリアさん。これは表で戦闘だな。
「──魔法、ほとんど使えねぇんだろ?」
「…、」
「え…?」
シリュウさんが衝撃の言葉を放った。
ダリアさんも真顔になって黙り込む。
「シリュウさん?ダリアさんの右手の呪い、世界樹の葉で回復してないんですか…?」
「回復はしてる。元通りとまではいってないようだが。」
「…!!でも、お風呂場で、ご自分の髪乾かすのに風魔法っぽいの使ってましたよ…?」
「俺の感知力じゃ確信は無いが、魔力放出量が半分以下になってるはずだ。他にも不都合はあるだろ?」
シリュウさんに見つめられたダリアさんが、どすんと椅子に座る。
「まあ、そうだね。」
「だから俺と戦うのは──」
「ごめんなさい…。」
思わず謝罪の言葉を口にしていた。
「なんて顔してんだい。これはアタシの馬鹿やった結果さ。テイラは謝る必要なんか無いよ。」
「でも、私の〈呪怨〉──」
「金剛砕で殴り殺そうとしたのはアタシだよ。
それにあの回復で、ほら。右手は普通に動いてる。ちゃんと回復しているさ。」
右手を開いたり閉じたりしてみせてくれる。
確かに右手も他と同じく動かせる様だ。違和感はまるで無かった。
「でも、魔法が…。魔力回路が、壊れたところ、体内で、回復してない、んですよね…?」
「そうみたいだね。」
「具体的にはどんなもんだ?」
「…、体の右側での魔力放出はほぼ無理だね。構築が全然練れない。」
それ、魔法使いで言えば半身不随になった様なものじゃ──
「でもね!魔力操作の精度はむしろ上がってんだよ!風魔法もかなり強化されてる!あんな世界樹の欠片に触れたからね!今まで使えなかった魔法が使える様になってるはずさぁ!」
新しいおもちゃを手に入れた様に笑っている。
無理して笑ってる訳じゃなさそう、だけど…。
「そうは、言っても…。」
「気に病む必要は無いって言ってんのに。
──そうだ。なら詫び代わりに、武器作っとくれよ!」
「武器ですか…。」
フィギアを作る時に、あの呪具の代わりになる棍棒とかも候補にはあった。
まあ、渡したらそのまま攻撃してくる未来しか見えなかったのでボツった訳だが。
今は落ち着いてくれてるし、魔法力の不足を補える物が必要だよね…?
「鉄で剣とか槍とか…。それともやっぱり棍棒ですかね?」
「そうだね。どうも剣は馴染まなくてねぇ。身体強化は使えそうだし直接殴れる──
良いこと思いついた!あんた、アーティファクトを作れるんだろう!?それでアタシ専用の武器を作れないかい!?」
「え゛っ?!?」
「ダリア…。お前、何滅茶苦茶言ってやがる…。」
「なんだい?言うだけならタダだろ?」
「そんな気軽に異常アイテムを増やそうとすんな。」
「はっ!呪具に比べりゃまともだろ。」
「〈呪怨〉を利用してることに変わりないだろ。それにテイラの負担を考えろ。血を失うんだぞ。」
2人が私を見る。
「あっ、えっと…。ごめんなさい。無理です…。」
「謝る必要は無い。」
「そうかい。無理強いする気はないよ。」
「力になりたいとも思いますし、えっと私の負担ってほどのものでもなくて──」
「テイラ。この馬鹿は無視しろ。」
「今日は随分言うじゃないか。」
「だったら、まず馬鹿言ってる自覚を持て。
俺にだって武器を壊した自責くらい有るんだよ。テイラを巻き込むな。」
なんかまた険悪な雰囲気に…。
「あの!今はアーティファクト、作れないんです!!」
かくかくしかじか、まるまるうまうま…
「──つまり、アーティファクトを作るには、誓約の条件“心から互いに信頼できる相手”が必要で、今は居ないから無理…ってことかい?」
「はい。その通りです。」
「…。」
「…、訳の分からん話だね…。なんだってそんなことになったんだい…。」
「いや、まあ、正確に言うと順序が逆でして。誓約を結んだ後に分かったことなんですよ。親友の血と混ぜて鉄にすると、何故か自ら魔力を放つ金属──私達が「魔鉄」と名付けた謎の物質が出来てしまうって…。それを素材に作ったのがアーティファクトで…。」
「…、(またややこしいね…。)」
「…。なら、その誓約はなんで結んだんだ?」
「親友の奴が、“いざと言う時に呪いをいっぱい使える様にしておくべきよ!その為にも回復魔法で血液を増やせる私を対象に入れておくべき!”って豪語しまして…。」
「…。話を聞く限り、テイラ以上に狂ってる奴だな。毎度毎度…。」
「まあ、あいつの柔軟な思考と開き直り方を参考にして、今の私が在りますから。ある意味私の先生的な、模範にした面は多々ありますね~。」
「「((それは参考にしたら駄目だろう…。))」」
2人してジト目で見てくる。
まあ、呆れられる生き方だとは思うけど。これが私達だ。
「まあ、話は分かったよ。アタシじゃ信用できないってことだね。」
「いや、まあ…。と言うより、この世でその条件に合う奴なんてレイヤ以外に存在しないだけなんで…。ごめんなさい。」
「謝るべきは無茶言ってるダリアだ。」
「いやぁ、自分が色々ひねくれて疑り深いだけですから。すみません。」
「…。」はぁ…
「…、なあ、テイラよ。シリュウじゃ駄目なのかい?」
「へ…?」
「信頼できる相手ってことならシリュウも当て嵌まるんじゃないかと思っただけさ。気安い関係に見えるしね。」
…。
シリュウさん、か。
「ダリア。流石にその質問はどうかと思うぞ…。」
「だから気になっただけさ。悪かったね。」
「テイラ、気にするな。」
「まあ、もっともな質問ではありますし…。
それに…。レイヤ以外で頼れる人、って意味では、アクアの次点でシリュウさんが来るっちゃ来るんですよね。」
「…!(これは、シリュウの魔力の武器が作れるかい…!?)」
「シリュウさん。これは単なる質問で、無理に答えなくていいんですけどね?」
「…。ああ。」
「──私に呪われる覚悟は有りますか?」
「──。」
「!?」
ダリアさんは驚愕の顔をしているが、
シリュウさんは真っ直ぐに私を見返している。
「魔鉄を創るのも、〈呪怨〉をかけることに変わりはありません。
レイヤの奴によれば、自分の魔力とか、言葉にしづらい深い部分が削られる感覚もあったらしいです。
どんなものが出来るか不明で。自分を犠牲にしてまで。ダリアさんの武器になる物を作りたい、そういう覚悟は有りますか?」
「…。無いな。」
「ですよね。安心しました。私も、シリュウさんを呪いたくはないので。」
「…。」
「この誓約は私自身が、きちんと納得して相手と意思を統一してないと成立しない様なので。
どのみち無理ですね。」
「そうか。…それでいい。」
「はい。」
血をくれた、レイヤのおかげで完成したのがアーティファクトだ。
私が生きる為に、相手に犠牲を強いる。
この事実を私が受け入れて、相手に寄りかかることを覚悟する必要がある。
気軽になんか、扱える訳がない。
次回は12日予定です。




