122話 お風呂準備
カシュカシュカシュ カシュ…
カシュ… カシュカシュ…
シリュウさんの立体パズル操作音を聞きながらのお昼過ぎ。
私は、新たに手に入れた顔料を見つめていた。
かなり使用に躊躇する赤色と橙色だが、一応活用を考える。何せシリュウさんの革袋の中にまだまだ大量にあるらしいからだ。
小さな砂粒状態とは言え、シリュウさんの魔力が宿っている魔石であることは違いない。
料理のアイデアは湧いてこないが、遊び道具方向の活用ならまだワンチャンスあるはず…。
赤とオレンジ…。戦隊モノのリーダーが乗るロボットかな?なんかこう…主人公色だよね。
赤とオレンジのロボット…ガ○ガイガー?
鉄の黒を足せば──ダメだ。肩の新幹線部分の青が無い。
そもそもアニメを見てない人に、そのロボット合金とか渡してもなぁ。あれを漫画にするのもかなりキツそう。
つーか、もっと他に思いつく物ないのか、私…。
子どもの頃、家でずっとテレビ見て大人しくしてたけど、どうも普通の女の子が見ない物ばかりに惹かれてたからなぁ…。ロボットアニメとか見まくってたよね。ガ○ダムとか特に。
プ○キュアとかも初代の白黒を微かに見た覚えはあるが、多分興味が湧かなかったんだろうなぁ。ストーリーをまるで思い出せない。
まあ、鉄で作る分にはひらひらの衣装よりは武骨なロボットの方がまだ作り易いかな~。
シリュウさんに合う、赤色と橙色の物…、イラスト…、遊び道具…。
「ん?待てよ?
逆に料理に使える可能性を探れるか?」
ここにあるのは火の魔石だ。単純に火炎を出しても良し。電子レンジみたいな加熱操作をしても良し。
調理器具になる…かも…?
電子レンジは食材内部の水分子を、外部からマイクロ波って電磁波でぶつけて振動させることで分子運動を生む。原理を再現するなら、むしろ光魔法と水魔法の領域かもなぁ…。
火と土で調理するなら、焼き石か?
熱した石を鍋の中に入れて瞬間加熱。確か火山岩みたいな熱に強い石を使うんだよね?
魔石そのものを加熱するのは…、
いや、そもそも砂粒だから…、
土属性魔法で加熱用の岩を作り出す必要があるか。
シリュウさんの属性と合うけど、この砕けた魔石じゃ岩を生成するには魔力が足りないか??
魔石は魔法を使えば中の魔力が減ってしまう。魔力を溜め込む性質はあるが、魔力を生産してる訳では無いからだ。要するに魔導具の電池が切れる。
だが、ここには大量魔力供給源が居る。
シリュウさんの革袋の中で、枯渇した魔力を再充填すれば何度も使える魔導具に…、なるはずだよね?
カセットコンロに新しいガス缶を接続する様なものだろう。もちろんシリュウさんの強大な魔力に耐えれる設計にしなければならないが…。
それが問題すぎる、か。
でも、太陽熱の鉄板焼きみたいに天候で左右される以外の、調理が出来る様になるのでは…??
家の窓から外を見る。なかなかの曇り具合だ。
太陽熱調理もできないので、今日のお昼も出来合いの物で済ましたくらいだ。
やはり単純に火が出るのが嬉しいな。薪が必要ない、魔力で動く魔導具のカセットコンロ、つまりは魔導コンロ。
完成したら夢が広がるよね。
「ふうむ…。」
魔力操作はできない私だが、魔石を「火炎を吐き出す」魔法刻印の形に配置することはできる。はず…。
漫画やパズルよりは余程有意義だろう。ちょっと攻めてみる──
「ふぅー…。(なかなか没頭できる…。)
…。テイラ?どうかしたか?」
「いえ。ちょっと天候と料理に思いを馳せてました。」
「この空だからな。多少は暑さもマシになるから助かるが。」
「ですね~。」
太陽熱を溜め込める魔石とか有れば便利なのに。
いや、それは森林火災がフィーバーなヤバい土地が出来るか。
「…。少し雨も、降るかもな…。」
「雨ですか。
雨…。…。あ!雨水!
シリュウさん!雨いつ降ります!?」
「なんだ?何かあるのか?」
「ちょっとお風呂の水を確保しようかと!」
「…。ん??」
──────────
しとしと… しとしと…
「ふん、ふん。そんなに強い雨じゃないけど、多少は溜まるか。」
鉄の家の横に作ったタンクを見上げ、様子を伺う。
この家の屋根に降った雨を、設置した雨樋を通してタンクに流れ込む様にしてある。
どれも即席だけどなんとか形になってるね。
ずっとお風呂に入りたかったが、タイミングがようやく巡ってきた。人力車の移動中だとそんな時間取ってもらうのは申し訳なかったからねぇ。そこら辺に水場もなかったし。
埃とかのゴミも混ざってるだろうけど、お風呂で使うなら問題ないレベルだと思う。
あとは雨が止んだ後、太陽熱がどれだけ確保できるか、だな。
このまま天気が悪かったら、明日の晴天時に沸かすことになるかも知れない。ダリアさんも起きてるかもだし、入ってもらえるかも。お風呂でリラックスすれば色々余計なことも忘れる可能性はある。
それはそれで丁度良いかも。
「…。なあ…、わざわざ溜める意味あるのか?」
「ん?何か不味かったですか?」
「いや、風呂の量くらい、水精霊が出せるだろう?」
「ああ…。確かに普段、体を拭くのに仕方なく利用してますけど…、あんまりやりたくないんですよ。」
「魔力の限界なんて無い様なもんだぞ?あいつがその気になれば町1つ賄える分は出せる。」
「…え?アクア、そんなに魔力あんの…?流石の精霊様…。
──じゃなくて。単にこれは私の感情の問題ですね。」
シリュウさんが不思議そうな顔をしている。
「アクアの水って、私からしても凄く美味しいし、お腹を下すこともありません。そんな素晴らしい貴重なものを、体を清めるのに使うのがもったいなくて。」
「…。分からんでもないな…。確かに料理に使ってくれる方が助かるが。」
「それにアーティファクトの力で、非魔種の私でもお風呂要らずで生活できてますから。ほとんど趣味みたいなもんなんですよ。
アクアの力を、そんなことに使うのは止めておきます。」
「…。そうか。」
さて、タンクに水が溜まるまでアイデア整理のシンキングタイムと洒落込みますか。
次回は31日予定です。




