121話 立体パズルと顔料
「おはようございます~…。」ふあぁぁ
「…。おう。」カチッ
テントから家の中に出ると、シリュウさんが将棋盤とにらめっこしていた。
昨日寝る前に、漫画と同じ要領で将棋の駒を見易くなる様に改良してみたのだが。どうやらシリュウさんはその後ずっと、自分対自分で将棋をしていたらしい。寝ないとはいえ良くやるよ…。
「シリュウさんも、もの好きですねぇ…。」
「…。そうか?」
「一晩中将棋を指すとか、どこのプロ棋士ですか。」
「…。(…ぷろ騎士?)
単純に頭を使い続けるから、暇が紛れて有り難いが。」
「…まあ、ならいいですけど。」
この世界のゲーム盤とか、持ってなかったのかな…?
「相手陣地に入ると強化するの、やっぱり面白いな。特に角の“猪”が強い。」
「ああ…、それですか。」
実は、駒を作る時に裏面の文字が分からなかった。
確か飛車の裏は龍王だったと思うけど、角の裏がさっぱり思い出せなかった。なーんか複雑で読みづらい漢字だったと思うのだが…。
それに、それ以外の駒も金に成るとそれぞれ異なる字が書いてあった気もする。
なので、日本の将棋をやってる方々には申し訳ないが駒の裏面表記を適当に設定させて貰った。
具体的には、飛車の裏は「龍」のまま、角の裏を「猪」、それ以外の裏は全て「と」にしている。
角の裏は、角繋がりで角兎でも良かったんだけどね。龍と対を成すには力不足だと判断した。
「別に理解できて楽しめるから、大丈夫だぞ?」
「そう言っていただけると幸いです…。」
──────────
うーん…。
これがここに引っ掛かって…。
ここを接合して…、
良し良し。こんなもん?
朝ごはんを軽く頂いた後は、暇潰しゲーム作りである。
今、作製しているのはル○ビックキューブだ。
昔どういう訳か壊れたやつが家に有ったんだよね。
バラバラになったパーツを延々と弄くり回してたから、そこそこ構造を覚えてる。
中の球体部分と、外の立方体部分を分けてから融合させて…、繋ぎ目を段違いにもちゃんと出来た…。
バラバラにならずに回る…。けど、動きがかなり硬い…。
構造はオーケー。摩擦が強過ぎ。遊びが無さ過ぎたな。
ってことは、多少ゆとりを持たして──
上手くいったら、軽くする為に中の鉄を減らして──
鉄を形態変形させれるから、かなり微調整が簡単だね。
まあ、こんなもんかな?
手で普通に回るくらいになったか。
流石に回転軸用のベアリング作るのは違う気がするしな。
「シリュウさん!ルー…、いや名前変えるか。固有名詞っぽいし。…、立体パズル、完成しました!」
「…。また毛色の違うものが来たな。鉄の箱か?」
「これはこんな感じで、各面が回るんです──あ!!色付けてない!いや、6色も付けれない!どうしよう!?」
「落ち着け…。とにかく落ち着け。」
ぐおお…!!構造を作れる様に集中し過ぎて根本的なこと忘れてた…!
色が無いと面を揃える意味が無い。このままでは変な動きをする置物だ…!
いや、モノは完成した。色くらいどうにか…!どうにかなるはず…!
「シリュウさん。シリュウさんは砂、出せます?」
「…。なんだ急に?」
「いえ、これに色を付けたいんですけど、鉄の黒・灰の色の2つじゃ足りないんですよ。だから灰を混ぜた要領で顔料になるものを考えて…。赤色の砂とか、青色の砂を土魔法で出せたりしないかな…、と…。」
「…。悪いがそんな魔法は使えない。」
「そうですか…。」
「土魔法は足下の地面を多少変形させるくらいしかできん。足場が崩れない様に硬化させるだけなら、広範囲を掌握できるんだが。」
「いえ、無理を言ってすみません。むしろ砂出してたのはダリアさんですね。」
「…。あいつは砂の生成が得意だったが…。現状、どの程度魔法が使えるか不明だ。そもそも変わった色の砂が出せるかは分からんな…。」
「分かりました。ありがとうございます。ちょっと別の道を考えてみます。」
んー…。要は各面が識別できたら良いんだ。
…。そうか。色じゃなくて文字でも彫れば…、黒に灰色文字ならなんとかなるか…な?
基本4属性の記号に○と✕を足せば6面をカバー──
「テイラ、これ使うか?」
シリュウさんが黒い革袋に突っ込んでいた手を、私の方に見せてきた。
「ん??」
シリュウさんの手のひらには、キラッキラの赤い砂?がたくさん乗っている。
なんか、もの凄く、綺麗…。
…。この見た目、もしかして…、これ…。
「魔石…!?!?」
「ああ。これなら色になる──」
「何考えてるんですか!?!?暇潰しのおもちゃごときに魔石使うとか!?」
「…。これは俺の魔力に耐えられなくて砕けた滓だ。魔石としては利用できん代物だから、使えるなら使ってくれ。この中に結構有るから。」
「いや!?そりゃ見た目は石じゃないから、魔砂とでも言うべき別物なんでしょうけど…!?」
確かに魔導具に動力として嵌め込んだりとかはできないんだろうけども!?
「土の魔石もそこそこあるぞ。橙の色もいける。」
「まさかの倍プッシュ!?」
「…。実は。闇属性の魔石も有るんだが、数が少なくてそれに色を付ける程の滓は無い──」
「シリュウさん!ストップ!ストップです!もうお腹いっぱいです!?」
──────────
結局、火と土の魔石を、とりあえず使ってみる形に押しきられた。
闇属性の魔石は、聞いたことがないレベルの激レアだし量も無いしでお蔵入りである。そのまま出てくるな。
火と土の滓は、元々が綺麗でも鉄の黒と混ぜたら汚なくなる可能性もある。むしろ、そうであって欲しい…。
まあ、シリュウさんの持ち物なんだし、本人の許可が有るから私が気にするものでもないのかもだが…。
…。
とりあえず作業しよ…。
シャラシャラ…シャラシャラ…
サラサラ…サラサラ…
赤色や橙色のキラキラ砂を、鉄の篩にかけてキメ細かい粉を分離させる。
そして、出来たキラキラ粉を私の鉄に混ぜて、形態変形の力でグニグニと粘土の如く撹拌していく。
グニグニ… グニグニ…
…。
割りとマシな発色しとるやんけ…。
キラキラが下地の黒に勝っとるがな…。
これは…利用できてしまわれますか、神よ…。
むしろ“神は死んだ”な…。
…。無理やりに前向きに考えるなら…。
もしかすると魔導具が作れるかも知れない。
アーティファクトを作った時と同じだと考えれば、火属性と土属性の魔力回路を構築できる気がする。刻印や紋様の形に配置して魔力を流し込んで…。
まあ、1度砕けてる訳だから、シリュウさんが魔力回路繋いだらまた壊れる可能性は高そうだ。
誰か知人に譲る物になるか?
まあ、それを考えるのは今は止めよう。
…とりあえず、2色確保…できてしまった…。
魔石って、下手な宝石とかより価値あるはずなんだけどなぁ…。
ゴリゴリゴリゴリ…
現実逃避気味の私の耳に、追い討ちをかける音が届く。
シリュウさんが鉄の臼で色の素材を作る音だ…。
良く知らない(むしろ知りたくない)、爬虫類っぽい緑色の皮?とか大きな青い鱗?を粉砕している。
きっと何かの魔物素材なんだろう。貴重なものでないことを祈るしかない…。
これで追加の2色も、多分ゲットだぜ…。
──────────
「ほお…。」カシュッカシュッ
「ウマイデスネ…。」
青色と緑色の発色は魔石滓のものに比べると発色はそこそこ悪かったがなんとか区別できる程度の違いは出た。
6面に色が付いた立体パズルは、それなりに気に入って貰えたらしい。
まあ、うん。
新しい娯楽が完成して何よりっす…。
下地が黒の鉄に発色の良さを求めるのは間違いと言うもの。
次回は28日予定です。




