119話 魔法特性
「へぇ~。火と闇の特性融合に加えて、土と闇の特性融合も…。凄いですね~。」
「…。俺からすれば。意識せずとも使える力だ。褒められたもんじゃない。耐性無視の異常な破壊力で、魔力回路を繋いだものは尽く壊れる。
むしろ、特性を分離させて単一で使える様に訓練した程だ。」
漫画を読んだ後、シリュウさんと魔法適性の話をしている。
シリュウさんが出してくれた温かい料理を、適当につまみながらゆるゆると時間を過ごす。
「はぁ~、面白いですね。シリュウさんに備わってる、そもそもの適性が何か別の…。基本属性ではない、上位の概念ってことですね。」
「…。なんでこの話をすんなり理解できるんだ…。」
「そらぁ、勉強しましたから。エルド島で…。」
魔法特性とは、魔力を扱う上で重要な概念だ。
簡単に言えば、連想ゲームで魔法効果を増幅する理論のことである。
『火』と言えば『熱い』『明るい』『掴めない』『赤色』、『土』と言えば『硬い』『塊』『粒々』『茶色』。
そんな性質を理解していると、頭の中の想像がより強固に・鮮明になって魔法が上手くいくのだとか。
そして、特性融合とは、より複雑な魔法操作を可能する技術のことである。
水の『液体操作』と、土の『固体操作』を同時起動すれば、液体の金属「水銀」を思いのままに操れる的な話だ。
どこぞの渦巻き忍者に出てくる血○限界みたいな感じだと、個人的には理解している。
シリュウさんは、『火』や『土』みたいな単一属性をそれぞれ持っているのではなく、属性『水銀』って感じの強力な概念が根幹に存在しているのだろう。
「でも、火と土と闇を内包する概念…?何だろ…?ん~…。」
「それは──」
「ストップ、シリュウさん。ちょっと当ててみたいです。考えてみます。クイズです。クイズ。」
「…。(訳の分からん奴だ…。頭が良いのに、性格が歪過ぎる…。)」
私がこの世界で手にした、数少ない力が魔法の知識だ。なんとなく当てたい。
「シリュウさんは火属性は使えるけど、吸熱とか熱操作は出来ず、発熱しか使えないって言ってた…。
土属性は、なんか地面を均すところしか見たことない…。いや?身体を硬化させてるのがメインか。角兎の角に負けない頑丈さ。
闇属性は…黒炎。単一だと…、闇…、闇の特性…。…関係してそうなのは…。睡眠…??」
「…。(高等魔法使いばかりの中で非魔種として生まれりゃ、歪むのかもな…。)」
「光と闇は、内包してる特性がかなり多いから、特定難しいんだよな~…。闇の特性…。
…。
隠蔽。深度。遍在。睡眠。暗黒。
暗く、見えない内側。夜の闇…、世界に広がり掴めないもの。ん~…。シリュウさんに関わってそうなのはやっぱり、睡眠をほとんど取らない体質…くらいしか知らないなぁ。
シリュウさんの特徴から攻めてみよう。
…。
ご飯好き。お酒好き。割りとのんびり。…。特級冒険者。ドラゴン肉。砂糖。…。黒髪黒目…?だからなんだと…。黒い角兜…。悪魔の角…?いや?こっちに悪魔は居ない。居るのは魔族…。
…。
黒い…革袋…。ん?バカみたいな量が入る、異常なマジックバッグ…。…ブラックホール??…宇宙…?
宇宙…宇宙…。暗黒、天文、星々…。重力…はちょっと違うか?」
「(…!?)」
「発熱と…、硬い岩…、星…。星のエネルギー…。
──マグマ??」
「…。何だ…?」
「あら、違ったか。良いとこいったと思ったんですけど。」
「いや、何かが分からん。“まぐま”?」
「あ!そうか。日本の言葉か。えっと、こっちで言うと…。
溶岩…は火山から外に出たやつ、で…。」
「!?!?」
「マグマ…、マントル…、エルフの言葉だと…『星の鼓動』だっけ?
直訳するなら“星の心臓”?…は、“核”か。
心臓の周りに有る、ドロドロした液体だと…“星の血液”??
中二臭いか?翻訳合ってるかな?シリュウさん伝わり──」
「──」
あ、なんかヤバい。
シリュウさんが本気のドン引きしてる。
「あ、えっ、と…。とりあえずごめんなさい…!」
「──」
「………。」メソラシ…
ヤベェ…。化け物に怯える様な目でガン見してくる…。
完全に地雷踏んだか…。
単に暇潰しのお喋りしていたかっただけで、何も他意はなかったのだが。
とりあえず、どうしよう…。
「──本当に。面白い奴だな…。」
はぁ…、と息を吐き、そう呟いたシリュウさん。
いつも通りの感じになった…?セーフ、かな…?
シリュウさんを窺うと、良く見る呆れ顔をしていた。
ギリギリ許してもらえたみたい。
「ほんとにごめんなさい…。ズケズケと心の柔らかい所に踏み込む様な真似をして…。」
「…。かなり驚いたが。まあ、事実だ。気にするな。」
「いえ、調子に乗ってました。すみません。」
「…。俺は“溶岩”の化身だ。それを理解しておけばいい。」
「それは…、なんか…違う様な──」
「“溶岩の精霊”が体の中に居るみたいなもんなんだ。
──本当に、ただの化け物なんだよ。」
シリュウさんの根幹が、精霊…。
「私は〈呪怨〉持ちの劣等種ですし。シリュウさんは冒険者として、真っ当に生きてらっしゃるから、全然大丈夫ですよ!」
「…。大丈夫じゃないだろ…。俺より境遇がおかしい奴、早々居ないぞ。全く…。」
「…。お褒めに預かり、恐悦至極?」
「…。不毛な会話だな…。」
「ですね。話題変えましょう。」
よし、いつもの感じだ。
「では戻って…、漫画。どうでしたか!?」
「…。そう言えば、それがこの会話の始まりだったな…。」
「ですね。」
「俺が勇者なんてもんになってるのは、神経を疑うが、」
「それはまあ、ごめんなさい──」
「まあ、読み物としては新しいから良いんじゃないか?」
「合格ですか。」
「否定も何も無い。絵は独特なのに人の特徴を表してるから誰か分かるし、誰が言葉を発してるか一目で理解出来るんだから、ちゃんと読める。」
「成立はしてる、と。」
「ああ。…。内容はどうかと思うが。」
ふむふむ、そこは今後の課題だな。
「ともかく。漫画自体は一応成功。しかし、時間かけた割に量は描けないから娯楽としてはコスパ悪いな。とは言えアシスタントなんて居ないから速度が上がる訳も無いし…。」
「…。分からんが無理はしなくて良いぞ。一応は楽しめたし。」
「まあ、何か別の娯楽でも考えてみますかね。」
灰を使ってイラスト描くのは一応出来るって分かったし。
次は何をするか…。
次回は22日予定です。




