118話 闇色の炎と突然変異
「どうでした…?」
「…。………。」
私の漫画を読んでくれたシリュウさん。
読み終わって、鉄のページを閉じてからずっと沈黙している。
理解しようと内容を咀嚼してくれてる最中かな…? やっぱり伝わりづらい話だったか…。
「姫様役のセラティーさんは、スティちゃんの伯母でして、とってもお世話になったんですよ~。
私にとっては聖女様みたいな方で、あの作業村に行く切っ掛けなので実質シリュウさんとの縁を繋いでくれた大恩人です!
シリュウさんには知らない人だけど、姫様に設定してみました。」
「…。別に姫が誰になろうと、どうでもいい………。」
とても疲れてそうな声を出すシリュウさん。
はて? そんなにダメージ入る内容だったかな?
魔王と戦う勇者パーティーって言う、こっちにも馴染みそうな王道物語だったはずだが。
「あの村のガキとまとめ役の男が登場してるのも、好きにすればいい。ウカイの人格がテイラにこんな風に見えてるのも構わない。ダリアが魔王なのも、まあいいだろう。」
シリュウさんが私を見つめる。
咎められてる感じかな…??
いや、非常識を非難する時の顔…かな??
「──なんで、俺が、光の勇者なんだよ…。」
絞り出す様な声で、そう言った。
「なんか不味かったですか…?」
「不味いも何も…。有り得んだろう…。テイラにはどう映ってるんだ、俺は…。」
「ムカデ女…〈呪怨〉の化け物、を倒して。騎士と協力して国を守り。私にご飯をくれる。強くて優しい冒険者──
に、見えてますけど…?」
「…。」はあぁぁ…
盛大な溜め息を吐くシリュウさん。
「テイラは…、俺の黒炎を見たよな…??」
「コクエン…? …黒い、炎…かな? ダリアさんとの戦闘で使った闇色の炎です?」
「…。ああ。なんでアレを覚えてて、
俺を『光』に当て嵌めるんだ…。」
「漫画だから分かりやすさ重視で、敵を魔王で闇にしたから主人公は勇者で光に──」
「そう言うことじゃない…。」
「勇者にしたのがダメでしたか。ごめんなさい…。」
「…。(違う…。いや、思うところはあるが。)」
シリュウさんは何か思い悩む様に目を閉じて、頭をガシガシと掻く。
「──黒炎は…闇属性の…特性を、火属性の火炎に混ぜた、特殊な魔法なんだよ。」
「へぇ~! 闇属性との特性融合ですか。それはレア…珍しい、ですね。」
「…。意味分かってねぇだろ…。普通、闇属性ってのは──」
「魔族が使う、魔法属性ですね。」
「…。そうだ。」
「むしろ闇属性に適合するのが、魔族。とも言えるレベルです。
千年前の大戦で『旧魔族』は滅び、今では──『夢魔族』が使う魔法属性。人間やエルフにはほとんど使い手が居ないもの。
いやぁ、それを他の属性と同時起動とは流石のシリュウさん。改めて特級冒険者だと実感しますね~。」
「…。なんで理解しててそんな軽いんだよ…。」
「な~に言ってるんですか、シリュウさん。そもそも私は〈呪怨〉持ちですよ?
闇属性の魔法が使えるからって、人にどうこう言える立場じゃないですって~。」
「…。こんな破壊だけにしか使えない力なんざ、〈呪怨〉と大差無い…。」
「基本4属性の魔法だって破壊力は抜群ですし、そこまで深刻でもないでしょう?」
岩の塊でも、強烈な突風でも、当たれば死ぬことに変わりはない。非魔種の私からすれば全て凶器だ。
「あの黒炎の性質は深刻なんだよ。アレを直接見て何も感じなかったのか? 魔力が分からないとか関係ない代物なんだが。」
「それこそ漫画みたいでしたね。邪○炎殺黒龍波とか、う○は一族の写○眼とかみたいな、全てを焼き尽くす地獄の炎…って感じでした…!
戦闘中でしたがちょっとテンション上がりましたよ! なんかすげぇもん見れてる~!って。」
「……。……。……テイラに…『普通』を期待したのが間違いだった………。」
「ザッツライト!その通り!」
「…。」はあぁぁ…
軽口を言ってみても、深刻さは変わらないか。
ほんとに気にならないんだけどな。
「溜め息ばかりついてると幸せが逃げるそうですよ?」
「…。」スッ…
シリュウさん、無言の手刀の構え!!
「ちょっ、暴力反対! それは完全に八つ当たりです!?」
「…。(その通りだが。釈然としねぇ…。)」
図星だったのか、手刀を下ろしてくれた。危ない危ない…。
ここは話題を少し逸らすか。
「それに闇属性を扱える奴が身近に居たからそこまで忌避感は無いんですよね。」
「…。あ…?」
「親友の奴、闇属性魔法が使えましたから。」
悪いな、レイヤ。ちょっとバラす。
「…。本気で言ってるのか…?」
「ええ。かなり規模は小さかったですけどね。目眩ましの黒い霞を出したり、隠蔽の特性を操作して漏れ出るオーラを感知されにくくしたり、くらいですが。」
「変なエルフだな…。本当に氏族出身か疑うほどだぞ…。」
「由緒正しい一族の生まれなんですけどね~。まあ、本人も色々苦労はしつつ、『6つの属性全部使えるとか凄いよね!?私、世界統一王に成れるかな!?』とか言えちゃうお気楽おバカでしたけど。」
レイヤは闇属性の因子を持っていたから、大長老の未来予知の範疇に居なかったんだろう。夢魔族の血なんて全く入ってないのにね。
光魔法まで一緒に使えるんだから、エルフに現れた突然変異種だったのかも。
狭い島の中で千年間、エルフとは言え外との交わりがほとんどなかったから「劣性遺伝」──類似する形質同士で代を重ねて血が濃くなった為に、通常は表に出ない性質──がたまたま現れたのか。
ま。正しいことに魔法を使えてるなら、それで良いと思うけど。
「だからシリュウさんも。今まで色々大変だったのかも知れませんけど、闇魔法が使えることで私は邪険したりしませんし。
これからも恩返しのなんやかんやが、できる様に努めてまいりますとも。」
「…。もう…、好きにしろ…。」
優性遺伝・劣性遺伝は現在では「顕性遺伝」・「潜性遺伝」と呼び方が変わっているそうです。
性質が優劣を持っているのではなく、発現し易いかどうかが分類的に重要だという名称になってます。
主人公はそんな変更が日本で起こる前に亡くなっているので、そんなことは知らずにいます。その辺り、ご了承願えれば。




