117話 漫画の内容
「シリュウさん。溜め込んでる灰、少し貰ってもいいですか?」
「元々テイラのだろ。どれくらい出す?」
「とりあえず、入れ物1つ分いただければ。」
「分かった。…。これもマンガに使うのか??」
「ええ。文字ならともかく、イラストは鉄の黒一色だけだと無理なんで。灰の白めのところをなんとか使えるかな、と。」
「…。なるほどな。」
「トスラに居た頃なら、白い貝殻を焼いた貝灰が綺麗な白色を出してくれたんですけどね~。今あるもので代わりになるのは、焚き火の灰の色かな。」
スープを取った後の骨を使うことも考えだが、止めておいた。
骨だけどそこまで白くはないし、漫画から臭いがするのも嫌だ。
焼いたら色も臭いもマシになるかもとは思うが、そもそも昨日使った分は早々に土に埋めて処分してもらったので、回収するのが面倒過ぎる。
私の鉄を液体状に変化させながら、灰の粉を相当量混ぜて白っぽい感じの金属塊を作っていく。
それを絵の具代わりに、形態変化させつつ鉄筆の先に掬い取る。
そしてハンダゴテを押し当てるが如く、鉄板に刻んだ線に沿って灰色鉄を乗せ、定着させていく。
不純物があるから形態操作がかなり難しい。ゆっくり慎重に。
黒い下地に、灰色の線を描いていく。
カッ カッ カリカリ…
練り練り… 乗せ乗せ…
カリカリ… コッコッ
コッコッカッ… カッカッ
トーン各種を手描きとか漫画黎明期かよ、って話だよね…。半分、点描画だわ…。
このシーンで粒々(つぶつぶ)を描くの、止めよ…。
ツイッツイッ… 乗せ乗せ…
スイッスイッ… カリカリ…
ふぃー…。ちょっと休憩…。 こくこく…
展開は決まったけど、後半の構成が微妙だな~。もうちょっとシンプルにするか。
ゴリゴリゴリゴリ…
シリュウさんは荒い小麦粉を挽いている最中だ。
あんなに大量に使っているのにまだまだ出てくる。いったいどれだけ溜め込んでいるのやら。
この音をBGMにして頑張りますか!
続き、やろ~。
ゴリゴリゴリゴリ…
カッカッ… 乗せ乗せ… ツイッ…ツイッ…
──────────
「良し!良し!こんなもんでしょう!」
うん。白黒のコントラスト加減とか、色々気になる所はあるが、まあ読める代物にはなったか!
8ページくらいの短編読み切りだけど、なんとか半日くらいで終わったね。
知り合いを参考にしてキャラの外観設定を簡単に済ましたのが、功を奏した形だな。
「完成か?」
「はい! まあ、なんとか! 形としてはギリギリ漫画になってます。
──あとは、内容が面白いかどうかですけど…。私が即興で考えたオリジナルなので、諦めてください。」
「…。まずは読んでみよう。」
「……。どうぞ。」
私オリジナルの初・異世界漫画だ…、どこまでいけるか…。
──────────
4つの人影が、禍々(まがまが)しい城の中を駆けている。
荘厳な巨大扉を、剣から発した光の斬撃で両断する、白い角兜の少年。
──来たぞ。魔王ダリア。
──ようやくお出ましかい。勇者ぁ!
勇者一行は、黒い鎧を纏った巨大な女魔王と対峙する。
──姫は返してもらう。
──あんたらがちんたらやってる間に、たっぷり魔力を吸わしてもらったよ。戦えない奴にしちゃ、なかなかの味さね。
──ゆ、勇者、さ、ま…。
──セラティー姫、今しばらくのご辛抱を…!
──さあて! 楽しませておくれよ!!
魔王の周囲から大量の砂が現れ、勇者一行を襲う!
──させない! ハイパー・アクア・ショット!!
千にも及ぶ水球が魔法使いの少女の両手から展開された。
玉座の間に満ちる程の量だ。
砂が水に取り込まれ、泥になり地面に落ちる。
──あんたの砂嵐は!私の雨が洗い流す!
──…、それでアタシを上回ったつもりかい?
──!! スティ!!
少女の眼前に、突如魔王が出現する。
振り下ろされた鉄塊の様な腕を、勇者が剣で受け止めた。
──ぐぅ…!
──ぬるいねぇ…、勇──
──正拳突き!!
魔王の横手から、赤いオーラを纏った格闘家の男が殴りかかる。
男の拳が、魔王の脇腹に突き入れられた。
魔法使いを抱えて勇者は後退し、格闘家もすぐさま後方に下がる。
──ふうん。人間にしちゃ良い拳、持ってるじゃないかい。これは勇者以外も楽しめるかもねぇ♪
──完璧に入ったはずなんだが…。くそっ、化け物がっ。
──助かった、レイ。
──ありがとう、レイおじさん。
──なんの。姫を助けるまでは、言いっこ無しですぜ。
勇者の剣が煌めき、格闘家の拳が唸る。
魔法使いは砂を牽制しながら、2人に補助・回復魔法を掛け続ける。
魔王の体や鎧に無数の傷が生まれるが、すぐさま修復してしまう。
──ハハハ! 3人がかりとは言え、そこそこやるじゃないか!
──シャイン・スラッシュ!!
──回し蹴り!!
──アクア・ヒール!!スピード・アップ!!
──そらそら! どうした!その程度かい!?
勇者と格闘家の攻撃を適当に防御しつつ、反撃を繰り出す魔王。
2人は全力で回避しながら連携して攻撃し続ける。
身の丈の差で、子どもと遊んでいる親の様に錯覚してしまう。
(攻撃魔法は相殺してるのになんで余裕なのよ!?)と内心動揺している魔法使い。
──姫の、光回復魔法か!
──その通りさ! 今あんたらは愛しの姫と戦ってる訳さね!
──卑怯者!!
──複数でアタシをっ!シッ!! 攻撃してるあんたらも同類だね! ──!?
突然、魔王の動きが止まった。
バッ!と玉座を振り返る。
立体魔法陣に閉じ込めているはずの姫の姿がなかった。
──姫、なんと麗しい…。
──え…? あ、貴方は…??
──しがない盗賊でございます。貴女を盗みに参りました…。
サングラスをかけた怪しい優男が、玉座に縛られていた姫をいつの間にか解放し、勇者一行の側に現れていた。
──ウカイさん!! 姫様に何かしたら「水球百発・顔面の刑」ですからね!!
──このアタシの感知を掻い潜っただと…?おかしな気配の奴だね…、あんた人間かい?
──勇者一行、影の支配者とはこのわた──
──水拳チョップ!!
──ぎぃにゃあああ!?!?──フッ!残像だ。
魔法使いが放った攻撃を意味不明な挙動で避ける優男。
──よくやった、ウカイ。
──あとはお願いします、アニキ。
勇者が剣を強烈に光らせて魔王と対峙する。
──魔王。決着を付けよう。
──姫とアタシのパスを切った程度で、調子に乗るんじゃないよ。
──わ、が、願いで、降、臨せよ! 聖域…!
疲労困憊の姫が、周囲に光の聖域を張る。
仲間達の傷が癒え、魔力が回復していく。
とは言え、ほとんど魔力が枯渇した状態の癒しでは全快には程遠い。
──勇者シリュウの名の下に!ここに集え!仲間達の絆!
姫の聖域の繋がりを介して、
魔法使いの青、格闘家の赤、盗賊の灰、それぞれの色のオーラが勇者の下に集まる。
勇者の体から様々な色の粒子が立ち上ぼり、聖剣からは眩い白光が迸る。
──矮小な人間どもの力を合わしたところで無意味なんだよ!! 喰らいなぁ!魔王・地獄拳!!
魔王の動きに合わせて、どす黒い巨大拳のオーラ塊が勇者に迫る。
──エターナル・シャイン・斬!!
──ぐうううああぁぁぁぁ!!!?
勇者の放った一撃が、拳のオーラごと魔王の体を両断した。
それだけに留まらず、後方の玉座と共に魔王城の一部分が消し飛んでいた。
──た、とえ、アタシを倒しても第2、第3の魔王──
──シャイン・斬!!
──ぐぅ!?まだ話──
──シャイン・斬!!
──ぎゃ、あ…、ぁ…──
勇者に細切れにされた魔王は黒い粒子となって消滅した。
──やったぜ! アニキ!
──警戒しろ! 消滅を、偽装してるか、もしれない…!
息も絶え絶えに、注意を怠らない勇者。
仲間達はそれぞれの方法で、周囲を調べる。
──魔力、異常無し! 魔王城に淀んでいた魔力は次第に減少中!
──生き物の気配はねぇですぜ。
──大丈夫な感じですよ? アニキ。
──…そうか…。思い過ごしなら、良い…。ここを直ちに…離れる…!
──了解!
──姫様、私の手を──
──姫は私の水球に座ってもらって運びます! 軟派男は勇者様を!
──仕方ないっすねぇ…。
──先行する。残りの敵は任せてくれ。
勇者は頼もしい仲間達を見つめて、ようやく勝利を実感するのだった──。
おわり
黒地に灰色線のイラストとか、見れるものになるのだろうか…。
作者なのに不安しかない。




