116話 暇潰しの娯楽
起きたら私と戦う気らしいおバカさんのことは一旦考えるのを止めた。
うん。寝てる間に色々忘れてるかも知れない。そうなってたら良い。
むしろ、忘れろ! ──忘れろ!忘れろ!忘れろビームッ!!
思考停止で適当ゴーゴー!!
そんな感じに心の中で折り合いをつけて、朝ご飯を済ました。
「さあて…。今日はどうしよう。」
怪我人が居るから移動はしないし…。
「シリュウさんは今日どうします?」
「…。肉を調達したいが、ここから離れるのは不味い。岩塩を砕いたり、小麦粉を挽いたりして過ごすつもりだった。」
「なるほど。
…ダリアさん、うるさくしたら起きるんじゃ?」
「危険が迫らない限り起きないから大丈夫だ。」
「睡眠の深さもコントロールできるの…?」
びっくり人間…いや、びっくりエルフここに極まれり、だな。
髪がキラキラしてるだけで姿形は人間と大差無いはずなんだけど。
「何かあるなら手伝うぞ?」
「特に計画も無いんですよね~…。ダリアさんが起きた後のことはその時考えることにしたし…。
何かお話でもします? それかトランプとか将棋でもしますか?」
「…。そうだな…。何か新しい遊びでもあればやってみたいな。」
「新しい遊び…、例えばどんな?」
「数日潰せる様な物が理想だな。ダリアは最低でも丸1日は寝るだろうから。」
「そんなにか…。いや、元々の怪我を考えればむしろ当然か…。」
四肢欠損してんだもんね…。回復に関係なく数日寝込むのが普通レベルだったね。
「ん~…。丸1日遊べる物と言われて思い付くのは…、人○ゲーム…もとい双六だな。作れるっちゃあ作れるかもだけど…。2人で1日やるのは…。
あとは桃○、マ○パ、ス○ブラ…。テレビゲームとかどうしろと…。」
「どんなやつなんだ?」
「そうですね双六はこっちにも似たのがあったと──」
──────────
「遊ぶ為だけの魔導具…。とんでもないな…。」
「まあ、衣食住が揃った先進国なんで、娯楽方面の力の入れ方はエグいかもですねぇ。」
「種類が豊富過ぎるな…。どんだけ暇なんだ。」
「いろんなものを好みに合わせて選べるだけですよ。」
「…。触れないのが惜しくなるな…。」
「んー…。魔導具の構築を参考にすればワンチャン、可能性も…。ディスプレイは光の魔導具と魔法板の応用で──」
「俺が触れたら壊れるから意味無いな。」
「…それもそうですね…。」
「魔導具は高価な素材を大量に使うんだから、遊びに使うのはどのみち止めとけ。」
「まあ、やっぱり時代はアナログですね。アナログゲーム…。」こくこく…
水を飲みつつ考える。
結構色々あるよね。
「遊○王、は作成するのが面倒過ぎ。トランプで十分。
TRPGは手軽だし、適当なストーリーも作れるけど…。剣と魔法の世界で何をロールすると言うのか…。」
「どんなのだ?」
「将棋の駒の動きみたいな、数十種類のカード効果が書いてあるトランプ──」
「よく分からん。作るの大変そうだな。」
「──登場人物に成りきって物語の役割をこなす感じです。やることは、探索と戦闘──」
「それはほとんど冒険者じゃないか?」
「…ですね~…。」
「──おはじき、めんこ、ベイゴマ、──」
「…。似たやつは見たことあるな。特に新しくもない。」
「──絵画、彫刻、漫画。作成可能ではあるけど、シリュウさんに馴染まないだろうな…。」
「マンガ、って時々テイラが言ってるやつだな。」
「こっちで言えば絵本とか、絵巻物…が近いかな…? えーと、吟遊詩人の物語に絵を付けた娯楽作品…、で合ってるかな?」
「…。想像しづらいな。
テイラには身近なのか?」
「…そうですね~。ライフワークだったと言っても過言では有りませんね。」
「どう言う意味だ?」
「えっと…、ある意味で私の人生、そのものでした。」
「そんなにか。」
「ええ。仕事…、正社員ではなかったけど…、あ、えっと…。
前世でも他の見習い仕事をしながら、漫画を描く仕事に就ける様に努力していた…。が近い表現かな?」
「“剣も槍も習得する”ってことか。」
異世界の諺だ。冒険者が良く使うやつ。意味は“二足のわらじ”が近いかな?
私の場合は“二兎を追うもの、一兎も得ず”になるけど。
「まあ、そんなんですかね。生きる為のお金を稼ぐ仕事と、やりたい仕事を叶える練習をやってた訳ですよ。」
ま。そんな夢ごと捨てた訳だけど。
「ちょっと興味あるな。見てみたい。」
「…マジですか?」
「…。なんか不味いか?」
「いや、私、漫画家に成れなかった素人でしたから…。満足のいく作品が出来るか不安で…。
それに絵本みたいなもんだから、大人が見る様なものでは…。」
異世界とは言え他人様の作品を描く訳にはいかないから、自分オリジナルの作品を書く訳だし余計に不安だ…。
「絵が描いてある本なんて、学者くらいしか持ってないと思うが。魔物や魔木の、図鑑だったか。それとは違うのか?」
「…ああ、そうか。そもそも本自体がそこまで手軽に買えるものじゃないから、そこらの子どもが持ってる訳無いか…。」
文字が書いてあるだけの本が一般的だったね。
絵本=子どもの読み物は、こっちじゃ戯れ言でしかなかった…。
「まあ、本だから紙とインク…、それとも墨か? が必要だろうし。無理強いする程でも無い。」
「いや、描くのは鉄板に刻むので、そこそこいけるかと思いますけど…。
む~………。
いや!いいや!
シリュウさん、漫画描きます。描かせてください。」
「…。大丈夫か?」
「ちょっと恥ずかしいですけど、シリュウさん相手なら、まあ…、いいかな、って思えるので。」
一目見たら満足して、それで終わりかも知れないし。うん!描こう!
異世界でも冒険者時代に、レイヤに鉄のイラストなら結構見せてたし。
なんとかなるっしょ!!




