113話 ぽよぽよ水精霊
「なん、で、こんな所に!? いや!? なんでこんな姿で!?
…ん!? …うん!?!?」
ダリアさんがぽよぽよアクアを見て大混乱に陥っている。
何事?
まあ、良いや。今のうちにアクアを堪能しよう。
膝の上に乗せて──
ぺちっ…
「あ、うん。頭の上が良いのね。」
触腕2本で○、と。はいはい。
ぽよぽよアクアを掴んで、頭の上に置く。
ここだと撫でにくいんだけどな。
貝殻無いから軽くて良いけど、髪留めの灯りが半分遮られてドームの天井が暗めの水色になってしまった。
「………。なんでこの子は、精霊を雑に扱って生きてんだい??」
「…。知らん…。」
「雑ですかね? 私の頭より上に置いてるから、むしろ上位者として崇めてるつもりですけど。」
「…、(それはないね。)」
「…。(それはねぇ。)」
────────────
「ともかく。この水精霊が料理に使う水を供給してるんだ。魔力が良いからかなり美味いし、俺の黒袋の中で放っておいても蒸発しない。さらに冷たいのも出せる。正直助かってるな。」
「…、(聞くんじゃなかったよ…。)」ズーン…
「…。(そう言ったろうが。まったく…。)」
「~♪」ぽよんぽよん…
アクアを頭に乗せたまま上下に揺れる。
アクアも上手く合わせてぽよぽよしている。
2人が沈痛な面持ちで見てくるが、またとない機会なので存分に楽しもう。
私達を無視して会話は続く。
「…、料理に使うのもこの子との関係も、この際一旦無視して…。
この方、激流蛇様だよね…?」
「水精霊は分霊だ、って言ってたが、な。」
「…、まあ分霊なら色々納得できるけどさぁ…。あの方にそんな存在が居たなんて初耳だよ…?」
「俺も知らんな。」
「あり得る、のかい?」
「俺らが知らないほど昔なんだろ。」
「確実におかしいだろ…。」
「…。考えたところで現実は変わらんぞ…。」
「………、」
「………。」
ふむ。2人共、黙り込んでしまった。
「シリュウさん。ゲキリューダって、アクアの本当の名前ですか?
それともアクアのお母さんのお名前ですかね?」
なんか濁音多いし強そうだ。こんなに可愛らしいのにね。
「…。どっちとも、合っていると言えば合ってるかもな。」
「…なるほど。精霊の生態ってなんか変わってるって言いますもんね。」
『精霊』はファンタジーのお決まりよろしく、本来は目に見えない、霊的な存在だ。
強い魔力を持ってるらしく魔眼とかで感知はできるし、声や幻影で意思を伝えることもあるそうな。
例え生物を象った姿に見えたとしても物質的な肉体は無くて、本質は魂みたいな、触れることのできない『何か』だ。
まあ、アクアは、ゼリーみたいなぷるぷるボディを持ってる変な精霊様だけど。
確実にスライムだよね。この世界にド○クエに居る様なモンスターは存在しないけども。
「分霊って…、雌雄的な、オスメスの概念の無い精霊が、その魂?を分裂させて増えた、ってことですよね?」
「…。そうだな。」
「なるほどなるほど…。生き物で言えば親子の関係に近いけど、元々は同一の存在であると…。」
うん。今までに聞いてた話に相違無し。
まあ、分霊って言われると、ハ○ー・ポッターが頭を過るけどあんな邪悪なものとは別であろう。
「アクアの大元ってそんなに凄い精霊なんですか?」
「…、」
「まあ…、かなり、な…。」
「ふぅん…。」ゆらゆら… ぽよんぽよん…
「…、(聞いちゃいないね…。)」
「…。(何を楽しんでんだ、水精霊の奴…。)」
まあ、アクアはアクアだ。
この付き合い方をアクア自身が受け入れてるんだし、私は今まで通りの関係を続けるとしよう。
「~♪」ぽよんぽよん…
「…。ダリア。分かっただろ? これはこう言『現象』だ。」
「…、(分かりたくないよ…。)」疲れた…
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ぽーん… ぷにん…
ぽーん… ぷにん…
「…。」げんなり…
「…、」げんなり…
現在はアクアをボールにして、1人トスキャッチ中である。
鉄のドームを家の天井くらいまで高くして、空間を確保してある。
シリュウさんによると、アクアは体を動かしたい気分らしい。
私の鉄の中なら魔力が外に漏れないから、上位の精霊らしいアクアも自由に動けるそうな。
ダリアさんももう質問する気分ではないそうなので、この機会に存分に遊んでおこう。
ぽーん… ぺちん…
アクアが体を動かすから、キャッチの加減が毎度変わる。
ドームの中も狭いしシリュウさん達も居るから、なかなか難しい。
ぽーん… ぽふん…
ぽーん…
「…。テイラ…、楽しいか? それ…。」
「ほっ。そうです…ねっ。アクアとの久々っ! の遊びですかっ、らっ!ねっ! と…。」
「そうか…。」
「ほいっ。お暇ならシリュウ…さんっ! だけでもドーム、っ。の外に出て、ほっ。出ますか? よっ!」
「…いや、必要ない…。
(今、鉄の覆いを外したら水精霊の全開魔力が外に漏れる…。これ以上の面倒はご免だ…。)」
ぽーん… ぱしん…
ぽーん… ぽふん…
ぽーん…
スカッ…!
「ふぐぅ!」ぼぶん!
受け損なったアクアの体が顔面にヒットした。
弾力のあるひんやりジェルが気持ち良い。
「いやぁ、今回はなかなか続いたねぇ。──まだやる?」
触腕をゆらゆらと…。
ん? 肯定でも否定でもない?
「『もう満足だ。別のことをしたい。』とよ…。」
「別…かぁ。何をしよう。」
アクアをバランスボールにするのは無理があるし、ビジュアルが虐待じみてて嫌だ。
とは言え、他のボール遊びも1人では限界だし…。
「シリュウさんを交えてキャッチ──」
「全力で拒否する!」
あら、断られた。
「そうだ。今なら言葉が分かるし、アクアがやりたいことあったら教えて?」
触腕をゆらゆらふりふり、と…。
「…。それなら、そろそろ殻に戻れ。それから出してやる。」
ゆらゆらふりふり…
「…。命令して悪かった…。もう十分だ…。」
何て言ってるんだろう?
シリュウさんが押され気味である。
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ドームから出た後はアクアと私で神経衰弱となった。
シリュウさんに渡してたトランプを使って2人で遊んでいる。
普段のヤドカリモードのアクアと机に並べた裏向き鉄トランプを挟んで対峙する。
ダリアさんとシリュウさんは、ベッドとその側から私達を疲れた顔で見ていた。
「これと…これ。これは…初見か。なら、これ。うん、外れるわな。
はい、アクアのターンだよ。」
ぱしん… ぱしん…
「お、当たり。」
アクアの触腕がカードを掴み、器用に裏返していく。
ぱしん ぱしん ぱしん ぱしん
「当たり。当たり…。」
ぱしん! ぱしん! ぱしん! ぱしん!
「ちょっ!? おかしいでしょ! そのペアは今まで1度も表に──」
ぱしん!ぱしん!ぱしん!ぱしん!
「ぎゃあ! いきなり負けたー!? なんかズルしてるでしょうー!?」
「」ゆらゆらふりふり~♪
「…。」
「…、」




