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11話 疫病神

 お風呂から上がって服を着ながらふと思った。


 今ならこのままとんずらできるんじゃない?


 なかなかに魅力的だ。皆の目に入らないルートあるかな?




 と思っていた時期が私にもありました。


 脱衣場から顔を出して様子を見れば、スティちゃんがそこにいた。少し泣きそうな顔で。


 これはダメですな、行動が読まれとる。多分レイさんに。

 あんの山賊顔め! 心配りが出来る上司だなぁ! もう!



 仕方無いから誤魔化しがてら、スティちゃんをお風呂に入れたよ。私は服着たままだけど。

 お湯に浸かるの事はあまりしたことないのか、びくびくしてたがまあ何事も経験ですよ。


 ついでにハロルドさんとレイさんの活躍を吟遊詩人風に語って聞かせた。私は全然活躍して無いよ!作戦、開幕である。




 ──────────




 さて、現在はすっかり日も落ちて夜。時計があったら19時過ぎくらい?


 食堂は珍しく灯りの魔導具を使って明るくしてる。

 夜の見回りや怪我人達の様子見等で数人は常に起きている状態にするらしい。

 食堂はその為の拠点とするそうな。火も常に焚いてるし、食事もどんなタイミングでも食べられるようにしている。 



 ちなみに私のお風呂はお湯も捨てて、鉄も全て左の腕輪の中である。


 私やスティちゃんの残り湯を、おっさん共に使わせる気は無いので。



 レイさんは紙や魔法板(まほうばん)に情報をまとめながら、皆に指示を出している。


 スティちゃんは皆がご飯を食べれるように小鍋でスープを温めたりしてる。自分は昼間何もしていないから寝る直前まで頑張るみたい。


 ハロルドさんはさっきまで食堂の机に突っ伏して仮眠してたそうな。あんだけ魔法使えばそりゃ疲れるよね。状況が安全だと確定するまで食堂に詰めておくつもりらしい。

 ちゃんと寝て、魔法が使えるコンディションにする方が重要だと思うけど。



 私は水を飲みながら待機である。


 はあ…、水、美味し。



 作業員達が代わる代わるレイさんのところに報告に来て、そのついでに私にお礼を言いに来る。


「皆さんが団結して戦ったからですよ。」「ハロルドさんもレイさんも凄かったですね!」と周りを持ち上げる返事をしておく。


 皆、私に感謝してくるんだもんなぁ、居たたまれない。


 あ、あの連絡役君だけは私のことを微妙な表情で見ていた。


 その感じで良いんだよ! 皆もっと私に邪険にしようよ! そして何も聞かずに村から追い出そうぜ!!



「だから自分の手柄は誇れって言ってるだろうが…。」


 疲れた感じのレイさんが声をかけてきた。



「角兎を追い回し、羽交い締めにしたレイさんに比べたら私なんざとてもとても!」


 首を振る私に、溜め息を吐く。



「今回のこと本当に、助かった。感謝する。」


 手を付いて額が机に付くくらいに頭を下げてくるレイさん。

 周りの皆も同じ感じで頭を下げる。



「…止めて下さいよ。本当に何もしてません。スティちゃんの依頼に応えただけですし。」

「俺1人じゃあ、1匹抑えるのが限界だった。ハロルドの奴も押し負けてたろう。確実に死人が出てたはずだ。感謝するに決まってる。謝礼だってきちんと用意する。」

「それこそ止めて下さい。何かしてくれるなら、私が助けた事実を報告書から消して下さい。」


 私は本心を口にする。



「あんたなぁ…。なんだってそう(かたく)ななんだ。」

「レイさんだって気付いてるでしょう?私のやったことはおかしいって。」

「それとこれとは別問題だろう?」



「私があの角兎達をここに連れてきたかも知れないのに?」 



 場の雰囲気が凍った。

 皆、困惑した顔で私を凝視する。レイさんは目を細めて睨むように言葉を続ける。



「あまりにおかしなことを言うな。あんたはそんなことをせんだろう。」


「何かを隠した怪しい女が、村に居着いて数日後、居ないはずの魔獣が現れて人を襲った。十分疑わしいでしょう? レイさんだって()()()()とは思ってないでしょう?」


「…あんたにここを襲う利点はねぇ。」


「そうですか? 実は隣国の工作員で領主の事業を失敗させる為に来たとか。レイさんに恨みが有ってリーダーを辞職させようとしてるとか。あり得そうでしょう?」 


「だが、助けたじゃ──」

「それこそ、皆の信用を得て深く入り込む為の布石に──」


()めなさい!!」


 ハロルドさんが大声で怒鳴った。

 スティちゃんが泣きながら私を見てる気がする。



 だが、私は、言いたいことは言う。 



「私は、疫病神(やくびょうがみ)、なんですよ。

 …今回はたまたま上手く(しの)げただけです。だから、早急にこの村を出ていきます。」


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