108話 相談の夜、翌朝の騒乱
鉄の家の中。
部屋の片側には、ドームの様な形のテントが置いてある。
もう片側には、テイラが用意した鉄のベッドに横たわる土エルフと、デッキチェアに座る少年が居た。
「手間かけたねぇ…。」
「…。気にするな、…と言いたいところだが。割りと本気で疲れたな…。」
「この足も歩けはすると思うんだが。」
「いきなり崩れて転けそうで怖い。」
「飛行魔法を使っても良かったんだがねぇ。」
「訳分からん風魔力がまとわりついたその状態で魔法を使うんじゃない。…死ぬぞ?」
「…大丈夫だと思うんだよ。」
「どの口が言ってんだ、重傷人。」
「初めこそ混乱したけどね。今は知覚が追い付いてきたのさ。」
「…。適当言ってないか? 実際のところはどうなんだ? …ダリアの魔力波長は乱れまくってる感じなんだが。」
土エルフが緑色の魔力凝縮体で構成された左腕を、ゆっくりと持ち上げる。
光る手の指を広げて、じっと見る。
力を入れれば関節が存在するかの様に曲がり、拳を握る。
「かなり感覚は異なるけど、これは本当に私の腕みたいだねぇ。右手はほとんど感覚は無いけど…、なんとかなる感じさね。」
「…。(なんとかなる訳、普通は無いが…。) まあ、呪いを食らった所は仕方ないな。考えるだけ無駄だし放置だ。」
「魔力の方は…土魔力を倍近く上回る風魔力が渦巻いてる感じさ。体調としてはそこまで問題無さそうだね。」
「…。土の方が多かったよな?」
「元々はそうだね。」
「俺の土魔力はやはり相性が良く無かったな。」
「いや、あの子の…、アレ…が常識外れ過ぎるのさ…。」
「…。それもそうだな…。」
「この魔力体、これからどうなるんだろうね…。」
「…。知らん…。」
2人分の溜め息が、鉄の家の中に響く。
「まあ、とりあえず生きてりゃなんとかなるさ。」
「…。だな。」
「なぁ、シリュウ。」
「…。ん?」
「アレ…、何なんだい…?」
「…。強力な魔石…。いや、ほぼほぼ『世界樹の欠片』、だろうな。」
「やっぱり、そうだよね…?」
「…。しかも風属性の、な。」
「…有り得るのかい…?
風属性の世界樹なんて、遥か南のエルド島に植わってる1柱だけだろ?
『欠片』が生み出されたなんて大層な話、聞いたことも無いんだが。」
「…。(テイラの場合…、有り得ると言うか…。…心当たりが有ると言うか…。)」
「それとも『世界樹』以外の…、あの子も口にしてた『アーティファクト』…、とかだったりするのかね…?」
「………。あれを入れていた、テイラの髪留めが…、アーティファクトではあるな…。」
「…あれが…。なるほど。大戦前のアイテムなら『世界樹の欠片』を安置する物としては格が釣り合うね。
…、
………、
なんで、そんな大層なものが、あの子の髪を束ねてるんだい???」唐突大混乱…!
「そのアーティファクトをテイラはあと3つ持ってるぞ。4属性それぞれで、な。」
「…は?」
「しかも、〈呪怨〉を利用して自分達で作ったらしいぞ。アーティファクトを…。」
「…何、馬鹿なことを言ってんだい…??」
「さらに言うとセル・ココ・エルドの出身者で、風の氏族と関わってもいる。世界樹の欠片に触れる機会はあるかもな。」
「は??」
「ついでに、テイラは非魔種で、呪い持ちで、その上、精霊憑きだ。」
「?????」
土エルフが宇宙猫の様な表情でフリーズする。
「…。もうそのまま、気絶でもした方が楽だぞ。
俺も、朝までじっと休む…。」
鉄製のゆったり椅子に寝転がるシリュウ。
(異世界からの転生は…、言うだけ無駄だ。理解したところで何になるでもなし。
朝になれば、戦闘が終わっていることを確認した近隣の連中が人を寄越すだろう。
砦に居た飛竜の騎士達も出ばって来る可能性がある。
今のダリアを他人と会わせるのも面倒だし、テイラは遅くまで寝るだろうから、対応するのは俺だな…。)
と、諦めながら目を閉じて、体だけは休息させるシリュウだった。
────────────
ゴン…! ガイン…!
「………むぅ…?」
ん~?何だろ…。誰かがテント叩いてる…?
「──。」
何か言ってる…。
鉄操作。テントの壁に空気穴を5つくらい作成…。
「──あんた。シリュウを助けておくれ。」
「土エルフさん…? おはようございます…?」
「もう昼だよ。いいから早く出てきておくれ。」
シリュウさんを助ける…?
トラブルかなぁ…?
髪だけまとめて、外に出よう…。
腕輪とアクアと…。
「おは…違う。こんに、ちは~…?」
「早く外に行っとくれ。」
テントから出るなり、土エルフさんが私を急かす。
鉄のスプリングベッドもどきに寝ている土エルフさん。その体は、掛け布団の様に大きな毛皮が覆い隠している。
割りと真剣な表情だから、大変な事態かな?
家の外は明るく、何か騒いでる感じの音が聞こえる。
とりあえず、ドアを開けよう。
家から出ると、シリュウさんが見知らぬ男達と揉めていた。
4人の冒険者っぽい奴らが、剣を抜きシリュウさんに向けて構えている。
「てめぇ!やりやがって!!」
「反撃は正当な──」
「待て!まずは距離を──」
「…。」
シリュウさんは男達に向き合う形で立っている。
剣の男達の後ろには10人くらいの男女が居る。風貌からして全員冒険者っぽい。
地面にうずくまる女性?とそれを介抱する人。シリュウさんを睨みつけつつ、離れて様子を見ているグループも居る、と。
何人かは私に気付いている。が、剣の奴らはシリュウさんに注意を向けたままだ。
「イラドのガキ!!なんか言えや!」
「攻撃はまだ不味い!」
「うるせぇ!!」
「…。」ユラァ…!
これはシリュウさんが、MK5とみた!!
バカかアイツ!? 事情が何か──
いや!後回し!
シリュウさんがこいつらを血祭りにあげるのを止める!!
鉄シンバルを形成!
速攻で鳴らす!
ジャーーーーーン!!!
「「「「!?!?」」」」
「その戦闘、待ったーーー!!」
「…。」
至近距離でシンバルは叩くもんじゃない…!耳が痛い…。
でも、全員の注目は集めた! 戦いの気勢は削げただろう!
何人かはシリュウさんを見たままだが、全員驚いた感じにはなってる。私を意識はしているな。
シリュウさんは冷めた目でこちらを振り返った。もの凄く機嫌が悪そう。まあ、嫌な単語が出てたからね。
「シリュウさん、事情は分かりませんけどとりあえず止まってください!」
「…。ああ。」
よし。話は聞いてもらえる状態だ!
「シリュウさんは一旦家の中に。私が話を聞きます。」
「何勝手に仕切ってやがる!」
うるさいバカが居る。
喚くな。凡骨!
シンバル収納。
槍を展開。鉄を追加、追加、追加…。
身体強化全開。
形成した巨大ハンマーを振り下ろす。
1tハンマー!
実際には40~50キロくらいだけどね。
…ドスン!!
「文句があるなら、潰しますけど?」にっこり…




