107話 髪留めの中身
「──我が真名、マルテロジー・エルドエルより!!
カレイヤル・ウィリディスアーエールに求む!!
──アーティファクト、開放。」
レイヤの風の魔力が籠められた髪留めに、特別な呪文を唱える。
この世界において「呪文」とは、魔族が使っていた呪いの言葉を意味しているらしい。
まあ、私の〈呪怨〉で作った物に使うから呪文と呼んで相違無いだろう。
この呪文は、髪留めの中身を取り出す為に2人で作ったものだ。
風属性のアーティファクトの中に、風属性のものが納めてある。
レイヤの膨大な風魔力を更に増幅する効果を持ち、アーティファクトの力を内側から強化しているもの。だから、この髪留めはかなり多機能なのだ。
ちょっと特別なそれを、本当に必要になった時に取り出せる様に、エルフの言葉と大陸言語を組み合わせて私にしか開けないロックをしてあった。
まあ、ちょっと文言がどうかと思うけど…。
私のこっちの本名を名乗るのも気になるが、某聖○戦争の作品の影響を受け過ぎてるからね…。レイヤが「令○っぽくないと反応させないから!」とか言って魔力を籠めたので、もうどうしようもないのだ…。
髪留めに切れ目が生まれ、花の様に上部が開く。
〔破邪の清風〕の時とは比べ物にならない程濃密な、緑色の光の奔流が迸る。
「テイラ!?何をした!?何をする気だ!?」
あっれー? おっかしいなー?
この呪文は単に髪留めのロックを外して開くだけなんだけど…。
なんでこんなに光が出てんだろう?
普段はぼんやり光ってるはずなだけの塊から、激烈な緑光が出ていた。
あれかな? レイヤの気持ちかなんかが溢れ出ている感じかなぁ??
とりあえず他には何も無いから、ミニレイヤらしき存在は居ない。ヨシッ!
まあ、風魔力がいっぱいあれば土エルフさんの回復には多分プラスだろう!
風氏族エルフの魔力光っぽいし大丈夫、大丈夫。なんとかなるって!
「私の最後の秘密をお教えしようかと思いまして~。」
「そんな軽さで、こんなとんでもないことするな!?!?」
「単にちょっとした風属性の魔石みたいなものを持ってるんで、それを取り出しただけですよ~。土エルフさんに魔力供給できると思いまして。
ちょっとだけ、光り過ぎですけど。」
「ちょっと、じゃねぇ!?」
「なん…! 何なんだい、この凄まじい魔力は!?」
とりあえず、混乱してる2人をサクッと無視して、
はい、セットアップ。
緑色に光りまくってる『世界樹の葉』を、髪留めから取り出して土エルフさんのお腹に乗せた。
シリュウさんの土魔石の隣で、一緒に魔力を注げば良いと思う。
「うぉ!?うぉおおお!?!?」
土エルフさんの、(多分きっと嬉しさの)悲鳴と共に、体が緑色の光で覆われていく。
あ、右手の中の鉄、どうするかな…? 今、退かすべき? 除けずにこのままでいけるかな…?
レイヤを呪っちゃった時は、この葉の不思議パワーで〈呪怨〉を中和?することで、鉄を溶かして回復してたんだったか…。
今ここにある『世界樹の葉』、半分だけだからなぁ…。
効果も半減してるかな??
こんだけキラッキラに光ってるなら大丈夫かな??
放置で良いか。今更面倒だし。
なる様にならぁな~。
修復できなくても、死にはしないみたいだからどうとでもなろうて~。
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しばらくして、緑色の奔流は消えた。
もう良いんだろうと判断して、淡く光る『葉』を回収し髪留めに仕舞う。
アーティファクト封印の呪文を唱えて、と。
土エルフさんの体を確認すると、欠けた部分に淡い緑色の立体的な腕や足がくっ付いていた。
あれだね、蛍光塗料を塗りたくったみたいに見える。ぼんやり光ってて綺麗だね。(適当感想)
しかし、なんだろうね? この状態。
生身の腕とかにこれから変化するんだろうか…??
私の〈呪怨〉を受けた右手も光を纏っている。
中の鉄を溶かしてる最中とか???
「シリュウ…? 一体、何が起こったんだい…? もしかしてアタシ、ずっと夢でも見てんのかい…??」
「…。何も考えるな…。黙って、受け入れろ…。
俺もそうする…。」げんなり…
なんでそんな悲壮感が漂ってるんですかね?
回復できたんだから良かろうに。
…多分きっと、だけど。
このまま一生、蛍光塗料の腕だとしたら、ちょっとごめんなさい。
「どんな感じですか~? 土エルフさん?
淫魔女の洗脳で生まれ変わった気分は?」
誤魔化しがてら、適当にからかっておこう。
「…。」
「気分も何も…。訳、分かんないよ…。」
そこは「最高にハイってやつだー!!」とか、「おのれ!ショッカー!許さん!」とか、って台詞が適当だと思いますよ。
ふむ。ダメージが大きくてお疲れ状態、ってことだな。うん。
「シリュウさん。土エルフさんの腕と足、なんか少し変ですけど害とか有りそうですかね?」
「…。少しじゃねぇ…。俺が、知る訳無いだろ…。」
まあ、ですよね。
「なら、要経過観察ってことで。」
「…。」頭痛ぇ…
ふむ…。一段落して、緊張、解けてきたかな…。
眠い…。
「…。そろそろ、寝るかぁ。」
「………。」無言驚愕…
「………、」驚愕閉口…
「あ。そうだ。シリュウさん?」
「…。今度は、何だ…?」
そんなに身構えなくても。
「いえ、単にお体の調子とか大丈夫かな?って。」
「…。どう言う意味だ…??」ザリッ…
そんなに後退りしなくても。何もしませんよ?
「眠くなったりして危険だったりしないかな?って一応の確認を…。
ほら、あの闇色の炎を出して疲れたかもだろうし、睡眠取らないといけない事態になってたりするかな? 私の鉄の部屋、必要かな?と思いまして。半日戦い詰めでも有りましたし。」
「…。(冗談みたい事態を引き起こしておいて、いきなり真面目な質問とか…。)
いや、大丈夫だ。必要無い。」
なんか変な間が有ったけど、疲れて頭の回転が鈍くなってるのかもだな。
受け答えは普通にしてるし、私が心配する程でも無いか。
「んじゃ、このまま私は寝ますね。
…土エルフさんを、どこかに運んだり、手伝いますか?」
「…。いや…、良い。それもこっちでやる。
寝るなら鉄の家を出すから、その中にテント置け。」
「…了解です。後はお願いします…。」
ふあぁ…。ねむい…。
(107って数字を見ると、No.107 タ○オンドラゴンを連想してしまう不具合。)




