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104話 闇夜の戦い

 真っ暗な夜の闇を照らす赤の嵐。

 その赤色を黒く塗り潰す様な闇色の炎が、溢れ出る。


 シリュウさんが緩く両手を上げ闇色の炎を従えながら、土エルフにゆっくりと近付いていく。



「…くっ!!」



 土エルフは怯えた顔で、砂を吹き散らして後退しだした。

 砂は赤い魔力に打ち消されてこちらには届かない。


 シリュウさんの手から溢れた闇炎は扇状に広がり土エルフの逃げ場を無くしていく。



「おらぁ!!」



 土エルフの奴が地面を強く踏んだ。


 周囲の地面から何本もの岩の柱が()り上がり、シリュウさんへと殺到する。

 しかし、地面から立ち昇った闇炎に触れるや(いな)や跡形も無く消滅していく。


 今度は、地面全体が津波の様に押し寄せるが、やはり闇炎を突破できない。


 ジリジリと奴に闇炎が迫る。



「うらぁ!!」


 巨大棍棒を自身の足下に迫った闇炎に叩き付けた。



「な、なんだって…!?」


 闇炎は消えずに移動し続け、棍棒は接触した部分から茶色の欠片が落ちて欠けていく。



「流石、〈不変〉と言うだけはあるな。俺の〈黒炎〉に触れてその程度とは。」

「不変…! 不変なんだよ!?

 形が、変わる訳が…!!」



 奴の言葉を無視して、シリュウさんが闇炎の中を歩きながら近付いていく。

 おもむろに右腕を上げて、闇炎を持ち上げ、放った。


 奴は左手に岩の盾を生成して、飛んできた闇炎を防い──



「ぐがっ!?」


 岩の盾はあっさりと穴が開き、闇炎が触れた左腕は表面がボロボロと朽ちていく。



「ふぅー…!!」



 土エルフの奴が気合いを入れると、左腕全体が橙色と緑色の光に包まれた。



「無駄だと分かっただろ、ダリア。その武器を──」

「らああああああ!!」



 シリュウさんの言葉を聞かず、棍棒を右腕1本で構えて突進してきた。左腕は回復魔法の途中なのか光を帯びたままだ。



 シリュウさんは少しの間動かなかった。



 でも、土エルフの奴が闇炎のエリアに入るくらいで、両腕を前に持ち上げた。


 地面に広がった闇炎が噴火した様に膨れ上がり、土エルフの奴を包み込む。




「…。」無言遠い目…




 ボシュー…



「なっ!?」



 茶色い塊が闇炎を突破して、空を舞う。


 土エルフの奴が棍棒を盾に体を守り、土の柱を足下から伸ばして、その勢いで抜け出たらしい。

 そして、シリュウさんの方ではなく私に向かって、ものすごい勢いで滑空してきた。



 闇炎で棍棒は大半が削れ、両足や左腕、顔や髪の一部までもがボロボロと風化し消滅しているにも関わらず、だ。



 シリュウさんも闇炎を消して、こっちに走ってくる。




 まあ、私ごと黒い炎では攻撃できないと予測しての位置取りなんだろう。

 私を殺してシリュウさんへの洗脳が解除できるかもと思い込んでるなら、回避にせよ、事態の打開にせよ、当然の選択肢だわな。





「死になぁ!小娘ぇ!」



 でもね、土エルフの()()()()。私だってムカついてんだよ。

 〈呪怨(のろい)〉持ちでも、非魔種でも、飯炊き女でもいいけど。


 (ひと)を、シリュウさん(おとこ)をたぶらかす淫魔(いんま)呼ばわりしたことは許さない。



 こっちだって、──全力で潰してやる。





 鉄の壁を展開。土エルフのおばさんから私の姿を見えなくする。



「こんなもん!」


 一瞬動きを止めることができればそれでいい。



 誓約(ゲッシュ) 適合(クリア)

 〈鉄血(てっけつ)〉発動。



 私の右肩から飛び出した、血まみれの鉄の枝が、壁に向かって伸びる。

 鉄の枝は、壁の鉄を操作し一切の抵抗無く向こう側へと貫通。


 私も刺股(さすまた)を構えて、鉄の枝ごと体を押し込む様におばさんへと突撃──



 キィン…


 髪留めの警報に合わせて体を左へ半歩移動する。

 右肩の枝は、仕方なく根本辺りから自切。



 壁や鉄枝をまとめて潰す茶色の塊が振り下ろされた。



 壁は2つに割れ半分が私に倒れてくるが、そのまま刺股と合わせて遮蔽物にする。



 攻撃を()けれた私は、振り下ろされた武器を握る右手に向かって、再度肩から生える枝を伸ばす。



「ぐぅっ!?」


 苦悶の声をあげるおばさん。

 肌の硬化を無視して貫通する鉄も痛いでしょ?




 ──でも、次はもっと痛いよ?




 誓約(ゲッシュ) 適合(クリア)

 〈鉄血(てっけつ)〉発動。




「ぎぃ────ああああああ!?!?」



 おばさんの手内部の血が、〈呪怨(のろい)〉で鉄に置換された。


 肉も神経も魔力回路も、まとめて鉄屑にされたんだ。人生初めての激痛だろうね?

 魔法もまともに使えないでしょ?



 ドスン!!



 棍棒を落として、空中から崩れ落ちる様に後退するおばさん。



 追い付いたシリュウさんが、おばさんの背中から素早い動きで組み敷いた。


 私はこっち。

 落ちてる棍棒をぶち壊す。



 もう握りとその先くらいしか残ってない様だ。


 刺股をマジックハンドの如く操って、棍棒の残りを鉄板の上に固定する。



 そして、その上から生成したばかりの鉄の斧を、

 全力で振り下ろす!!



 ──ゴギン!!!




 硬い(かっっったっい)…!


 手、痛い(いっったっっい)…!



 ~~~っ……!




 棍棒の残りは全く変化無し…。



 仕方が無いので、とりあえず私の鉄でぶ厚く覆う。


 二度と(さわ)れない様に。二度と(ひと)を侮辱しない様に。二度と、頭の悪い奴が暴走しない様に。



 (まある)(まある)く、卵形に…。よし。これで、握れないだろう…。

 まあ、こんなもん、か。


 後は、自傷した右肩を軽く押さえる様に、鉄を巻き付けて止血して…と。




 おばさんの方を見る。


 シリュウさんに後ろから左の上腕と首を掴まれて、地面に横たわっている。

 左腕は肘から先が無く、両足もほとんど消滅。残った部分も大半が(ひび)が入った感じに風化しているが、ビクビクと痙攣しているからまだ生きてはいるみたい。



 とりあえず、決着かな。

 なんとか死なずに終わった。


 軽く呪って気分も多少すっきりしたし。



「はぁ…。眠いけど、寝てる場合じゃないよね…。」


次回は7日14時予定です。

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