103話 土エルフの武器
大量の砂が打ちつける中、鉄の刺股を握って迎撃準備だけは整えた私。
どうなるにせよ、最低限身を守りつつ。
動きを封じて話が出来たら最善だと、思っている。
「覚悟するっきゃない…。」
こんな砂嵐の、しかも真夜中に、移動などできる訳もなく。
このテントの中で破滅的な状況になるまで耐えるしかない。
「テントの中にもう二重で鉄テントを展開して中に籠ったから、即死は免れる、はず…。髪留めで息はできる…。もう1度『突風の守り』を展開しておく…? いや、この砂嵐じゃ直ぐに削られて終わるか…。止めとこう…。」
ただじっと、変化が訪れるのを待つ。
アクアにはとりあえず、殻に籠ってもらった。どうなるか分からないけどギリギリまで側に居て欲しいとは思っている。
逃げて。って言っても聞いてくれないみたいだしここまで来たら一蓮托生かな。
シャラララ… ララ… ………
砂嵐が鉄テントを打ちつける音が、止んだ…?
戦闘が終わっ──
──ボガゴゴン!!
「…!!」
鉄テント正面に巨大な音が響き、突然ひしゃげた!
3層の鉄テントが全部!?
テントの横手に3連の穴を開けて飛び出す。
髪留めの明かりが届く範囲を見回し──
「シリュウさん!?」
「──悪い。…無事か?」
「私は全然無事です! でも、シリュウさん…!」
テントに突っ込んできたのはシリュウさんだった。
頭や腕から血が出ている。結構ボロボロだ…。
シリュウさんが鉄の塊の中から立ち上がり、体中から赤い火炎が噴出した。
かと思えば次の瞬間には血の跡は綺麗に消えていた。傷も治ってるみたい。
「大丈夫だ。なんともない。」
「いや! でも…!!」
「アッハッハッハ!! 本当にあんたの魔力は底無しだねぇ!! まだ回復できるのかい!」
右肩に巨大棍棒を担いだ土エルフさんが、橙色の魔力粒子を纏いながら現れた。
体のあちこちに火傷を負っているみたい。左腕が特に酷い。
「あ、あの! 私、シリュウさんの側から離れますから、1度話を──」
「黙りな!!小娘!」
土エルフさんから強烈な圧力が放たれた。
言葉を、続けられない。
「ダリア!俺とお前の戦いだろうが! 関係無い奴を巻き込むな!」
「関係、大有りじゃないか。やっぱり自覚無いのかい?」
「…あ…?」
どうする? どうしたら、いい?
「わ、たし…! シリュウさんに、恩返しがしたい、だけで…!」
「口を開くんじゃないよ。小娘!
アタシはあんたの口車に乗らないよ!」
口車、って…。別に騙してなんか…!
「ダリア。さっきから何の話だ。」
「気付いてない訳ないだろう? それとも認識でも狂わされてるのかい…? まあ、指摘してやるよ。」
土エルフさんが棍棒を私に向けて、鋭い目で睨んできた。
「──小娘、〈呪怨〉持ちだろ?」
「──!」
「その気色悪い気配…。普通じゃないね。相当異常な力を持ってんだろ?
そんな奴をシリュウの側に置いておける訳無いね。」
「そう、ですね、その通──」
シリュウさんから火柱の様な、赤い光が噴出した。
「ダリア…! 今のお前が、偉そうに説教垂れてんじゃねぇ!!」
「何言ってんだい、シリュウ。あんたこそ、呪いに取り込まれるなんて、らしくないじゃないか!
状況が分かってないんだろう! こんだけボコってもまだ正気に戻らないのかい!?」
「俺は! テイラを! 〈呪怨〉を持ってると理解した上で!
特級ランクになるべきだと…!!
俺のパーティーに入れたいと思ってんだよ!!」
「シリュウさん…。」
「はぁ…。あのシリュウを精神支配するなんて、とんでもない小娘だねぇ…。クソ夢魔の系譜かい…。
──ぶち殺して、シリュウが元に戻れば良いんだが。」
………ア?
私が、淫魔、つったか?
「ダリア。確かに、今までの俺の行動からは外れてる自覚はある。だが。呪いに関係無く、俺はテイラに価値を見出だしたんだよ。
今のお前に何を言っても無駄だろうがな。」
「…。こりゃ、深刻だねぇ…。また全力で頭カチ割って、正気に──」
「ダリア。1度だけ指摘しておく。
お前こそ、呪いで暴走してる自覚はあるか?」
「あん? 変なハッタリかますんじゃないよ。らしくない。あんたこ──」
「らしくないのはお前だ。
俺が呪いで精神をやられていると思ってんなら。俺が暴走している可能性を、考えていたってんなら。
なんで超級止まりのお前が。
単騎で。話も聞かず、仲間も連れず。特級戦闘職に戦いを挑んでんだ?」
「ハッ!! 笑かすんじゃないよ! その為に、こいつがある!!」
土エルフの奴が、茶色の岩塊みたいな巨大棍棒を振り回す。
「この〈不変〉の金剛砕があれば! あんたの堅さに対抗できる!
見な! あんたをあんだけ叩いても! こいつには傷1つ付いちゃいない!
こいつがあればぁ!! アタシでも、あんたに──」
「その呪具を、今すぐ手離せ。ダリア。」
ふーん…。武器、呪具なんだ…。
「何度も何度もしつこいねぇ! こいつの影響は皆無だって証明されてんだよ!!
そもそも戦いの最中に、武器を手離す馬鹿がどこに居るんだい! そんな情けない手段で勝とうとするほど、精神やられてんのかい!?」
「こっちの言葉だ! 無駄に長生きして思慮深くなったんじゃないのか。ダリア!」
「あんたに!! 長生きだの言われる筋合いは!! 無いんだよぉお!!!」
橙色の魔力粒子が、砂嵐の如く舞う。
と言うより本当に砂粒を生成して、風で押し出している様だ。
大量の砂煙が飛来する。
シリュウさんの体から赤い魔力粒子が噴出して、砂嵐とせめぎ合う。
辺り一面が橙色と赤色に照らされていく。
「テイラ! もう一度下がれ!
──殺すつもりで、あいつを止める。」
今度はシリュウさんの両手から、どす黒い炎…?らしきものが生じた。
黒い泥の様に粘ついた半透明の炎が、溢れて地面に落ちる。
それを見て怯んだのか砂嵐が止んだ。
「…それが、奥の手〈滅びの炎〉かい…。流石に、食らったら不味そうだねぇ…!」
キィンキィン… キィンキィン…
髪留めの警報も反応してる。あれは普通じゃなさそう。
でも、なんか写○眼の天○っぽいな…。何もかも焼き尽くす系統の炎だろうか。
「水精霊。テイラを守れよ。」
こちらを振り返ることなく殻の中のアクアに声をかけたシリュウさんは、黒い炎を従えながらゆっくりと進み始めた。
次回は4日14時予定です。




