102話 ピカピカ綺麗
私が取れる選択肢は3つある。
1。このまま完全に離脱して、逃げる。
2。シリュウさんに加勢して、攻撃する。
3。現状維持。様子を見ると言う名の傍観。
逃走はアリではある。
そもそもあの土エルフさんは、私がシリュウさんの傍に居るのが気に食わなかったみたいだし、離れることで興奮が治まる可能性はある。
まあ、これ以上離れると魔獣の群れと遭遇したり国の騎士に会ったり、面倒事に直面する可能性もあるんだけどね…。
シリュウさんを見捨てて1人旅を再開する勢いで移動しても、本気になった2人には余裕で追い付かれるだろうし…。
移動するだけ体力の無駄だな。
攻撃はナシ。
別にあの土エルフさんに何かされた訳でもないし、シリュウさんがピンチでもないし。わざわざ攻撃する理由が無い。
それにあんな天変地異のただ中に入って無事に済むとも思えない…。シリュウさんの足を引っ張る可能性100%だろう。
私の鉄が持つ魔力を弾く力を使えば、奇襲はできるっちゃあできるだろうけど…。
やるなら攻撃された時に全力カウンターだな。うん。
となると、やはり現状維持か。
…。
ゴ──── ガ──… ン
ゴ──── キーン──…
…。
ズズ────
現在の私は、鉄テントの中で這いつくばった状態で遠くの光を眺めていた。時折響く重低音がアクセントになっている。
周りが真っ暗だから、赤やオレンジの光がピカピカ綺麗だな~…。彗星かな? いや、彗星はもっとバーッって動くもんな~…。
と意味もないバカな感想を抱いている。
…うん。
今は夜なんだ…。
あの2人が戦い始めたのは昼間だったけど、そこからまさかの半日戦い詰めなのである…。
魔力をいっぱい持ってるから休憩も食事も無しで動き続けられるんだろうねー。
羨ましい限りっすわぁ~…。羨ま、っすわぁ~…。
昼間に出来てた積乱雲は、地上からの謎の衝撃波や赤い光によって消し飛ばされたみたい。
戦闘音はず~~っと続いているけど、それ以降上空に雲が出来ることはなかった。
雨が面倒だったのかなー? そんなノリで天候変えたのかなー?
すっげぇ、っすねぇ…。
面倒っすわぁ…。 はぁ…。
もう、寝ようかな…。
寝たらやっぱり死ぬかな…。あの戦場が、寝てる間にこっちに突っ込んでくる可能性がアリアリよね…。
「アクア~…、私、寝ても大丈夫だと思う~…?」
寝そべってる私の、頭の上に乗っかるアクアに声をかける。
私の目の前に伸びて来た触腕がユラユラと揺れる。
いや、分からん、て。
「とりあえずマルでもバツでも無い、ってことかな。アクアにも読めないって訳か…。」
あ、触腕の先が丸く輪になった。肯定、と。
「まあ、天変地異で死ぬならまだマシな方かな…。あれの原因に関わりまであるし…。
寝よう。」
覗き窓は軽く塞いでおいて、と。
「アクア。もしあのヤバい戦いが近付いてくるの分かったら教えて。分かんなくてどうにかなっても、もう諦めるから適当にね。」
アクアの触腕がペシペシと私の頭を叩く。
「…寝るな。起きてろ、ってこと?」
丸い輪。肯定、か…。
「まあ、久々に徹夜するかな…。仕方ない…。」
鉄テントに籠る様になってからはなんだかんだ睡眠だけはできてたからなぁ…。
水はアクアのおかげでなんとかなるし…。
今、手持ちの食料は無い。
流石にこの戦闘が何日も続く訳ない、と思いたい、けど…。どこかのタイミングで食料調達の必要もあるかもなぁ…。
────────────
ペシペシ!ペシペシ!
「んぐっ。
…。
…。ヤバい。寝てた。」
アクアの腕の感触で覚醒した。
覗き窓を確認する。
…。
うん。ピカピカ綺麗。
赤い炎の色かなぁ、あれは? すっごく広いね!
ランプシェードみたいに柔らかい光に見えるのは、多分舞い上がった土煙が炎の光を散乱させてるからかな!
ん?
それにしては何かボヤけ過ぎじゃない?
寝ぼけ眼かな…。
シャラララララララ…
目をごしごしと擦っていると変な音が聞こえてきた。
「え? 何?」
テントの中心に引っ込む。
音はこの鉄テントから出てるみたい。
シャラララララララ!
雨が屋根に打ちつける音…っぽい?
こそーっと覗き窓に近付いて、外を見てみる。
暗くて分からん…。
髪留めの明かりを窓の外に届く様に、反射鏡の鉄パイプを接続して…
ん~?
…。
…。分かった。多分、砂、だ。
大雨の如く、大量の砂が降ってきているらしい。
つーか、あれだな。私が砂嵐の中に居るのか。
光がボヤけて見えたのも辺り一帯に舞ってるであろう砂が原因だね。
…。
ここ、草原だったよね。
大量の砂なんかその辺りにある訳ないよね。
ってことは、この砂嵐。人為的なやつだよね。
つまり、
戦闘領域に入っちゃったか…。
「終わったかな…。私…。」
どのみち覚悟を決めるしか、ないな…。
次回は、11月1日14時予定です。
10月ももう終わりかぁ。




