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四百年の螺旋階段  作者: エラワン
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騎馬の男達

 タイムマシンに座ると、スタッフがこまごまとした装置の説明をしてくれた。


「こちらのレバーを引くと希望する年代が変わります」

「…………」

「ただし今は特別短く、数分過去に戻るだけの設定となっております」


 そうか、さっきの若者がやっていたのと同じだ。


「万一元に戻れない事態になっても、トラベラーの位置情報はこちらで把握しておりますからご安心ください」


 いやご安心なんかじゃなくって、それでも時空の迷子になったらどうして戻るんだよ。


「緊急事態と判断した時は救出致します」

「…………」


 なるほどね、そうですか、まあいいでしょう、どうせ数分後にはこの部屋のどこかに時空移転するんでしょうから。

 だが一人になったおれはその手元にある年代別設定レバーを見ていると、有る事に気が付いた。


「あれ、これは」


 年代の一か所に印がしてある。細かな目盛りではないが、どうやら千六百年代の前半か中間だ。という事は、


「そうか、ユミさんはやっぱりヤスベに会いたいんだな」


 おれは確信した。そうだよな、タイムマシンが完成したら会いに行きたいんだろう。そういうおれも出来る事ならもう一度会いたい。このレバーを印にセットすればいいんだ。

 マシンはまだ動いていない。おれはレバーを引いて、その印で止めてみた。

 これでまたあの安兵衛に会えるのなら面白いではないか。もちろん今そんな危険を冒すつもりはない。すぐレバーを元の位置に戻そうとした。


「あれ」


 今度はレバーが動かない。


「えっ」


 顔を上げて前を見ると靄に掛かっているように周囲のフタッフが見えなくなっていく。


「やばい!」


 いつの間にかタイムマシンが稼働を始めていたのだ、車や電車ではない。何の前触れも振動も無く時空移転は始まっていたのだった。


「やばい、やばい!」


 レバーは千六百年代を示している。

 そして次の瞬間、トキに時空移転された時と同じように、周囲の空間がゆがんだ。








「ここは……」


 軽くめまいがすると、研究所が無くなっている!

 これはまずい事になった。

 

「おおーい」


 おれは辺りの空間に向かって呼び掛けた。


「おれはここだ、戻してくれ」


 だが何も起きない。トラベラーの位置情報は掴んでいると言っていたではないか。

 辺りは鬱蒼とした木々が生い茂っている。だが研究所の建っていた森とはちょっと違う感じがする。いやそれとも、やはり同じ場所なのか。周囲を見渡しても建物らしい物は見当たらない。


「うわあ、最悪だ」


 とんでもない事になってしまった。あのレバーをうっかり引いた結果がこれだ。

 おれはトキから何度も時空移転をされてきている。だからそれなりの経験はしているし、慣れてるともいえる、だが今回はまたちょっと違う。


「おおーい、戻してくれ!」


何度も呼び掛けてみるが、一向に変化が無い。

これは困った事態だ。無情に時間だけが過ぎて行く。

おれは途方に暮れてしまった。だが、まてよ、ここは冷静になって考えよう。ジタバタしない事が肝心だ。なにしろおれは何度も時空移転を経験しているからな。


落ち着いて辺りを見回してみた。道とかあれば誰かと出会える可能性がある。人と会って話しをすれば、今が何年なのか、此処が何処なのか知る事が出来るだろう。

もしも千六百年代のモルダビ、いやモルダビア公国であれば安兵衛にも会える可能性が出て来るではないか。


木々の隙間から空を見上げると、太陽の位置がなんとか確認出来る。移転してからもう時間はかなりたっている。何時迄もこのまま何もしないでいるわけにはいかない。此処から一定方向に向かって歩いてみよう。そうすれば今居るこの場所に再び戻って来る事も出来るだろう。

研究所のスタッフはトラベラーの位置情報を把握しているとは言っていたが、用心するに越したことはない。必ずこの位置に戻って来れるようにしておこう。


おれは周囲の様子に注意しながら歩き出した。しばらく進むと、所々開けた場所もある。幸いさほど深い森でない事が分かってきた。起伏もほとんど無いから歩きやすい。これなら馬に乗って走る事も出来るだろう。

その時、


「ん!」


誰か来る。人が居た。思わず走り出しそうになったが、その足が直ぐ止まった。馬に乗った数人の男達がやってる来る。

次の瞬間、おれは木立の陰に隠れていた。

近づく男達は、明らかに武装集団だ。硬そうな胴着を身につけ、腰には剣を帯び弓まで持っている。あの者達の様子を見なくては。今出て行くのはどう考えても危険だ。


結局男達はやり過ごした。

その後に出会った者も居たのだが、得体のしれないおれに警戒したのか、むこうが逃げて行ってしまった。


「ふう、どうしたもんか」


だがおれは次第に疑問を感じ始めていた。

本当にこの時代の者と交流して良いのだろうか。過去を変えてしまうと、未来はどうなってしまうか、リスクは限りない。

万が一未来が変わると、おれの救出に支障が出るかもしれない。

その可能性は原因と結果が瞬時に決まる。過去に降り立ったトラベラーの行動で未来が一気に変わってしまうなど、人間の理解出来る範囲を超えている。送り出したタイムマシンなど、どうなるかわかったものではないのだ。これは一旦元の場所に戻ろう、そう考え歩き出した足先の地面に矢が刺さった。


 なに!


おれの周囲をあっと言う間に騎馬武者集団が取り囲むではないか。あのやり過ごしたはずの男達だった。

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