『良識派ノラロウ、ユーチューブデビュー』の回
へっ。オレさまはノラロウ。確かに野良猫だが、そんじょそこらの野良猫とは違う。
この大学で唯一、マスコットキャラクターの地位を築き上げている野良猫だ。
読書サークル研究会ほにゃらり。
最近、漢の中の漢、神田川が動画チャンネルを開設したらしい。
ちなみに、登録者数は、12人だ。
サークル員が神田川を省くと10人(強制登録)なのだから、あとの二人が誰なんだって話になる。
気になるか?
気になるよね〜。
だが、誰なのかはいまだ不明だ。たぶん、弓月チャンのファンクラブの一員が、弓月チャンに良い顔した結果なのではないか、という長谷部ほか皆の意見だ。賛成だにゃん。
そんな動画にだ。神田川が、オレさまに向かって、出演しろと言い出した。
はん、このオレ、ノラロウにだ。
知ってるか?
それは今季の学祭以来、大学の人気者No.2(1位はモチのロン我らが弓月チャンだ)の地位を確たるものとしつつある、オレさまノラロウ。
まあ、オレがなんだかんだ言っても有名になりつつあるもんだから、それに乗っかった便乗商法と言わざるを得ないだろう。
良識派の野良猫で通っているオレにとって、これは詐欺に当たるんじゃないか、という葛藤の中。
「ノラロウ、唐揚げ10億年分やるから」
はっ! 神田川。お前、知らねえのか? ユーチューバーってのはなあ。そんな甘っちょろいもんじゃねえ。
オレは知っている。
再生回数とやらが敵なのだと。いや、唐揚げ10億年分ってのは嘘だろってこともな。
だがまあ。
やってやらんこともない。
「じゃあノラロウ、おまえがサークル室から出てくるところ撮るからな」
サークル室の中へと追いやられる。
そしてすぐにも出てこいと言わんばかりに、外でキャメラを持って待ち構えている神田川の足元にそっと置いてあるのは。
何がだって? 唐揚げだよっっ!
このオレさまを唐揚げごときで釣ろうとしている!
「は〜〜いぃ、いいねえ〜。ノラロウちゃん、もっと腰をくねらせてえぇぇ」
なんだその態度は? ただのセクハラ親父じゃねえか!
怒り心頭だが、やはり唐揚げは美味い。食堂のオバちゃんが作る唐揚げは、とにかく美味い。
何個でもイケる。何個イッても、胃にもたれない。
「じゃあ次」
神田川が表情を変えた。今度こそ真剣勝負なのか。
「ノラロウ、折り入って頼みがある」
漢の中の漢、神田川が真面目な顔をして、オレに近づいてくる。
「サークル紹介のVに、弓月を撮ろうと思ってる」
はい、逮捕。お前のキャメラで弓月チャンを撮るなんざ、100万光年ユーロ早えぇんだよ!(←最近、弓月さんが持ってくる新聞を眺めているので情報過多ぎみ)
「あのな、弓月を全面的に出していけばだな、弓月のファンクラブの面々がチャンネル登録してくれるはずだ。そうなれば、唐揚げ10億年分どころか、100万光年ユーロくらいは軽く用意できるようになるはずだ」(←ノラロウと同等の知識力)
で?
オレさまはなにをやりゃあいいんだ?
「弓月の新聞紙を奪え」
なんだとーーーーー!
コイツ、マジか。コイツ、マジか!
「で、弓月が泣いたところを、俺が取り返すってなドッキリ作戦だ」
許せん、弓月チャンが命の次に大切にしている新聞紙を、盗めってか!
しかも、ドッキリとか言って、おまえ良いところ持ってこうとしてるじゃねえかっっ!
最低だぞ、このクソ野郎がああああああ!
「や、ちょ、なにす、ノラロウっっ、やめろっっ」
オレは、神田川の左頬を張った。この鉄の爪=アイアンクロウでな。シャキーンシャキーン!
クソ野郎にはこのオレさま自らが、鉄槌を下してやるからなっ!
シャキーン!
「痛っってええ、やめろって、やめてええぇえぇ」
ふん。神田川。女を泣かすなんて最低人間のすることだ。もっとマシな仕事をしろ。
「わかったわかった、わかったってばあ。じゃあ、長谷部のシャモジを奪うってのは?」
……うむ。それならオッケーだ。