『読サーほにゃらり、新たな人物の登場。気になるよねえ〜♡』の回
『読サーほにゃらり、新たな人物の登場。気になるよねえ〜♡』の回
突然、語り出してすまんという話だがな。オレの名前は、ノラロウ。この名前は長谷部という軟弱なヤツのネーミングだ。
「野良男」ノラオ
最初はこういう名前だった。けれど読サーの女神、弓月チャンが「長谷部くん、ノラオよりノラロウの方が可愛くないかな?」って言うんで、ヤロウ鼻の下を伸ばしながら、「ノラロウかあ。良いねえ、弓月さん、すごく良いよ。すごくメルヘンだよ」って言いやがった。
メルヘンだと?
軟弱にして惰弱‼︎ カタカナ語はオレがいちばん嫌いな言語だ‼︎ ニャオン‼︎
長谷部は、嬉しそうに、「じゃあ『ノラロウ』に決定だね‼︎ よろしくなノラロウ」とか猫なで声で触ってこようとするもんだから、オレは「ケッッ」とソイツを一蹴してから、置いてあった煮干しを全部、食い尽くしてやった。(←懐柔)
それで結局、「野良郎」に、なったってわけだ。
オレは思った。
これってもしかして、「野良野郎」を略したものなんじゃないか? ってな。
もしかしてディスられてんのか? ってな。
そんな物騒な考えがちょっとだけ頭をよぎったんだ。
けれど、あんなにも優しくてマグロのカマみたいな(最大級の賛辞)弓月チャンが、オレを野良野郎だなんて言うはずがない。
とにかく、長谷部が悪い。オレはそれが言いたかった。
そんなオレは、主にこの大学にある学生食堂の近辺を縄張りとしている、まあ結局のところは、野良猫ってヤツだ。(あっさり肯定)
ここら辺をうろうろとしていると、主に女子大生っていう人種が寄ってきては、こぞってオレの頭をなでくり回していく。
ハーレム? 羨ましい? ふん。まあそうだろうな。オレがひと声、テノールばりのメゾソプラノでニャオーンと言うだけで、ヤツら一瞬にして、その場でのたうち回り始めるんだ。その光景は地獄、オレのひと声でこの有様なのさ。(各々の想像力にお任せします)
飯にだって楽々ありつける。食堂のオバチャンが、とーととととと、と唇をタコチュウにして言いながら、残った唐揚げをくれるんだ。
オレの大好物の唐揚げではあるが時々、ふわりと新聞紙の香りが漂ってくることがある。だがそれは、本当に時々のことだから、たぶんオバチャンが読んでいる朝刊の移り香なのだろう。
食堂のオバチャンは毎朝、食堂のカウンターで新聞を読んでいるらしく、結構な博学なのだ。そして、その知識をいかんなくひけらかす。
「ノラロウ、おまえ唐揚げなんて油っこいもん、あんまり食べすぎると、胃もたれするよ? うちの唐揚げ、特売のやっすい油で揚げてるから、特にねえ」
で、一言。
「飲み過ぎ食べ過ぎ胃のもたれには、✖️✖️✖️×✖️だ。ああ、そういえば✖️✖️✖️✖️✖️✖️ってのもあるねえ。あんたもちったあ飲むといい」
その幅広い知識は、もはや薬師の域。油と薬。購買の薬屋のオバチャンとタッグを組んでいるらしいという噂まである。
だがな。認めたくはねえけど、学のないオレにはまったくもってなにを言っているのかわからない。特に、『✖️』が多用されている部分は謎の文言だと言っていいだろう。
オレをこうも惑わせるのは、食堂のオバチャンと読サーの弓月チャンだけだ。
けれど言いたいのはそこじゃねえ。オバチャンよ。毎回食べすぎるなと言うけど、とーとととととって食べさせてくるの、オバチャンだからね? (仲良し)
そんなオレが、この学食周辺の縄張り以外で、よく滞在するところがある。
それは、この狭苦しく暑苦しくむさ苦しい一室で、本を読んでは棒グラフを伸ばすという謎の活動をしている、読サーほにゃらり。
ここには面白れーヤツらがいる。もち可愛い弓月チャンも、この読サーの所属だ。だが弓月チャンは似合わねえ、全然このサークルに似合わねえ。オレの女になった方がまだマシだぜってな。
Oh,yeah、そんなこと、口が裂けても言えねえわ。(シャイボーイ)
オレがいつものように、ここもオレのナワバリだぜってな顔で、無遠慮にいつものようにサークル室に入っていくと。
「なんだ、ノラロウか」
サークル室の中央部分、たいそうな面積を使って、大の字に仰向けになっている男がいる。
オレサマが一目置いている、漢の中の漢、神田川だ。
この読サーで唯一、オレが認めた男と言っても過言ではない。
なぜならコイツはいつも、
「ノラロウよ。俺の屍を越えていけ」
と、仰向けになったまま言うからだ。
野良のオレにまで? 野良のオレにまでだっ‼︎
コイツは、他の軟弱なヤツらとは違うって、唸ったね。一本スジの通った男だってな。なるほど、スジも良いが、筋肉も良いもん持ってやがる。
オレはいつも、コイツのこの言葉に奮い立たされるんだ。
「俺の屍を越えていけ」と言われて、ここで尻尾を巻いて逃げちまうのは、負け犬のすることだ。
オレは違う。
オレは越えていく。
一歩、また一歩と。
その一歩を踏みしめながら、
神田川の上を歩いていく。
途中、「うわおっ、そこはだめえぇ」と言って手で振り払われることがあるが、だいたいは乗り越えていく。
腹の上でふみふみしながら、オレは神田川の中心で愛を叫ぶんだ。
「ニャアァゴオォ(自分でも意味は不明)」ってね。
そして、ここだ。神田川の腹の上。いつもオレはそこで、天を仰ぎ見る。神でもなんでも、オレに立ち向かってこい‼︎ ってな感じで、空を睨みつける。
すると、そこにひとりの女の姿がある。
女神とか天使なんかじゃねぇ。
なにやら薄手の布を身体に巻きつけている女だ。(←ビキニ)
神田川はいつも、この女を睨むように、見つめている。
それはきっと、この読サーの最大にして最強の敵に違いない。相手はもちろん、不敵な笑顔を浮かべている。だが、騙されるんじゃない‼︎
敵なのだ‼︎
神田川のあの目。敵を見破ろうとする目だ。小さな妥協もミスも許されない。そんな緊張感のなか、目をカッと見開いている。
その鋭い視線に対峙する時はいつも、オレの毛並みがぞぞぞっと逆立っちまう。いわゆる武者震いってヤツだ。
そんな神田川の鋭く熱い視線を、こうも間近で見ちまったらだな。
オレはいつも爪を立てて、野良のオレだってやってやる、一兵卒から成り上がってやる‼︎ って、自分自身を鼓舞せざるを得ないってわけだ。
本物の漢の目。真の武士道に通ずると言っても過言ではない。(過言)
神田川のような漢の中の漢ならば、たぶんこの寝転びには、なんらかの意味がある。
きっと厳しい鍛錬なのだ。漢の中の漢の修行に違いない。
オレと神田川。漢と漢。(漢の価値観)
良いライバルになりそうだ。
けれど、コイツはダメだ。性根が根っこから腐ってやがる。
いつも部屋のすみっこにいる、林ってヤツだ。
時々コイツも、部屋のすみっこから体操座りのまま、天井をじっと見つめている時がある。
だが、オマエの手に負える相手じゃねえ。
オレでもお手上げなんだからな。アレはもう、神田川に任せるしかないだろう。
林に関しては、それ以外、なにも語ることはない。
それから、コイツも問題にならねえ。
長谷部だ。
軟弱にして惰弱。オレが最も嫌う、この言葉が一番、ぴったりフィットする男。
どうやら、弓月チャンを狙っているようだ。ふん、なんでわかるかって?
臭いだよ。同じ臭いがぷんぷんするわけだ。
馬鹿野郎っっっ、オレはこんな軟弱惰弱野良野郎じゃねえっっ‼︎ 一緒にしてくれんなや、ごるあっっ‼︎
わかったか‼︎ 以上だ‼︎ (不遜な態度で終わり)