『ようやく明かされる‼︎ 弓月さんと新聞紙の出会いとその蜜月編 』の回
あれ?
第4回?
中途半端になっちゃったなあ。
『ようやく明かされる‼︎ 弓月さんと新聞紙の出会いとその蜜月編 』の回
前回までのあらすじ。
「『読書サークル研究会ほにゃらり』恒例焼き芋大会で、弓月さんと新聞紙の関係が明らかになりそうで、あとちょっとってとこで、結局明らかにならなくて、都合により次回へと回された」
以上。
✳︎✳︎✳︎
実を言うと出来上がった焼き芋(5個を11人で分けるという地獄)をほおばりながら、弓月さんとね、たくさん話しができたんだ。
これはどう見ても奇跡だ。焼き芋大会が、途中から弓月さんの歴史というか、今までどんなに可愛らしく育ってきたのかを知る会に、そうっと移行していったのだ。奇跡。
「私、長谷部くんともっと話さなきゃいけないって思っていたの。だから、今日は私の生い立ちを話したいって思ってる」
その流れがちょっとよくわからないが、まあ良いだろう。これは奇跡なのだから。
この生い立ちを聞きさえすれば、弓月さんと新聞紙の出会い、そして新聞紙とともに歩んできた輝かしい歴史が、明かされるわけなのだから。
あああ、胸が詰まって、言葉にならない。いや、イモじゃない。イモは詰まってない。
僕の脳内に、某保険会社のCMで流れる、オダ氏のメロディーと弓月さんの小さい頃の写真(←捏造)が次々に思い浮かんでくる。
弓月さんにぃ
会えーて
本当にぃ
良かったなあ
ラーラーラーララーラ
199○年□月△日 ○○県の田舎で誕生(個人情報保護法の観点から伏せ字)
両親は共働き、近所に住んでいた祖父母に育てられる。
小学生の頃までは主に祖父に連れられて、実家の裏にある、裏山へとよく遊びにいった。
「弓月さんって、おじいちゃんっ子だったんだ」
「そうなの。おじいちゃんがね、『いいかカノン。女は強く生きなきゃなんねえ』って、いつも私を応援してくれて」
……応援?
「そ、そうなんだ。素晴らしいおじいちゃんだね」
「うん。大好きなの」
うわ、羨ましい〜。おじいちゃんにちょっと嫉妬。
弓月、小学生。
山で拾ってきた太い枝で自前の杖を手作りするなど、『なにごとも自力で』をモットーとする祖父とともに山に登る。
山では松ぼっくりを拾いまくり、祖父の杖を使って、野球ごっこ(1000本ノック)をやったり大きな木をバスケットゴールに見立ててバスケットごっこ(ダンクシュートの練習とゾーンに入る練習)をしたりして、祖父と過ごす。
また、時々。気分転換に、穴を掘った。
さ、サバイバル?
「…………えっとぉ」
言葉が出ない。非常にコメントがしづらい。
それにしても、だ。
講演会の講師かっってくらいの生い立ちのご披露だ。PowerPointとかプロジェクターとかいる? ってぐらいに、ガチで自らの歴史をなぞり出した弓月さん。
っと。あれ? 新聞紙、出てこなくない。新聞紙のしの字も出てこなくない?
「この頃はまだ出会ってないの」(運命の人に)
はい。じゃあ、続けてくださーーい。
中学生になると、部活でバスケット部に入部。
松ぼっくり特訓のおかげで、1年にしてレギュラーを勝ち取る。
地獄のグランドうさぎ跳びでピョン×10周を見事にやり切り、そのえげつなさと部員からの信頼により、2年生の時にキャプテンに任命される。
「弓月さん、体育会系女子だったんだね。だから、富士登山もなんのそのだったし、トマトもジャグリングできるわけだ」
「やだっ長谷部くんったら‼︎ 褒めすぎだよっっもうっ‼︎」
そこまで褒めてないが、可愛うぃから許す。はあ、でも許すことがつくづく多いなあ。神よ、こんな僕を許したまえ。
高校ではバスケットは正直もういいかな、それに役職ももう結構、と急にヤル気を失う。
だが、そこから大逆転。
今まで培ってきたど根性を買われ、演劇部に勧誘される。(ど根性と演劇の関係性はこの時点で不明)
奇しくも、軽い気持ちで入部した演劇部にて、新聞紙に魅力され、今に至る。
あ、え! ここで(唐突だが)ようやく新聞紙キターー! (((o(*゜▽゜*)o)))♡
けど、え?
今に至る?
……ずいぶんと端折ったなあ。
なぜ、女子高生が演劇部で新聞紙に魅力される?
そこが知りたかったのになあ。ちょっと拍子抜け。
弓月さんが、話し疲れた、みたいに、ふうっっと大きなため息をついた。
「新聞紙って、大道具作るときに、すごいたくさん必要なの。張り子や看板にも使うし、ペイントに使うし、もちろん、演劇の小道具にだって使う」
ああ、なるほどっ。そこねっっ。
「私ね。大金持ちのお屋敷の旦那さまの役をやったことがあるんだけど」
え、旦那さま?おいおい、明らかにミスキャストだよ、それは⁉︎
誰だよ、弓月さんにそんな、これっぽっちのかけらも想像できないような役をアテたのは?
部長か?
それとも、顧問の教頭か?
弓月さんは、続けた。
「大きなレンガ造りの暖炉の側で、パイプを咥えながら、新聞を読んでいるっていう設定でね」
はうぅそれ、ロッキングチェアーに座って、髭を整えながら、ゆらゆら新聞読むヤツ‼︎
それで結果的に明け方になってから、胸にナイフとかが刺さった姿で発見されるヤツ‼︎
「えええぇ、長谷部くん。ナイフだなんて、そんなわけないじゃん。だって、新聞紙は朝刊だよ?」
はい。
「でね、その時に私の中で雷が落ちたの。ピシャン‼︎ って」
「雷? ……なにが、
あったの?」
僕は恐る恐る訊いたんだ。思いがけず殺人事件に出会ってしまった探偵のように、震えながらね。
「うん、その時のセリフ、聞いてくれる?」
「(ゴクリ)う、うん。どんな、セリフだったの?」
「『いいかい? 新聞というものはだな、宇宙を凝縮したものなんだ。ワシらのこの世界の、全てなんだよ』って」
「…………」
弓月さんの『ワシ』呼びも、ちょっと違和感で引っかかったが、話の規模がデカ過ぎて、意味がわからなかった。
だが、なんらかの解説を待とう。
……新聞紙が宇宙の縮図?
や、解説を待とう。
弓月さんは紅潮した顔で、続けた。
「すごくない? だって新聞って、その日その日に起きた出来事をこと細かに記載されているし(NEWS)、その日のテレビでは番組が何時からやって何時に終わるかがこと細かく記載されているし(番組欄)、私たちにちょっとでも笑ってもらおうとする意気込みも感じられるし(たぶん4コマ漫画を指している)、私たちの生活に潤いを与えて健康にまで留意するよう促しているし(生活情報面)、経済が……」
「そうだねっ、新聞紙って、ホントすごいっっねっっっ‼︎ なるほど、新聞紙は宇宙の縮図かあ。言い得て妙だ。それにしても、弓月さん、今日は良かったよ。焼き芋は美味しかったし、弓月さんともたくさん話せたし、なんてステキな秋のONE DAYってね」(混乱)
延々と、新聞紙礼賛が続きそうだったので、オダ氏の曲もとっくに終わっていたし、もう焼き芋も食べちゃったし、そろそろこれで解散、みたいな雰囲気を出しつつ、僕はいったん話を切った。
「あ、ごめんね。私、喋り過ぎちゃったね」
てへ、と舌をぺろと出す。
はああ、そんな仕草も可愛いですぅ。(←すぐに元どおり)
「でもまあ、そこから弓月さんが新聞紙を信頼するに至った経緯ってわけだね。すごい、聞き応えがあったよ。お腹いっぱい〜〜イモだけに」
「ありがとう。とにかく新聞紙はステキってことが言いたかったんだ」
すっっごーく伝わりました‼︎ ってか、伝わってマース。
「ふふふ、じゃあ最後にねえ、長谷部くん。ちょっと後ろ向いてくれる?」
唐突な振りに、僕の心臓は跳ね上がってしまった。
「え? なになに、なんで?」
笑いながら、え、え、とか戸惑った風にしながら、後ろを向く。
「長谷部くん、目をつぶってくれる?」
え、え? まさか、だーーーれだ????って、やるヤツ?
弓月さんの小さな白い手が、僕の伏せられた目に回ってきて、
「長谷部くんったら。もうちょっと、かがんで? うふふ、だーーーれだっ????」
って、やるヤツ???? で、僕が、その手をそおっと握って、
「こらっ、この可愛い、いたずらっこめ‼︎」
って、やるヤツ????
トクン トクン トクン。
僕の心臓が、早鐘を打ち始める。背中に近づいてくる弓月さんの影を感じる。これはもう、だーーーれだっっっの予感しかないぃ。
きっと周りに神田川先輩を始めとしたサークル員が立ち尽くしていて、そんな僕ら二人の様子を見守っているだろうが、もう目は瞑っちゃったから、見えましぇーん。神田川先輩、すみっこパイセン、弓月さんとの仲、見せつけちゃう形になろうもん、ばってんマジでごめんね。
僕は、この状況をちょっとだけくすぐったく感じながら、
「えへへ、いったい、なんだろうな?」と呟く。
トゥクン トゥクン トゥクン。
すると、耳元でガサッと音がしたかと思うと、次の瞬間‼︎
パンッッッッ
破裂音がして、僕は飛び上がった。
耳元での衝撃に、鼓膜がビリビリビリジーーーーンと、震えている。慌てて、耳を手で押さえた。
「ええええ、なになになになに、えええええ」
慌てて振り返る。弓月さんはというと、天使の笑顔で、笑っている。
「ふふふービックリした? 新聞紙って、こうして鉄砲のオモチャにもなるんだよ」
え? 鉄砲の、音?
三角形で少しだけグシャっとなった新聞紙を手で掲げて、『イタズラ大成功ヤッタネ☆ 』みたいな手看板をあげそうな雰囲気を醸し出している。
そして、僕ははっとして周りを見た。
そこには、その弓月さんの新聞紙の鉄砲音にビックリして後ろにひっくり返っている神田川先輩の姿。
どうやら、神田川先輩は後ろ返り二回転ほどローリングしたようだ。
こういう時って、運動神経の良さが仇になるんだな。
弓月さん、新聞紙との関係はもうどこかに吹っ飛んだよ。
以上終わり