『今宵、明かされる‼︎ や、まだ明かされない‼︎ 弓月さんと新聞紙との出会い編』の回
『今宵、明かされる‼︎ や、まだ明かされない‼︎ 弓月さんと新聞紙との出会い編』の回
ああ、ついにやってきた。
神回の予感。
いや、言うなれば『紙回』か。(うまいこと言った感)
第1回の神田川先輩のビオレゆー伝説から第2回のすみっこパイセンどうでもいい駄文にきて、ようやく。
なにせ弓月さんと新聞紙の出会い編だからね。
これは、普段おとなしい僕でも、興奮を隠せないのだ。うっほうっほ。
だって、あの弓月さんだぜ?
『読書サークル研究会ほにゃらり』における、最強にして最高、可愛い過ぎると評判の女子No.1、新聞紙を使わせたら凄い女子No.1、トマトジャグリング女子No.1の、三冠達成女子、弓月さんの話ができるなんて、本当に心からありがとう、と言いたい。(どういたしまして)
第2回で完結だなんて、ちょっと信じられないことを口走っていた人がいたけれど(失言デス)、第3回を無事に迎えることができて、心から安堵しているよ。(ヨカッタデス)
それは、これでもかというほど暑くてグダグダな夏をなんとか乗り切り、秋を迎えようとしている初秋のことだった。
「秋って言ったら、焼き芋だよね?」
はいここでもう新聞紙の出番んーーー。
「うん。焼き芋を包み込んだ新聞紙のあの温かさ。最高だよね?」
もちろん、そんな弓月さんに対する、僕の返しにも磨きがかかってきている。
「ならさ、ぐぅっ、落ち葉っ、ひっく、たくさん拾ってきて、ぐすん、焼き芋、やろうぜ」
神田川先輩が、泣き腫らした目で、僕の方を見た。
え、
涙が絶え間なく溢れ出ているのを、先輩は熱海温泉の白タオルで、ぐいっと拭っている。
手にはどうやら、キメツのマンガ。おおう、それは泣いちゃっても仕方がない‼︎ (比類なき説得力)
「わかりましたよ、サツマイモとチャッカマン買ってきます」
「悪いな、ひっく、長谷部。俺、今、目がこんなだからさあ、ぐずっ、人前に出られないっていうか」
見えてるのか見えてないのか視えてるのか視えてないのかわからないくらいに、境界までもがぱんっぱんに腫れて曖昧になってしまっている目を、指差す。
「いい歳こいて泣きすぎですよ、神田川先輩は」
漫画読んでいても、本を読んでいても、テレビ観てても、麻雀に興じていても、急にギャン泣きするわけだ。
情緒不安定で精神が安定していないところがあるのは、皆さんももうお分かりだろう。
「不朽の名作にいい歳もクソもあるかっっつ!」
神田川先輩が、鼻水をすすりながら、尻の下に敷いていた座布団のチャックを開けて、封筒を出してくる。
部費だ。
「ちょ、どっから出してるんですかあ。生あったかいじゃないですかあ。しかも、お金をお尻の下に敷くなんて、バチが当たりますよっっ」
「大丈夫だ。尻は外している」
いやいや封筒が、ちょうどいいくらいの、人肌になっているって。
「みなから預かった大切な部費だ。金庫に入れておいて、間違いはないだろう」
間違いです。
僕は封筒をさらに人肌にするべく、尻ポケットへと突っ込んだ。食材さえ買ってこれば、あとは弓月さんがどこかから新聞紙を出してくれるから、安心だ。
ここで、あーあ弓月さんも買い物一緒に行かないかなあ、なんて思っているが、弓月さんが構内の学生掲示板にて、神田川先輩の載った学生新聞記事を持ち去ってからは、神田川先輩も弓月さんのこと、ちょおっと意識しちゃって、なかなか僕と弓月さんを二人っきりにしてくれなくなってしまった。
ヨルドラニウスヤミナベニウスの時のように、長谷部、弓月。そなたたちを買い物部隊に任命する! ……なんて、口が裂けても絶対に言わないもんねーってな感じだ。
これは痛いことになった。
僕は自分自身の力のみで、この不当な扱い、不利な状況を打破しなければならない。
奥手な僕が、そんなことできるかと言えば、できる‼︎ って言いたいけどできない。
「ゆ、弓月さんも買い物一緒に行く? 僕、焼き芋のこと、あんまり詳しくないからね。教えてくれると助かるんだけど……」
と言いたい気持ちだけが、今にも口から飛び出しそうだ。
だが。
「弓月くん、悪いが買い物、一緒に行ってあげてはくれまいか? 長谷部くんは焼き芋については素人、あまり詳しくはないだろうからね、こやつはバカだからな。教えてやってくれると、助かるのだが……」
すみっこぐらしの林先輩が、そんなことを言ってくれたものだから、僕は相当ビックリしてしまった。僕の心の声を、ほぼ一字一句、違えることなく、代弁してくれたからだ‼︎ (バカだからは意訳)
これは奇跡か‼︎
神のなせる奇跡なのか‼︎
「私ですか? はい、まあ、いいですよ?」
すみっこパイセンの言葉と弓月さんの返事(ちょっとアンニュイな言い方に意味はあるのか?)で、僕は喜び、そして踊った。
神田川先輩が、ちっ林めえぇぇ、余計なことをっ、みたいな視線(たぶん雰囲気だけで視えてない)を寄越してくるが、気にしない気にしない。
「じゃあ、弓月さん。一緒にいこっか」
弓月さんと夫婦みたいに連れ立って、買い物するんだぞおおおぉぉ。熟年夫婦みたいになっっ‼︎
やったね☆
やったね♡
やったね……っと、記号が思いつかないから、これくらいで良しとしよう。(平たく肯定)
「じゃあ、行ってきまーーす」
僕たちは、そう言ってサークル室を後にした。
✳︎✳︎✳︎
「もうそろそろ焼けてきたかなあ」
弓月さんが可愛らしく、長い枝で火のついた枯葉をわさわさとかき混ぜている。
いや、買い物?
行ったよ、ちゃんと‼︎
でもね。サツマイモ、買っただけなの。トマトもなかったし、トマトジュースもなかったし、まさかの活き活き☆百八十六茶もなかったの‼︎
サツマイモを買っただけなの‼︎
レジを通る時、「あ、袋いりません」って、僕が気をきかせて言っただけで、あとはサツマイモを新聞紙にくるんで、ちょいと小脇に抱えたら、もうサークル室に着いちゃったの。
僕たちが帰ったら、神田川先輩たちは近くの広場で枯葉を集めて待機していたし、トントン拍子に着々と焼き芋の会が進められていって、僕は今回心底、憎いと思ったね。
なにがだって?
焼き芋がだよ‼︎
え、こんなに簡単なの? 焼き芋って、焼くだけなの? (そうです)だってリヤカーで売ってる石焼き芋って、高いじゃん? だからもっと手間が掛かっているんだと思っていたし、どうやら僕の、焼き芋に対する尊敬の念は、見事に覆された。ヤラレター。
弓月さんが、小枝でつついている先には、アルミホイルに包まれた、サツマイモが5個。
買い物の時、11個。カゴに入れたんだよ? だけどね。お金が足りなくて6個返品したんだ。部費の、この不甲斐なさといったらない。
弓月さんの手前、スマートに買い物したかった。
「お勘定はこれで」みたいな感じで、クレカをすっと出したりして、カッコよく支払いしたかった。
「支払いは一括で」(一瞬リボ払いがよぎる)みたいな感じで、右手人差し指を1本、突き出して掲げたかった。
でも、駄目だった。封筒の中には、600円しかなかったんだ。血の気が引いたよ。買いすぎたっっっって。やっちまったっっっって。封筒の中、事前に確認すれば良かったっっって。
チャッカマン、買えないね、by 弓月 の騒ぎじゃないよね、これ。
でもまあ、サツマイモ5本は手に入れたんだし、サークル室の引き出しをゴソゴソ探ったら、腐りかけだけどチャッカマンあったし、とにかくこうして無事に焼き芋を行えていることに、感謝しなきゃいけない。ありがとう、神さま。ありがとう、弓月さん。ありがとう、シルクスイート。(芋の種類)
以上終わり。
え?
あれ?
弓月さんと新聞紙の話は?
あ、次回だそうです。