『すみっこぐらしの林先輩の身に、大変な災難が降りかかった』の回
今日。
すみっこぐらしの林先輩の身に、大変な災難が降りかかった。
へえ。
そう思う気持ちもよくわかる。(肯定)
いつもなら、ねえ聞いてっっ‼︎ ってなるが、今日はね。
聞いても聞かなくてもどっちでもいいや。
とは言っても、短編にするほどのことではないので(ヤル気なし)、こうしてよもやま話としてご紹介することにする。
いや、よもやま話の第二弾! にするのも、どうなのだろうかと思う。そこまでのことではないのかな。
「キミ、キミ‼︎ 長谷部くん‼︎ なんだかキミはいつも、僕の前ではなにか考えごとをしているな。そんなに僕と話したくないのか?」
サークル活動のある一日。すなわちそれは説明をするのもめんどくさいが、まあ強いて言うなら、今日のことだった。
すみっこぐらしと呼ばれている林先輩(以下すみっこパイセン)が、そんなことを言い出した。僕は、そうです、と言いそうになる口をミカワケンイチ(?)のようにへの字にして、堪えた。
すみっこパイセンを前にすると、なぜだか僕の脳がまったく別のことを考え出してしまうのだ。
例えばそれは、棋士が何百通りもの先の手を考える思考に似ている。
僕は、こうしてすみっこパイセンを前にするだけで、『スパコン富嶽』を凌駕するほどの思考回路を駆使し始めてしまう、というわけだ。いや、『スパコン富嶽』は言い過ぎかもしれない。インテル入ってる? くらいかもしれない。
「おい、聞いているのかっ! 長谷部くん、僕を無視するとはいい度胸だぞっ」
「や、聞いてますよ、ちゃんと。で、なんでしたっけ?」
「ほら見ろ! 全然聞いてないじゃないか!」
実にめんどくさい。
こうして2人の、会話ならざらぬ会話が、箱根駅伝のように往路、復路と繰り返される間。
サークルメンバーはいつも、そのめんどくさダイナマイトに引火でもしそうな火の粉が飛んでくることを恐れて、コソコソと雲隠れしてしまう。
そう。サークル室に僕とすみっこパイセンの二人が取り残されてしまうのだ。悪夢。
読サーのしょうもない雰囲気にちょっとずつ慣れてきたあなた(敬称略)でも、この状況はオモクソ耐えられないだろう?
キョロキョロと周りを見渡してみると。
はううぅぅっっっ‼︎ 弓月さんもいないっっっ‼︎ どこいっちゃったの?????
だが、大丈夫だ。安心してくれ。
そうなったらだいたい皆、学食にいる、と僕は知っている。
そう、学食に集まって今、白米を食っているのだ。(※ 断定)
白米?
ああ、白米だ。彼らの主食は米だ。(ヤミナベニウスにもそれが顕著に表れている)
例えば。懐にバイト代が入ったとする。
読書サークル研究会のサークル員は、自分の財産をだいたいの確率で、①図書カード購入資金、②文庫本(ヤンジャン含む)購入資金、③マヌカハニー(世間で流行っているもの。これがパンナコッタだったりスムージーだったり、その時代時代によって変遷する)購入資金、この『三種の神器』購入資金に代わってしまうから、とにかくお金の手持ちがない。
いつも常にずっと貧乏。
だから、皆んなでごはんを食べる際には、『ライス』か『惣菜』のどちらかを注文、それを皆んなで分けあっこして食べるんだけど、『惣菜』より『ライス』の方がもちろん安いというのもあって結果、皆んなが揃いも揃って『ライス』を注文してしまうってわけ。
地味に白米オンリーの日が多い。(地獄だが富士山ほどではない)
学習しないのよ、うちのサークル員。白米だけでどうしろっちゅーの。せめて味付け海苔欲しい。
そんなことが、あまりに多、
「……ハセ…ハセベ……長谷部くんっ(徐々に鮮明になっていく様)き、キサマ、僕の話を全然、聞いてないだろ! いい加減にしろよっ! 怒!」
意識を取り戻したら、すみっこパイセンの怒りが最高潮に爆発中だった。
「すみませんすみません。聞いてますよ、無視しないでって話でしたね」
「なんだとっ⁉︎ その言い方はなんだっっ⁉︎ 僕はそんな風に懇願した覚えはないぞっ……だいたい……な……」
あーあ。これが、愛しの弓月さんだったならなあ。どんだけ怒られたってどんだけ罵られたって、なんだって御意っって、頭を地面にこすりつけちゃうんだけど。
あれ? そういえば、なにを話していたんだっけ?
あ、そうそう。白米ね。
だから、常識派の僕らはいつも、皆んなのために『惣菜』を選ぶわけ。僕らっていうのはもちろん、弓月さんと僕。
サークル員が11人(幽霊部員だった、自分拙者呼びの人が、神田川先輩の熱い抱擁と『読サーの一員であることに誇りを持てっっ』との叱咤激励で、本会員登録し、先日ついに正式な人数が確定した)、もう一度言うが11人もいるというのに、その中で常識人が2人しかいないってのは、結構辛い状況なんだよ。
「弓月さん、今日は『惣菜』どうする?」
弓月さんが、可愛らしい仕草で可愛らしい長財布の中を覗き込んでいる。可愛らしい微笑みを浮かべてから、「あっ今日は500円も入ってる‼︎」と嬉しそうに、僕に可愛らしく笑いかけてくる。
弓月さんのワンピース姿はとても可愛らしいし、立ってるだけでお花畑の中の可愛らしいお姫さまだし、可愛らしいが多すぎて混乱するけど、それだけ可愛いいぃぃってことっっ‼︎ (←混乱)
「じゃあ、ワンコイン惣菜、『鳥の唐揚げ森』(これは非常に食べにくい。食堂のオバチャンのネーミングセンスを疑う)にしようか。僕も同じのにすれば、唐揚げがひとり2個ずつは行き渡るから」
「うん。そうだね。そうしよう」
注文する。
するとまあ、皆さんのご想像通り、弓月さんがポケットから小さく折ってあった新聞紙を取り出すわけだよ。皆さんのご想像通り。
そして、皿の上に敷く。
それをオバチャンが受け取る。
それから、「弓月チャン、今日は彼氏と一緒? 若いっていいわネエ‼︎ 」のオバチャンの声に、「オバチャンこの通りっっ! 大盛りでお願いねっ! 」って、両手をホトケのように合わせて可愛らしく頼み込むわけだ。僕とのことは、またもや大胆にスルーだが、もう慣れたあー。
程なくして、オバチャンが「ヘイ! お待ち!」って、揚げたての唐揚げをその新聞紙の上に乗せる。
ジュワアっと揚げ油が新聞紙へと染み込んでいく。可愛らしい微笑み(ね! こうすることで余分な油分を新聞紙が吸ってくれてカラッとするの。新聞紙って最高でしょ?)を寄越してくる弓月さん。
「はい、長谷部くん」
「ありがとう、弓月さん」
唐揚げを受け取る手に、弓月さんの少し冷えた指先が触れる。
触れた指先、彼女の笑顔、ほわりと湯気のくゆる唐揚げ、油を吸った新聞紙、この全てが僕らの世界。
これで、今日の白米も美味しく食べられそうだ。
「長谷部っっ‼︎」
激怒の声がして、僕はハッと意識を現実へと戻した。
ぽわわんふわわんと、どこかを彷徨っていた視線を、元に戻す。すると、そこには。
「キミってヤツはあぁぁ、いい加減にしろよっ! 僕の話を聞いているのかって、言っっってるんだよ、さっきからあああぁぁぁ‼︎」
頬をぶるぶると震えさせている、すみっこパイセン。
「あ、あれ? すみっ……林先輩? どうしたんですか?」
「どうしたっじゃないっっ‼︎ 長谷部ええええぇぇええ、とにかくキサマは僕の話をちゃんと聞けえええぇぇ‼︎ 」
目が血走っている。が、僕は悪くない。すみっこパイセンに反応してしまう、僕の中の、『スパコン富嶽』が悪い。←なにげに性能を高い方へ戻す
「はいはい、わかりましたって‼︎ で。なんですって?」
「ここ‼︎ 」
バンッと右手の握りこぶしで壁を叩く。
「これはどういうことだって、さっきから聞いてるだろおおぉぉ‼︎ 」
「え、あれ? これですか? ビキニのおねえさんのポスター?」
「そうだっっ‼︎ ここに貼ってあったはずだっっ‼︎ 僕が発売日当日、早朝 5時5分前(4時55分)から書店に並んで買ってきた限定ビキニはどうしたああ‼︎ 」
「……あ、あれ実は……神田川先輩が、」
「えっっ」
神田川先輩を苦手とする、すみっこパイセンが一瞬にして青ざめる。
「没収と」
トドメと知ってはいるが、僕は敢えて。敢えて言ったのだ。
「ぼ、ボッシュウ……?」
はい。そうです。
「神田川先輩がですね。『目のやり場に困るんだよう、どこを見ていいのかわからないんだよう(そんなに言うなら目をつぶれ)』と、頬を染めながら言ってました……」
すみっこパイセンは、呆然としたまま、その場に立ち竦んでいる。
「ぼ、ボッシュウ……ト」
そのまま真っ白な灰になっていきそうな予感。
散々、僕はすみっこパイセンに今まで怒鳴られまくっていたが、僕は『良い人』だから、こんなすみっこパイセンの姿を見ると、やっぱり可哀相になってしまう。
僕は冒頭、「すみっこぐらしの林先輩の身に、大変な災難が降りかかったのだ」と話したが、まあ、そういうこと。
こんだけ? え? うそ、今までの時間なんだったの? という非難の声が聞こえてきそうだ。
だが。敢えて言おう。(二回目)
こんなくだらん話、よもやまで十分すぎるほど、十分だった、
と。
え?
それでも読んでくれた?
それはありがとぅおうぅ‼︎
以上終わり