『学生新聞 記事一部抜粋』の回
『学生新聞
記事一部抜粋』
『某日、○○市民体育館の競技用プールで行われた「全国大学選抜水泳競技大会県予選」に、当大学理学部3年の「神田川素意成さん」が、代表選手として出場した』
弓月 「あ、これ。ヨルドラニウスヤミナベニウスの日にあった水泳大会だね‼︎ わあ、神田川先輩、すごーい〜‼︎ ねえ見て長谷部くん、先輩、写真入りで載ってるよ‼︎」
長谷部 「いやあ、弓月さん。そうは言ってもだよ? ほらその先、読んでみて」
弓月 「うん。ええっと、んーなになにふむふむ……」
長谷部 (ふむふむて。おっさんかってツッコミたいけど、今日もポニテで可愛うぃだからスルー)
『競技直前、神田川さんは腹筋に「模様のようななにか」が描かれていることを指摘され、これがタトゥーを禁止している大会規約に抵触するのではないかと一部の選手が騒ぎ出し騒動となった。これに対して水泳連盟は、この模様を「タトゥーのようななにか」と認め、出場を認めない意向を表明。しかし神田川さんは「これはタトゥーではない、読サーほにゃらりの部員による汗と涙の結晶、応援激励メッセージなのだ」と主張し、え? キミ水泳部じゃないの? と大会側を一層、混乱させた』
長谷部 「へ⁉︎ ……失格になりかけてたんだ。うそ、なんか悪いことしちゃったなあ」
弓月 「そうだね。でもあの時さ、底がコゲコゲに焦げた鍋の片付けをみんな嫌がって渋っていたじゃない? あのアミダですみっこぐらしの林先輩が当たり(←?)を引いて、ようやく観念したってこともあるから、長谷部くんに感謝こそすれ、一概に長谷部くんが悪いだなんてこと、言えないんじゃないかなっ怒」
長谷部 「 …………」( 弓月さん、なんで怒? も、もしかしてあの時、すみっこ先輩が弓月さんの新聞紙で鍋をゴシゴシやった際、じゅうぶん揉み込まなかったのが不服だった? とか? )
長谷部 「弓月さんっ、つ、続き読もうか」
『水泳連盟会長、斉藤氏の「タトゥーならまだしも、アミダだと? けしからん⁉︎ (謎の逆上)」の一言はあったものの、大会側はシャワー室でビオレゆーを使用すれば出場を許可するのはやぶさかではないとの見解を固め、神田川さんはその指示に従うことで、出場権を得た』
長谷部 「こんな経緯があったんだあ。ふう。記事、長っっ。でもまだ続いてるな」
『また、スタート台に立った神田川さんを見た審判団や観客が、薄っすらと跡が残る筋肉に、いったいなにが書いてあるのだろう? と一斉に目を細めた、という事案が起きたため、競技が一旦中断されるものの、その後は一転、何事もなく厳かに競技は進められていった』
以上終わり
長谷部 「…………」
弓月 「あれ? 長谷部くん、これ。この記事、神田川先輩の順位結果、書いてないね」
長谷部 「え? あれ、本当だ。書いていてあまりに下らない記事だから、結果を書くの忘れたのかな?」
神田川 「長谷部っっ‼︎ 下らないとはなんだっ。 部長の俺さまを下らないと断罪するおまえは、それでも栄えある読サーの新入部員か⁉︎」
長谷部 「え、あ、ちょ、神田川先輩っっっっ居たんですかっっっ」
神田川 「居るに決まっているだろう。ここは学生掲示板だぞ。今日の休講のチェックにきたら、おまえらこそなんだっっっ。二人仲良く肩を寄せ合ってからにいいぃぃ……うちはサークル内恋愛禁止だぞっっ」
長谷部 (れ、恋愛⁉︎ そんな風に見えてるの? 僕たち⁉︎ )
弓月 「神田川先輩、それで予選大会の結果は、どうだったんですか?」
長谷部 (ふぉええぇえっ、ちょっと傷つくスルーうあぁあぅっっ)
神田川 「うむ、結果か? もちろん優勝だ」
長谷部 「……え」
弓月 「わああぁ。凄いです、先輩っ」
神田川 「まあな。俺の辞書に『不可避』の文字はない」
長谷部 (……不可、避? )
弓月 「神田川先輩、スポーツ万能ですねえ」
長谷部 心の焦り (はっヤバイ弓月さんが、ぽわわーんってなってる⁉︎ 急いで話題を変えなくちゃ‼︎ )
長谷部 「凄いですねえ。神田川先輩みたいにオールマイティーに優秀な先輩って、なかなかいないっすよね。(無理矢理持ち上げて称賛。これによって精神的HPを100奪われる)ち、ちなみに神田川先輩の名前って、なんて読むんですか?」
神田川 「ん? これか? 神田川 素意成って読むんだ」
長谷部 「そ、そいや、…………まさかの、キラキラネーム……はっ‼︎ い、いやこれは違う、違う⁉︎」
神田川 「ああ、長谷部。よく気がついたな。キラキラネームってのは、キラリとかピカチュとかエヴァとかナイキとかアディダスとかスニッカーズとかだろ?
そうじゃないんだよ、そういう軟弱で軟派なヤツじゃないんだ。俺の名前はだな。よく男たちが祭りで神輿担ぐ時にソイヤソイヤって、掛け声かけるだろ? あれのことだ。硬派なヤツなんだよ。カッコイイだろ?」
長谷部 「か、掛け声……」
弓月 「神田川先輩、じゃあ、水泳大会の時のコールも?」
神田川 「ああ。水泳大会だけじゃない。甲子園でもフルネームで呼ばれるからな。
だけどな、どうしてもな、呼ばれちまうんだよ、『カンダガワ ソイヤっ(※)くーん』(※ 跳ねるように)……ってな。まあ俺としてはそこが納得いかない部分だ」
弓月 「……へえぇぇ。そうなんですね」
長谷部 「…………」
弓月 「……へえぇぇ」
神田川 「…………」
弓月 「……それじゃ、私、もうすぐ講義が始まるので、行きますね。と、その前に……」
長谷部 「え、弓月さん? なにするつも、……はあぁぁあっ‼︎ 《←驚愕の息》」
バリバリバリッッ(=掲示板から新聞記事を剥がす音)
弓月 「じゃまたね、長谷部くん。先輩も失礼します」
長谷部 「……って、どんだけ好きやねん、新聞紙」
神田川 「ゆ、弓月ちゃん(混乱してちゃん付けになっている)、俺の載ってる新聞記事を持ち去るだなんて……もももももももしかして、俺のこと⁇」
長谷部 「へえぇっ⁉︎ いや⁉︎ たぶんってか、絶対っっっっ‼︎ 違いますよっ‼︎ (強く否定) でも先輩。新聞紙がなにに使われているかは、僕には絶対、訊かないでくださいねっっっ」
以上終わり




