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幼馴染たちに虐げられた俺、「聖女任命」スキルに目覚めて手のひら返し!  作者: さとう
第三章

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戦いの始まり

 セイヤは弓を構え、アスタルテに聞いた。

 

「あんた、どうしてここへ……」

「お前に地図を渡したのはあたしだよ。お前が行くところなんてすぐにわかる」

「じゃなくて、いいのかよ? 聖女と敵対して」

「構わないさ。それに、お前とお嬢ちゃんが知らないところで、追手の聖女を始末したのはあたしさ。どのみち、最初から睨まれてる」


 アスタルテは剣を構えていた。

 セイヤは、アスタルテが剣を使って戦うのは知っていたが、炎の力を見たのは初めてだった。

 さらに、ヒジリが構える。


「主。聖女様、こちらが圧倒的に不利です」


 国境の町入口。

 敵の聖女は二十人。主だった戦力はエクレール、フローズン、ウィンダミア、アストラル。そしてオージェとクリシュナだ。

 アスタルテは、セイヤに言う。


「セイヤ、気を付けな。お前の幼馴染だが……新人のくせにかなりの使い手だ」

「……わかった。俺は離脱してアシストする。ヒジリ、危険だけど……」

「お任せください」

「黒髪……お嬢ちゃん、あんたまさか」


 アスタルテは何かに気付いたが、首を振る。

 セイヤは離脱の隙を伺い、アスタルテに聞く。


「あんた、この数でも大丈夫か?」

「……馬鹿を言うガキだね。あたしを誰だと思ってる?」

「え……」


 アスタルテの剣が炎を帯びる。

 そして、敵聖女の一人が恐れるような声で言う。


「あ、アレクサンドロス聖女王国、聖女部隊筆頭……『(イグニス)』のアスタルテ……っ」

「元、さ」

「ええい!! さっさとかかりな!! 数で押しちまえばこっちの勝ちさね!!」


 クリシュナが叫び、若い聖女たちがセイヤたちに殺到する。

 セイヤの捕獲による王国の恩恵が目当てだろう。だが、目先の欲に走る愚かな思考では、アスタルテには決して届かない。


「『桜火連刃(おうかれんじん)』」


 炎を纏った剣が、踊るように動く。

 アスタルテ自身も動いた。魔力による身体強化をしながらの動きは風のように素早く、飛び掛かった聖女五人が、血を噴き出しながら燃え上がった。


「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」」」

「「あががぁぁぁぁっ!?」」

「悪いが手加減しない。死ぬ気で来な」

「…………」


 アスタルテは強かった。

 それこそ、クリシュナが連れてきた聖女なんて目じゃない。

 セイヤとヒジリは動かず、聖女が屠られる様子を見ていた。

 クリシュナも、額に青筋を浮かべて歯ぎしりをする。


「おのれ、アスタルテ!!」

「ババア……雑魚ばかりの相手は暇だね。そっちの有望聖女もどうだい?」


 アスタルテは、エクレールたちに剣を向けるが、エクレールたち四人の表情は変わらない。

 彼女たちを止めていたのは、オージェだった。


「どうかしら、エクレール」

「うん、強いね。さっすが王国の聖女!」


 母と娘の会話は、どこまでもいつも通りな雰囲気だ。

 オージェはエクレールの、フローズンの、ウィンダミアの、アストラルの頭に触れる。

 

「私が直接あなたちの思考にアクセスする。私の言う通りに動きなさい」

「は~い」

「わかりましたわ、おばさま」

「いいけどよ、セイヤをぶん殴るのはアタシに任せな」

「ふひひ……最強の聖女アスタルテ、勝てるかなぁ?」


 そして───エクレールたちが動く。

 残りの聖女たちも動き、ヒジリも動いた。

 セイヤは矢を抜いて番える。


「セイヤ、アシストは任せたよ!!」

「わかった!! ヒジリ、無理はするなよ!!」

「はい!!」


 アスタルテが聖女とぶつかり、ヒジリも斧を持った聖女と戦いを始める。

 エクレールたちは、真っすぐセイヤに向かって来た。


「せ~~~~ぃぃやぁぁぁぁぁっ!!」

「エクレール!!」


 セイヤは迷うことなく、エクレールに向かって矢を放った。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 エクレールに向けて迷わず射った。

 狙いは右腕───まともに当たれば腕がねじ切れる。

 

「あははははっ!! 『誘導電流(ジオストリーダ)』!!」

「!?」


 エクレールが左手を真横に突き出した途端、矢の軌道が変わって民家に突き刺さった。

 電磁力を使用し金属製の矢の軌道を変えたのだ。

 エクレールは右手に紫電を纏わせ、魔力による身体強化を加え接近する。


「お仕置きぃぃぃぃ~~っ!! 『雷突(ジオ)』!!」

「くっ───っ」


 セイヤは『鷹の目』で視力を強化。同時に身体強化。

 エクレールほどではないが、身体能力がアップする。

 エクレールとの距離は数メートルにまで接近し、エクレールが右手を手刀のようにして突き出してきた。


「あら?」


 だが───セイヤは躱した。

 首をひねり、突きを回避したのだ。

 ずっとアスタルテの元で修行してきたセイヤにとって、見え見えの手刀突きを躱すのはそう難しくない。

 目にも止まらぬ速度でコンパウンドボウをロッドに変形させ、エクレールの側頭部めがけて横に薙いだ。

 エクレールは突きを躱されて無防備───。


「おいおい、アタシらを忘れんなよ」

「───っ!?」


 オリハルコン製のコンパウンドボウが、エクレールの脇から伸びた手によって弾かれた。

 そう、敵は一人じゃない……緑色のショートヘアの少女、ウィンダミアだ。


「そういやぁよぉ……アタシら四人と遊ぶの、久しぶりじゃねぇか」

「っ……」

「そうですわね。ふふ……」


 ゾワリと、セイヤの背後に冷気が。

 比喩ではない、本当の冷気。それは……全身から冷気を発している少女、フローズンだ。

 

「あぁぁ~……うちは新薬の実験したいなぁ。でもま、たまには魔法でね?」


 さらに、セイヤの右足が脛辺りまで急に埋まった。

 がくんと体勢を崩す。なぜか、右足の地面だけサラサラの砂になっていた。

 アストラル。『大地(グランド)』の聖女としての力だ。


「せ~い~やっ!!」

「っ!!」


 そして───ほんの少し先、ほぼ目の前には。

 薄い紫色の長いツインテールを揺らしたエクレールがいた。

 目が蘭々と輝いている……それは、今まで何度も見た、セイヤを苛めていた時によく見た目だった。

 セイヤの身体が、急に重くなった。

 魔法じゃない。虐められていたころのトラウマが、少しずつ蘇っていたのだ。


「あ、ぁ……」

「ふふ、今までの分、た~っぷりお返ししてあげるね?」

「え、エクレール……」


 バチバチと、エクレールの手が発光……スパークした。

 そのままゆっくりと、セイヤに近づいてくる。

 フローズン、ウィンダミア、アストラルは嗤っていた。

 どこまでも、凶悪な笑みを───。


「主!!」

「ッッ!! なに、あんた……」


 だが、セイヤとエクレールの間にヒジリが割り込んだ。

 ヒジリはセイヤの背後から、エクレールに向けて飛び蹴りを放っていた。が、エクレールはその蹴りをバックステップで回避……セイヤとの距離が開く。


「ヒジリ……」

「主!! こんなところで折れないで!! 私との約束を!!」

「……ぁ」


 そうだ。

 セイヤは、ヒジリの復讐を手伝うのだ。

 こんなところで、負けている場合ではない。

 過去に、ケリを付けなくてはならない。


「そうさ。セイヤ、こんなところで諦めるんじゃないよ」

「アスタルテ……」


 セイヤは自分の後ろを確認すると……クリシュナが連れてきた聖女が全員、倒れていた。

 これで残りはクリシュナ、オージェ、幼馴染四人だけ。

 そうだ。こんなところで負けてはいられない。


「……っ!!」


 セイヤは、コンパウンドボウを強く握りしめた。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] んー トラウマとはいえ、さてさてどうやって乗りきるのか? モヤモヤしますが、先に期待。
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