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第6話 訓練

 

 異世界に転移して一夜が明けた。


 メイドさんが用意してくれた服を着て、運んできてくれた朝ごはんを食べた後、少し部屋で寛いでいたところ。

 アルがやってきて、訓練場まで案内をしてもらっている。

 途中、使用人や他の生徒とすれ違ったが、アルには挨拶しても僕には反応すらしない。

 もう慣れたことだけど、やっぱり寂しいものがある。


「ユウタくん?付いてきてるよね?」


「あっ、はい。います」


 一言も喋らない僕がちゃんと付いてきているのか不安になったのだろう。

 後ろに視線を向けながら歩いている。

 言葉を発すればちゃんと認識はできるが、黙ると途端に見失ってしまうようだ。


 因みに、"人と必ず話せる声(数オクターヴ上げた声)"は疲れると言ったが、こっちに来て少し意識してから全然疲れていないことに気付いた。

 それどころか身体はすこぶる快調で、今なら英単語も頭に入り安い気がした。

 今の状況では、こっちの世界での勉強をしないとだけど。





 王宮内にある広い室内訓練場。

 そこに騎士の格好をした女性が佇んでいた。

 背が高く、燃えるような深紅の髪を腰の辺りまで伸ばしている目付きの鋭い女性。

 彼女の名は、ローズ・ベネッサスといった。

 ハープラン王国騎士団・団長その人である。



 彼女を前に、アルが気安く話しかける。


「じゃあ、ローズ。後は任せたよ」

「なんでこの私が異界人なんかの面倒をッ」

「レイル殿下のご指名だ。ユウタにはしっかり本来の力を引き出して貰わないとだからね。そのためにも君が最適なんだよ。それに、他の異界人の教官よりは良いと思うけどね」

「殿下もお前も、随分とそのユウタって奴を買ってるんだな。……それで、そいつは?」


 分かってはいたけど、この人にも認識されていない。

 普通にアルの隣にいるのにもかかわらず。


「ここにいるよ」

「……ッ!?いつからそこに?」

「最初からさ。…このようにユウタは、凄く特殊な体質をしている。スキルにも恵まれているようだし、ローズも鍛えがいがあると思うよ」

「ふん。まぁいい。1週間だけ付き合ってやる。それでいいんだよな?」

「うん、いいよ。じゃあ、よろしく」

 

 そう言って、アルは訓練場を出ていった。







 僕は静かに床で胡座をかいて瞑想している。

 スキルを使いこなすのに大切なのはイメージらしい。

 僕には何ができて何ができないのか知る為にも、スキル名を頭に思い浮かべてみる。

 すると……。

 端っこで寝息を立てているローズが発する音以外の音が聞こえてきた。

 それは、隣の部屋の話し声であったり、廊下を歩く足音だったり、この訓練場の外の日常の音が僕の耳に届く。

 今までまったく聞こえなかったのに、イメージを働かせて意識をすると聞こえるようになった。

 これが、〈聴覚強化〉スキルの効果なんだろうと思う。



「ほぉ、もうなんか感覚を掴めたか。上出来上出来。じゃ、その調子で頑張れ」


 部屋の隅で寝っ転がりながら、ローズがそう言ってきた。

 1週間僕の教官らしいけど、基本放任主義だそうだ。

 今日の課題は、自分の持つスキルの可能性を考えること。

 スキルに頼ってどこまでできるか、またできないかを正確に見極めること。

 これがしっかりできていなければ、無駄に増長したり、いざというときに使えないんだそうだ。



 その後も、スキルのことを考えに考えた。



〈聴覚強化〉を考え…


〈肉体耐久力強化〉を考え…


陰の支配者(シェイドマスター)》を考えて…………













 ▲▼▲▼▲▼▲



 訓練4日目───。



 結構スキルを使いこなせるようになり、今では"陰"の強弱すら操作可能だ。

 女神様には、影を濃くするスキルなんてないと言われたけど、この《陰の支配者(シェイドマスター)》は、そんな不可能を可能にした。


 そもそもこの影が薄いというのは、光が遮られて出来るあの影そのものが薄いというわけではない。

 存在が地味だったり、目立たないというような人物を指していう慣用句にすぎない。

 そんな曖昧な事象に対して、このスキルは効果を発揮した。

 僕が思うに、これはスキル所持者の主観に大きく左右されるのではないだろうか。

 なんとも都合の良い、まさにチートとかいうやつだけど、実際()()()()すると、普通に挨拶を貰えた。

 この瞬間、自然と笑みが溢れてスキップしたくなったのは言うまでもない。

 このまま、元の世界に戻れなくてもいいかと思った程だ。



 さて、今はお説教中だからここらで思考を中断しようと思う。


「聞いているか?ユウタ」


「あっ、はい。聞いてます」


「それだ、それ。お前は俺の"隠密"なんだぞ?認識されるようになったのは喜ばしいことかもしれないが、あまり目立つ行動は控えてくれ」


 浮かれて、今の状態で王宮内を散歩したせいで、使用人の間では結構噂になっているらしい。

 そのせいで、こうしてレイル殿下から直々にお説教を受けているのだ。


「まったく、悪いことだとは言わないが少し控えてくれ。わかったな?」


「はい!わかりました。……これでいいですか?」


 陰を弱めると、レイル殿下が呆れたようにため息をついた。


「今は訓練中なんだから、弱めなくていい。……ローズ、頼んだ」

「わかりました、殿下」


 そう言うと、レイル殿下は訓練場を出ていった。

 僕の方を恨めしそうに見ながら。



「フッ、あんな殿下は初めて見るな。中々期待されているようだな、ユウタ」


「そうなんですかね?」


「よし、じゃあ新しい課題だ。今日は──殺しをやってもらう」


「……殺し、ですか?」


「ああ。隠密ならば暗殺をする場面も出てくるだろう。その時の為にも、今から人を殺せるようになっておかなければならないからな」


「主な仕事は情報収集だと聞いたんですけど?」


「それは当然だろう。基本平和ボケしている異界人に、いきなり殺しをやってもらうと言って断られたら困るからな」


「じゃあ、レイル殿下に嵌められたんですね。……まぁいいですけど」


 僕の言葉に、ローズは面食らったような顔をした。


「いいのか?随分とあっさり受け入れるんだな」


「まぁ、そのぐらいの覚悟はしてましたから」


「そうか……。まぁ、私も鬼ではない。最初は動物からにしよう。王都の北に小さな森がある。今日の訓練はそこで行うから、外用の服に着替えて王宮の正門まで来い。遅かったら……殺す」


 普通に失神するんじゃないかってぐらいの殺気を放ってから、ローズは訓練場を出ていった。

 少しチビったのは内緒です。










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