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第4話 遅れてきた異界人

 

 気が付くとそこは薄暗い場所だった。

 窓などはなく、床には滑らかな材質の絨毯が敷かれていた。

 妙に心地よくて、このままもう少し寝ていたいという気持ちにさせられるが、そんな状況でもないかと仕方なく起き上がる。



 段々慣れてきた僕の目に入ってきたのは、大きく荘厳な雰囲気を漂わせている部屋だった。

 天井にはいくつもシャンデリアが付いており、明るければさらに荘厳な雰囲気が増すんだろうと思った。

 今は真っ暗で使われていない部屋だが。


 女神様に転移して貰ったのに、誰の歓迎もない。

 先に来たはずの学校の人間もいない。

 今の状況で考えられることはふたつ。

 ひとつは、他の者たちと違う場所に転移させられた。ひとりずつ別々の場所なのか、僕だけが違うのか分からないが。

 そしてもうひとつは、僕が女神様と話してる間にこの部屋から出ていってしまったか。


 恐らく後者だろうと思う。別々に転移させるには百ヵ所近くの転移場所が必要になるし、分ける必要性はない。

 だとすると、皆はこの部屋に転移し、"アフィラス"の人たちから説明を受けた後、出ていったと考えるのが自然だ。

 しかし、それは少々厄介である。



 仮に、この異世界転移が国主導であるならば、ここはやっぱり城の一部屋で間違いない。

 そして、転移してきた者は、皆歓迎を受けここから出ていった。

 その後に、この部屋から出ていったら不審者扱いになる。

 いくら影が薄いと言っても、この世界には魔法とか特殊な力があるみたいだし、油断はできない。

 一緒に転移してきた生徒や先生たちも、僕の顔を知っている者はほとんどいないはずだから。

 唯一主張できる特徴がこの制服だから、説明すれば納得してもらえるかもしれないが、どうなるかはわからない。


「まぁ、頑張ってみるか。早く元の世界に戻りたいし」


 とりあえず部屋から出ないとと思い、ひとつしかない巨大なドアを引っ張るがビクともしない。

 押したり、スライドさせてみたりしたがそれでもダメ。

 この頑強なドアは一切開かなかった。


「ウソでしょ……どうしようコレ。凄いピンチじゃないの?」







 ▲▼▲▼▲▼▲



 この部屋に転移してから、1時間ぐらい経っていた。


 ドアは一向に開く様子はなく、部屋の中を探索してみたが、特に脱出できそうな場所も物もなかった。

 というわけで、誰かが来るまでこうやって待つことにしたわけである。

 なのだが、不安であることに変わりはない。

 このまま誰もこないで、餓死するとかつまらない死に方でもするんだろうかとそんなことを思ったときだった。


 ドアの周りが薄く光り出した。

 すると、観音開きの重そうなドアがゆっくりと開き始める。


「あっ、あいた!」


 ついうっかり僕がそう声を出すと、外から誰何する声が聞こえた。


「誰だッ!?」

「中に誰かいるのか?」


 そうして部屋の中に入ってきたのは、白銀の鎧を着た金髪の騎士と黒のトレンチコートを着た青髪の男だった。

 いずれも整った顔立ちをしており、漫画やアニメの中に入り込んだような、変な感じだった。


「ん?誰もいないですね」

「そうだな。確かに声が聞こえたんだが」


 ふたりはキョロキョロと部屋の中を見渡し、誰もいないのを確認する。

 どうやら、僕の影の薄さはこの世界の人たちにも通用するようです。

 考えてみたら当然か。女神様でも気付かれなかったし。

 女神様と話した後だったから、声もそのままだった。


 ………いや、気付かれた方がいいのかな?




「まぁ、誰もいないならいいか。照明(ライト)


 青髪の男が言葉を発すると、天井のシャンデリアに光が灯る。

 音声入力?



「アル、使えそうな奴はいたか?」

「いえ。あー、一目でビビッときた者はいませんでした。鍛えれば使えそうなのは何人か」

「そうか。魔王軍と戦う戦力ももちろんだが、内にも少しは眼を向けて欲しいものだな、父上にも」

「左様ですね。東部の貴族たちが善からぬことをしているという噂もありますし。早急に手を打たなければ付け上がるでしょう」

「だな。とはいえ、まともに話しを聞いちゃくれない。父上は、魔王軍を滅ぼすために異界人を育てることしか今は頭にない」

「存じております。ですからこうして殿下が動いていることも」



 何やらふたりで話し始めてしまった。

 そして、聞き逃せないようなことを言っている。

 金髪の騎士の名前が、愛称か本名かわからないけどアルと言うらしい。

 そして、青髪の男がデンカ。いや、殿下が正しいはず。

 だとすると、とんでもなく偉い人物である。

 盗み聞きしてしまったが、後から知られるよりかはいい。

 そう考えた僕は、名乗り出ることにした。



「あの~すいません」


「「ッッ!?」」


 ふたりの男は同時に視線を向けてきた。

 だがやはり、目線が合わずに声の発生源を探っている。

 女神様にはめんどくさいと言われたが、まさにその通りだと自分でも思う。


「ここです」


「なッ!?貴様、どこから沸いて出た!」

「うぉ、びっくりした」


 騎士の男──アルは、即座に青髪の男を庇うようにして前に出ると、腰に差している剣の柄に手をかける。


「何者だ!答えようによっては今すぐ斬る!」


 そう言って今にも剣を抜こうとしているアルの隣へやって来た青髪の男が、その肩を叩いて止めに入る。


「まぁ、待て。アル。お前その服装。異界人か?」


「異界人?」


「異界人を知らないってことはやはりか。異界人というのは、異世界からやって来た者をいう。昔はそのまま異世界人と呼んでいたがな。アル、警戒を解け。こいつは、異界人のようだ。なぜここに残っているのかは知らんがな」

「……たしかにそのようですね。全部で99人。全員部屋へ案内したはずですが」

「そうだな。おい、なぜここにいるのか説明はしてくれるな?」


「その前にあなた方は?」


「……殿下。やはり、こいつは違うのでは?」

「いや、たしかに異界人で間違いない。お前は、先程の父、陛下の説明を聞いていなかったのか?」


「はい。女神様と少し話しをしていたもので」


「なんと……そうだったのか。そいつは凄いな。あぁ、私か。私は、レイル・ランクス・ハープラン。このハープラン王国の第2王子だ。父である国王陛下に代わって謝罪する。此度の召還は、我が国の苦肉の策であった。大変申し訳なかった」


 青髪の男──レイル殿下からの謝罪。

 まさか謝られるとは思わなかった。

 偉そうに『礼を言う』ぐらいかと思っていたのに、頭を下げて謝罪する王子のその様には、少し好感が持てる。


「殿下、そこまでしなくても」

「いや、父上が軽すぎるのだ。このぐらいして当然だろう」


 どうやら、皆の前で謝罪した国王陛下は軽すぎだったらしい。

 ……その情報、いらん。

 ただまぁ、許さないと先へ進めないだろうし。



「許します。まさか頭を下げて謝ってくれるとは思わなかったので。僕の名前は、佐伯有太といいます」


「そう言ってもらえるとこちらとしても助かる。えぇと、たしか名が後ろだったな。ユウタ、こいつは俺の直属の部下、アルフェンダだ。長いからアルと呼んでいる」

「レイル殿下の騎士、アルフェンダです。アルと呼んで頂いて構いません。先程は失礼しました。女神様と話されていたということですが、詳しく聞いても?」


「はい。実はですね───」










 ▲▼▲▼▲▼▲



 女神様に呼ばれてからの僕の行動を話すと、ふたりは唖然としていた。

 こんなに影の薄い人物を見たのは初めてなんだろうと、そう思っていたが。


「よくそんな状況で呑気に食事できますね」

「たしかにその通りだな。目の前で知人が殺されたというのに、その胆力か。ふむ……」


 違うことで驚かれていたようです。

 あと、あのヤンキー君は別に知人ではありません。


「いや、お腹すいていたもので」


 僕が言い訳してもふたりは聞いていない。

 それどころか、ふたりの目がギラリと変な光を宿したように見えた。


「殿下。今、ビビッときたんですが」

「奇遇だな。俺もだ」


 そう言ったふたりの熱視線が僕に注がれ続ける。

 目を離すと見失うという話をしたからだと思われるが、こう見られ続けるのには慣れておらず、居心地が悪いと感じ視線を外す佐伯有太16歳だった。







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