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No.5 強襲!青洋連邦軍

 目覚ましの鳴るより早く、慧慈は目を覚ました。時は6時30分、普段より1時間も早く起床したことになる。本来なら二度寝すら考えるほどだが、状況がそれを許さなかった。

「おーい、起きろ」隣のベッドで眠る亨を揺り起こす。

「んんん……後13分」

「何だその微妙な数字。ほれ、起きんか」亨の足の裏のツボを、親指で思いっきり押す。すると、彼は悲鳴を上げて飛び起きた。

「い、痛いなもう。何すんだよ」

「それはこちらのセリフだ、早く朝飯食って準備するぞ」用意された衣服を投げる。軽装のアーミー・ジャケット一式だ。

 男の着替えというのは早く、二人してものの数分で終えた。亨はパソコンの入った袋を提げ、慧慈は手ぶらで食堂に向かう。

「ところで、昨日渡したマニュアルは読んだ?」

「読了してある。全く、変なギミックばっかり積みやがって」

「そう言うなよ。勝つための手段は選ばないってのがリクエストだろ?」

「はいはい」

 食堂に到着すると、自分達以外の不特定多数が存在している。だからこそ、二人は食事中は殆ど口を開かなかった。下手な事を喋ってヒントを渡す訳にはいかなかったからだ。

「はぁ、食った食った。それにしても、ミリ飯ってこんな美味いのか」

「ケイジ、ここは異世界だよ。僕達の世界の軍隊が同様の調理技術を持っていると判明したわけじゃない」

「今更それを言うなよ。さて、格納庫へ向かうか」

 庫内に到着した二人は、早速動力炉の慣らし運転と駆動部の確認を始めた。それが終わるといよいよ搭乗する。

「よいこらせっと。さぁて、一世一代の大勝負と行きましょうかね」

 腰を上げ、直立させる。慧慈はこの一日で操縦が格段に上手くなっていた。

「ふぅ。やっぱり実物は違うなぁ」

「そりゃ良かった。こうなったら僕も覚悟を決めたよ、今日の勝負は絶対に負けられないね」

「当然だろ、何を言ってんだよ」

 そんな話をしながら、亨はキーボードを叩く。起動音が鳴って、モニター電源が入った。それと同時に慧慈の隣にユゥのホログラム映像が映し出される。

「よーし、今日は頑張っちゃうぞ!」

「頼りにしてるぜ、お前が勝利の鍵だ」

「何それ?何かのネタ?」

「あはは、それなら胸にライオンの顔でもつけなきゃね」

少なくともこの空間では、二人にしか分からないネタである。

「そうだ、名前を付けなきゃね。いつまでも名無しじゃカッコ付かないだろ?」

「名前か……だったら、いいアイデアがあるぜ」

「それは?」

「名付けて、《ダイリンオー》だ。『Die and Re-incarnetive Auto-humanoid mechanic』の略って感じでどうだ?」慧慈は自信満々に話す。

「なるほど、『死と転生の人型マシン』って所か。僕は良いと思うよ」

「まぁ、ケイジにしちゃ良いセンスじゃないの?」

 亨達からの評価も悪くなかったようで、慧慈は軽く安心した。

「じゃあ、早速勝負と行きますか」

 勢いそのまま倉庫を出ようとした時、整備員から止められる。

『今はダメだ!大人しくしていろ』

「あぁ、何でだ!?」冷水をかけられ、慧慈が声を荒げる。

『基地周辺に未確認の機影が観測された!素人には危険だから一旦下がれ!』

 整備員の発言とほぼ同時に、格納庫のサイレンが鳴った。慧慈は一度、亨とユゥに相談する。

「一旦引けだってさ。どうするよ」

「彼の言う通り、僕達は戦闘の素人だ。とりあえずは様子を見るべきだろう」

「お父さんに賛成。下手に動いて迷惑かけちゃダメだよ」

「……了解。それじゃあここで待機させてもらう、いいか!?」慧慈は整備員に向かって確認をとり、一時的に入り口脇へ移動した。

 その間にも、外では兵士たちの怒号が聞こえる。

「相手は航空機だ、フライトパックの装着を済ませろ!準備が出来た小隊から輸送艦に乗り込め!」

「対空砲座は基地防衛の配置につけ!巡回部隊は市民の避難に迎え!」

「くそぉ、休む暇がねぇぜ!!連日の襲撃でこっちはへとへとだってのによ!」

 格納庫の内で彼らの声を聴きながら、慧慈達は最悪の場合に備えていた。

「……亨、戦況がマズくなったら俺達も出るぞ。ここに居続けちゃ余計に危ないからな」

「仕方ないな。まぁいいさ、性能を見せつけるチャンスだ。ユゥ、念のためリミッターはいつでも外せるようにしておいてほしい」

「うん、分かった」

 彼らはそのまま、事態の趨勢を見守っていた。



 同刻、青洋連邦軍航空艦隊は先遣隊である高速偵察機部隊から取得されたデータを頼りに紅州帝国領のグルカニアへと進軍していた。

「少将、現在帝国側は我々に対し迎撃の体勢をとる模様です」眼鏡をかけたオペレーターの女性が、後方に座する男に報告した。

「だろうな。少なくとも、奴らには穏便に済ませるという選択肢はないようだ……上からの指示は?」少将と呼ばれた彼は、何ら驚くことなく淡々と返答する。

「『適度に叩き潰せ』との事です」

「ふっ、また抽象的なオーダーだ。前線に立つ人間としては些か困るのだがな」苦笑しながら、男は艦橋内の全員に対して指示を飛ばした。「諸君、今こそ帝国を征する時が来た!決して慢心する事なく各員の資質を余すところなく発揮し、この戦いに勝利せよ!」

 そのような発言をする彼は、一方で僅かなもどかしさを感じてもいた。

(自ら打って出る事が出来ぬとはな……いや、椅子にしがみつき離れようともせぬ『老人達』よりはマシか)

 心の中で毒を吐いた《少将》は、自身の脳が生まれたままである事に感謝していた。連邦の人間は、その殆どがインプラント処理を施されている。隣の女も、他のクルーもまた自らの行動・思考が収集されているのである。しかし誰も彼も、それについて否定的な感情を持つことは無かった。上層部は何も言ってはいないが、恐らく精神制御により思想や発言のコントロールを行っているのだろう。

(災い転じて福をなす……か。こればかりは、我が父母に感謝しなければな)

 常にズキズキと痛む脳の奥に苦悶の表情を見せぬよう言い聞かせつつ、彼はブリッジから指揮を続けた。



 一方、帝国側もこの状況を黙って見ている訳ではなかった。

「来た、コード・《ドラゴンフライ》!」

 スクランブルにいち早く対応したのは《カーディナル》所属の3人だ。彼女らは帝国軍の最新鋭量産機である《ブリード》を駆り、連邦機を追跡する。

「さすが無人機、かなり無茶な動きね!」白地に黄色のラインを要所に纏った《ブリード・サーチャー》に乗るのはミナ・ライトニング。

「だけど人様には別の強さがあるもんだぜ!」白地に橙色のカラーリングの《ブリード・ストライカー》には、ナナ・ディザイア、

「そうそう」白地にピンクの《ブリード・スイーパー》は、レナ・エコーが操る。

 彼女達は《ドラゴンフライ》が一斉に発射したミサイルを回避した。《ストライカー》が腰の鞘からレーザーサーベルを引き抜き、《ドラゴンフライ》の一機に接近して突き刺す。次いで《スイーパー》が携行光線砲・ハンディビームシューターで残る二機を素早く撃ち落とした。

「二人とも、新たな機体が接近しているわ……これは!?」ミナが乗機のレーダーサイトに映った機影に驚く。

「どうした!?」「なに?」ナナとレナが同時に反応した。ミナは彼女達に対し、その機影の特徴を述べる。

「ひ……人型よ!連邦の人型、識別コード《スタッグ》!」

 《サーチャー》が捉えた、視界のその先には。

 頭部に二本の角を備えた、水色の人型兵器だった。

「へっ、いい機会だ!叩き斬ってやるぜ!」ナナがサーベルで斬りかかろうとする。が、それは《スタッグ》にあっさり回避された。更に、《スタッグ》は右足で《ストライカー》を蹴飛ばし、追撃を掛ける。

「な、何っ!?」

『……駄目だな。この程度の相手とは……』通信回線に流れてくる、男の声。《スタッグ》のパイロットだ。

「どいて。落ちなさい」レナが《スタッグ》を射撃するも、今度は左腕のシールドで防がれた。

『ほう、防御能力も優秀か。《ジルコニオン》……予想以上の出来だな』

「……テメェ、何者だ!?」

『……弱者に名乗る名はない!』男は《スタッグ》改め《ジルコニオン》の左掌から光球を撃ち出し、三機の《ブリード》をその内部に閉じ込めた。

「こ、これは……電磁バリア!?」驚愕するミナ。

「くっ、バリアならぶっ壊すまでだ!」ナナがサーベルを壁面に突き立てようとするが、簡単にはじき返された。

『無駄だ、そう簡単には破れはしない……!』《ジルコニオン》は光子拳銃を球状のバリアに押し当て、内部めがけて連射した。発射されたビームはバリアに反射され、球体の内部を何度も飛び回る。その途中で《ブリード》の装甲を穿ち、ダメージを与えた。

「このままじゃ、やられる……!?」

「くそっ、無様だぜ……」

『終わったな……いや、まだか』男が見つめるモニターには、深紅の騎士が目前に迫りつつあることを示していた。

「お前達、無事か!?」《ブラッディア》に乗るリディアが、三人を救出しに来たのだ。

「リディア様、申し訳ございません!」

「構わんさ、それよりも今すぐに助けてやる!はあああっ!」リディアは《ブラッディア》のレーザーサーベルを抜き、バリアを縦に斬りつける。しかし、効果は無かった。

「手ごたえがない……ナナ!サーベルを使え!私と同じ場所をタイミングを合わせて斬るんだ!」

「りょ、了解!」

『させるか!』《ジルコニオン》の頭部からバルカン砲がせり出し、無数の銃弾が撃たれた。リディアはバックパックのガードバインダーを展開しそれを防ぐが、更なる脅威が迫る。

「側方より敵機多数……そ、そんなっ!」

「どうした!?」

「《スタッグ》と類似した人型機が……20機!?」

「くっ……!こうなれば!」

 リディアは《ブラッディア》の背中にマウントされたある武器を引き抜いた。それは、全長16m程の巨大な非実体剣だ。機体色同様の暗い赤に染まった刀身を見て、男が叫ぶ。

『その刃……思い出したぞ!貴様、《紅の聖騎》か!!』

「その二つ名を知っているとはな!だが、今は貴様に構っている場合ではない!」《ブラッディア》が両手で刃を保持し、バリアを断とうとする。

『そうはいかんな。噂に聞くその腕前、一度剣戟を重ねねば気が済まぬッ!!』《ジルコニオン》は右腕のブレードを展開し、《ブラッディア》に襲い掛かった。

「邪魔をするな!」

『邪魔ではない!強者に憧れ、その力量を身をもって確かめようとする好奇心だッ』

「リディア様、後ろ!」

 《ブラッディア》の後方から、《ジルコニオン》に酷似した機体のビーム砲が撃たれた。死角からの攻撃に対し、リディアは対応できなかった。

「ぐああああっ!!」

『………………貴様、それが本気か?弱者を生かそうとして死ぬとは、理解に苦しむな……』

 《ジルコニオン》が腰のレーザーサーベルを抜き、動きの止まった《ブラッディア》を斬りつけようとする。

『終わりだ……期待外れだったか』

「くっ……」リディアが撃墜を覚悟した、その時。



「邪魔するぜぇええええええ!!」

 《ジルコニオン》の背後から大剣で斬りかかる、鋼鉄の巨人。

『何だと!?』奇襲を受けた形の《ジルコニオン》だが、抜いた刃で受けようとする。しかし、大剣はそれをすり抜けて裂傷を与えた。

『ぐはああああ!?な、何が起きた……!?』

「そ、その機体は……」

「気が付いたみたいだね。急ピッチで飛ばせるようにした甲斐はあったかな?」

「さぁな、それは今から決まるこった!キリキリ行くぜ、《ダイリンオー》!!」

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