表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

No.1 完成!スーパーロボット

 ××県○○市の住宅街に立地する『生命機関研究所』。友人が所長をやっているこの場所に、龍神慧慈りゅうじんけいじは現れた。その理由は、『見せたいものがある』というものだ。

「おーい、着いたぞー」

 貴重な休日にいきなり呼び出しやがって、一体何を見せたいというんだ。高校生である慧慈には、平日の心身の酷使による疲労を回復させられる時間が足りなかった。ドアをノックし、主を待つ。

「はいよー」

 扉が開かれ、中からやや小柄な少年が出て来た。彼の名は宇奈月亨うなづきとおる。齢17にして『生命機関研究所』の所長という、屈指の天才である。親の仕事の関係で1年前までアメリカに住んでいたのだが、そちらでは世界有数の工科大学を若干12歳で卒業し大学院へ進学、そちらも14歳で修業となった。その後は現地で電子工学を研究していたが、たまたま見ていたロボットアニメに影響され巨大ロボット制作を志し日本へ帰国、前述の研究所を設立した。なぜ日本に帰ってきたのか、と聞かれた際には「日本と言えばスーパーロボットのメッカ、この地にて二足歩行型巨大ロボットの研究を行うのは当然」と答え、マスコミを唖然とさせたとかさせてないとか。

 一方、慧慈は何の変哲もない普通の高校生である。学業成績も平凡、家も普通、彼女もいない。そんな彼が亨と友人になったのには訳がある。

「さぁ、入った入った。一応、今の段階じゃ機密だからね」

「何が機密だよ……」

 急かされて所内に入る。長い廊下の奥に、大仰なドアが立ち塞がる。亨は隣の壁面のコンソールパネルを開き、数字のないテンキーにパスワードを打ち込む。それが16の3乗―つまり4016だ―であることは慧慈も知っている。そして、この先にあるのがそれほどの重要性を持ちうる空間であることも。

「相変わらず、訳の分からんことをしてんのな」

 扉の奥にあったのは、研究所のメイン・ルームだ。様々な機械・部品・工具が散らばるこの部屋は、亨のホームグラウンドである。しかし、素人の慧慈には理解の追いつかない分野である。

「訳が分からないって言うなよ、同好の志じゃないか」

「……いい加減それは忘れてくれ」

 さて、先程述べようとした慧慈と亨の関係性、その理由は一つ。慧慈が「ロボットオタク」であったからである。

 日本に帰国した亨は、早速参考にすべきロボットを探し求めた。幸いにしてそれなりの資金があった彼は、人型・非人型に関わらず市販されているロボットを買い漁り、その全てを調べ上げた。しかし、彼が求める情報はそこにはなかった。何故なら、現在の機械技術では巨大ロボットの建造が困難であるためだった。亨が造ろうとしているのは最低でも全長20m程度を想定しており、その建造にはある意味で突飛な発想が必要であったし、そのためには一度連綿と繋がっていた既存の技術体系から飛躍して全く異なる理論を追求する必要があった。

 では、亨はいかようにして斯様な理論に触れようとしたのか。答えは単純である。古今東西の巨大ロボットを題材とした作品を集め、その設定をまとめる事だった。しかし、長年日本を離れていた彼には、どんな作品が放映・制作されていたのかは知る事が出来ても、それらを実際に手に入れ視聴する事は困難だった。ある程度有名な作品であればオンデマンド配信で見る事は出来たが、そうでなければ直接記録物を手に入れる必要性にかられた。

 そこで、亨はネット上で自身と同じくロボットアニメを愛する人物を探し、その人物を通して借用しようと考えた。そして、大量に見つかった不特定多数の中から、自宅付近に住まうある人間を選んだ。それが……。

「軽いノリで接触したのが運の尽き、だったか」

 龍神慧慈、その人であった。

 彼は幼少期からロボットアニメを中心に多くの娯楽作品を好み、またそれらの記録・録画やグッズの収集等を行っていた。当然自身の小遣いでは限界があるとして、高校生になってからはアルバイトも始め、その分の収入を趣味に当てるほどであった。そんな彼が亨と接触したのは、新作アニメの情報を探していた時だった。たまたま検索結果に挙がっていた掲示板上の一スレッド、その『立て主』との交流。後にその『立て主』が宇奈月亨なる人物であることを本人から知らされ、一度直接会いたいと言われた。亨の天才ぶりは日本のマスメディアを通じて知っていたし、特に不都合を感じる事もなかったため、慧慈はその誘いに乗った。

「僕としては、幸運に思うよ。何てったってケイジに会えたことでこんなにも世界が広がったんだからさ」

「そりゃどーも」

 実際に会ってみると、宇奈月亨は極めて気さくかつ陽気な人物であったし、ロボットに対して熱い思いを抱いていることは直ぐに分かった。だから、意思疎通自体は容易だった。

(っても、まさか本気で巨大ロボットを造ろうとしてるなんて予想は全く出来んかったな)

 慧慈だって馬鹿ではない。現実的観点から考えれば、巨大二足歩行型ロボットが兵器として多くの問題を抱えている事は自明の理である。自律性と安定性、整備性とコスト、問題は山ほどある。だが、亨はそれを承知の上でロボットへの憧れを語った。

「合理性とかそういうのは、ロマンの前には大した問題じゃないさ。それに、ケイジもロボットが闊歩する世界を諦めてはいないんだろう?」

 亨は本気だ。慧慈は彼の熱意に押され、友人となった。前述の通り物理的距離も大したものではなかったし、何より世界にその名を轟かせつつある天才少年の助手的存在ともなれば、自分にも多少の恩恵はあるかもしれないと考えた。

「で、用件はなんだ。何か見せたいって言ってたが」

「あぁ、それね。今から見せようと思うんだけど、大丈夫?」

 今更だな、と慧慈がため息をつく。

「問題ないぞ」

「良かった。じゃあついてきてくれ、地下の方にあるんだ」

 地下と聞いて、慧慈は不思議に思う。この部屋で見せられないものとは何なのだろうか。それにしても亨とはそこそこの付き合いだが、未だ研究所の地下階には行ったことが無い。果たしてどのような空間なのだろうか。

「いいぜ、何処から行くんだ?」慧慈の質問に対し、亨は部屋の隅にある床のタイルを指さした。近くまで移動してみると、一枚だけあからさまな取っ手が取り付けられている。

「床の扉を……こうやって、開ける。ほら、地下への階段があるだろう?」取っ手を握り、引っ張るようにして開く。なるほど、言われた通りやや窮屈な階段が階下に向かって伸びている。

 懐中電灯を片手に地下へと降りる。数度の踊り場を経て、鉄扉の前に至る。

「この鍵で開くよ。ほら」

 手渡された鍵を錠前に挿し、捻る。ガチャリと音が鳴った。どうやら、上手く開けられたようだ。

「さぁ、お立会いだ!」奥の通路に立った時、後ろの亨が声高らかに叫んだ。それと同時に地下室の照明が入り、その眩しさに目が眩む。光に慣れ目を開いた瞬間、慧慈の前に立っていたのは、



 慧慈よりもはるかに大きい、鋼鉄の巨人だった。



 唖然とする慧慈に、無邪気な表情で亨が話しかける。

「凄いだろ、昨日やっと完成したんだ。勿論張りぼてじゃない、実際に動くロボットだ」

「……凄いなんてものじゃないな、これ」

 そうか、地下室はこのために用意されていたのか。考えてみればロボット制作のためのスペースだけでなく、格納庫も必要となる。いや、それ以上にこのロボットはなんだ。亨の方を振り向く。

「聞かれたからには教えなければならないね。これこそが僕が見せたかったもの……宇奈月亨作・スーパーロボット第一号さ」

「今一つ締まらない名前だな」突っ込みつつ、件の鉄像を観察する。

 男性的な精悍な顔立ちに、がっしりとした上半身。それらを支え、安定させる役割の脚部は太く、力強い印象を与える。塗装に関してはまだ行っていないのか全面メタリックシルバー、武装についてもパッと見で目立つようなものは無い。

「そこらはまだ、手を加えてはいないんだ。とりあえず素体は出来たって事で呼んだんだけど……」

「いや、よくやったじゃねぇか」

 ついに彼の夢が叶ったのだ。慧慈にとっても喜ばしい事であった。

「んで、まさか見せびらかすためだけに呼んだんじゃないんだろう?俺を呼んだって理由」

「あぁ。ケイジには、テストパイロットをやってもらいたくてね」

「テストパイロット……。お前一人じゃ無理なのか」

「こいつは二人乗りで設計したからね。僕一人じゃ十全には動かせない」

 亨はロボットの後頭部を指差した。回り込んで確認するも、ここからじゃよく見えないな。慧慈がそう言うと、亨は角の梯子を上るように指示した。言われたとおりに上り、鉄板と金網で構成された細い通路に出る。ロボットの背後まで移動し、改めて後頭部を観察する。

「ここからコクピットに入る。今から開けるよ」亨がポケットからボタンの付いた端末を取り出す。車のカギのように、ボタン一つでロックが解除された。開いた蓋部がそのまま橋のように通路に接地した。

「内部は……思ったより広いな」

「いざという時は数日程度なら内部で生活できるように設計したからね。シートにはリクライニング機能もついてる」

「肝心の操縦システムは……まるでアーケードみたいだな」

 厳密には、ゲームセンターに設置されている某有名ロボットのコクピットを模したアクションゲーム筐体と言った方が良いだろうか。後ろから乗り込んだ亨が蓋を閉めると、尚更雰囲気が近くなった。

「ケイジが大好きなゲームに合わせて作ってみたんだ。多分同じように動かせるはずだよ」

「違いは複座式ってことぐらいか。動力源は電力か?」

「その通り、独自開発の大容量バッテリーと高効率の太陽光電池で稼働する」

「連続駆動時間は?」

「平均で9分45秒ぐらいかな。まだ武装も何も積んでないから参考になるかどうかわからないけど」

「10分もたないのか。こりゃかなり節約して動かさんとならんな」そう言いつつ、慧慈はシートベルトを締めてレバーを握った。手ごたえも質感も、あのゲームにそっくりである。亨も同様にベルトを締め、モニターの電源を入れた。ブォンと音が鳴り、周囲に備え付けられた液晶モニターに地下室内部の映像が映る。非常に鮮明で、まるで直接見ているかのようだ。

「お約束通り、メインカメラは頭部に積んである。ここは少々奮発したよ」

「どれだけかかってるのかは聞きたくねぇが、少なくとも壊さない方が良い事は確かだな!」操縦する手に冷や汗が噴き出す。いや、慣らし運転なので無茶な動きはしないつもりだが。

「ところで、こんな狭い場所じゃ満足に動かせやしないな。他にいい場所は無いのか?」

「よくぞ聞いてくれたね。こんな事もあろうかと、最適の場所を用意してある」

 それ、微妙に使い方間違えてないか。慧慈のツッコミをスルーし、亨が持ち込んできたノートパソコンに何かを打ち込む。カタカタカタッと軽快なオノマトペが続く。

「第3ゲートを開ける。ケイジはしっかり操縦桿を握っててくれ、ちょっと衝撃がきついからね」

「何だ何だ、仰々しいな。一体何を……」

 その時。コクピット内に女性の声のアナウンスが鳴り渡る。正確には、女性の声を模した合成音声だが。それと同時に目の前の壁面が真っ二つに割れ、その奥に大きな通路が伸びていた。

《ガイドウェイレールナンバー3、スタンバイ。これより電磁リニアカタパルト作動します。カウント10、9、8、7、……》

「待て、ちょっと待て」

《……、3、2、1、0。カタパルト、作動!》

 ドン、と強い衝撃が全身にかかる。その直後、モニターが真っ暗な闇に包まれた。車輪がレールを激走するような音がトンネル内に響く。

「ははは、やっぱり発進シーンといえばこれだよね!ずっと憧れだったんだ!」

「お、おい!その口ぶり、もしかしてこれを使ったのって……」

「勿論今日が初だよ。ケイジにも味わってほしかったからさ」

「てめええええええええ!!やめろおおおおおおお!!」

 慧慈の絶叫も空しく、マシンは地下を激走する。そして……。

「さぁ、いよいよゲート出口だ!着地準備を頼むよ」

「ええぃ、真の敵は味方か!?」

 目前に光あふれる出口が広がっているのを見て、慧慈はレバーを起こし対ショック体勢をとる。しかし、二人の……亨の想定していた世界は、そこになかった。



 研究室地下の長いトンネルを抜けるとそこは、戦場だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ