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九話 手持ち無沙汰だったので

「食事の用意が整っておりますよ、いい加減に起きて下さいませキノシタ様」


「んもーアリサたんってば、キノシタ様なんて他人行儀な呼び方はやめてって昨日も言ったじゃーん! もしかして忘れちゃった? ほら、教えた通りに呼んでくれないとさ、僕チン起きる気なくなっちゃうなー」


「……ジ、ジュンちゃん、起きて下さいませ」


「ええー? どーおしよっかなーまだ寝足りないんだよなー。……あ、そうだ! ホッペにチューでもしてもらえたら、シャキっと目が覚めるかも知れないぞっ」


「キ、キノシタ様? お戯れが過ぎま――」


「……ジュンちゃん」


「ジ、ジュンちゃん、お戯れはこのへんで……」


「僕チン、チューしてくれないと起きないもんねー」


「……ッ! このクソガキ、いい加減に……っ」


「……はぁ、日本が恋しいなぁ。父さんも母さんも元気かな……会いたいよ」


「……クッ!!」


「ほらー、ほっぺにチュー! アリサたん早くー?」







 ……うっわー、なんか見ちゃいけないものを見てしまった。

 僕チンにアリサたんって……。


 俺が聖痕を移動させたことが原因で、兵士に連れて行かれてしまった木下くん。

 その後どうなったのか気になっていたので、彼の部屋まで確認しに来てみたんだけども……。


「いっやー、聖痕が消えてホント良かったわー。よくよく考えたら討伐の旅とかメンドクセーしなー! ここのメイドさんはみんな可愛いし、ツレない態度も取らないし、なにより甘えたい放題! 俺の求めた理想郷は、ここにあった!」


「……私共のもてなしが、気に入って頂けているようでなによりです」


「うんうん、これからも末永くヨロシクね! アリサたん♪」


「……ええ、こちらこそ(ギリッ)」


 うん、全く心配いらなかったわ。めちゃくちゃエンジョイしてた。

 今も世話係と思われるメイドさんに甘え倒してるし、頬も緩みきってる。


 世話してるメイドさんのほうは逆に、コメカミに青筋浮かんでるけどな!


 それでも我慢強く対応してるあたり(ちょっとキレかけてたけど)、さすがは王城で働くメイドさんである。

 もしかしたら王様から、丁重にもてなすよう命じられてるのかも知れないね。


 このメイドさんは少々お気の毒だけど、無理矢理こっちの世界に連れてきたんだから、この程度のおふざけなら許されてもいいんじゃなかろうか。

 まあこれ以上調子に乗るようなら、有無を言わさずぶん殴っていいと思うけど。


 頑張れメイドさん。ここで溜まったストレスは、給金という形で王様に労ってもらうがいいよ。







 木下くんの痴態をこれ以上眺めていても居たたまれない気持ちになるだけなので、俺は聖玉アプリを閉じて医療施設の白い部屋へと戻った。


 それから搬入エレベータを確認して、今日までの授業内容が纏められたプリント類と、一緒に入っていたアニメ版PSO最新話の録画ディスクを取り出し、机の上へと放り投げる。


「……運動でもするか」


 机と一緒に用意してもらったランニングマシンに乗って、俺はテレビを見ながら小一時間ほど汗を流した。





 ……なんで俺がこんなにのんびりしてるのかだけども。

 それはズバリ、やることがないからである。


 タマちゃんに半ば押し切られる形で、俺は「天彦の恋を見守り、成就するよう手助けをする」ことに同意した。


 それが天彦の聖具である聖壁の力の根源「想いの発露」を促すことに繋がり、天彦達三人が生み出すモノと戦うときの勝率を上げることにもなるからだ。


 ここまではいい。

 未だに他にいい方法はないもんかと思わないではないが、俺の行動の結果でもあるしやるしかない。


 じゃあそれで、具体的にはなにをするのかという話なんだが――。





「まずは精霊に会って、聖玉アプリの〈交信〉機能を使えるようにしてもらわんことにはなんも出来ないわけだけどさ、どこに行けば精霊に会えるもんなの? タマちゃんは精霊がいる場所とか知ってる?」


「精霊というのは基本的に実体を取らず、世界全体に溶け込んでいる存在です。精霊と接触出来る場所についての知識はありますが、肉体のないジメイでは精霊を降臨させることは難しいでしょう」


 そうなのか。神様みたいな存在ってだけあって簡単に会えるわけじゃないのね。


「精霊を顕現けんげんさせるには、定められた地にある石像に聖具を持つものが触れる必要があるのです」


 んで、触れるためには肉体が必要、と。

 てことは、やっぱどうすんだ?


「ジメイには難しいですが、ジメイ以外の聖具の持ち主であれば難しいことではありません。つまり、アマヒコさん達に精霊を呼び出してもらえば良いわけですね」


「うん? コンタクトを取る手段がないからまずは精霊に会うって話なのに、どうやって天彦達に精霊を呼び出してもらうように頼むんだ?」


「心配いりませんよ、ジメイ。私達がなにもしなくとも、彼等は彼等なりに精霊に会いに行く動機があります。聖具の持ち主達は生み出すモノを討ちに行く前に、三精霊の元へと加護を受けにいく手はずとなっているのです」


 三精霊から加護を得ることで、生み出すモノに干渉するための影響力――聖気を高めることが出来るのだと、タマちゃんは教えてくれた。


「ほほお。つまりそのときに便乗して、精霊にお願いすると」


「肯定です、ジメイ」


 てことは……。


「やっぱりアイツらが精霊に会うまでは、俺達はなんも出来んってことだな!」


「ええ、肯定ですジメイ」






 ――という話があったわけで。


 アイツらが三精霊降臨の地へ旅立つまでは、出来ることも特になく手持ち無沙汰となっているのだ。


 地球とアリスレンティアで時間の進み方が違う、しかも一定ですらないのだから、気がついたらうっかり旅立ってたりする可能性もあるのでは?


 なんて心配もあったのだが、タマちゃんに尋ねてみたところ、タマちゃんが向こう側を注視していてくれているのでその心配はないとのこと。

 なにかあれば、スマホのプッシュ通知でお知らせしてくれるらしい。


 ホント、タマちゃんの性能は神がかってる。まさに痒いところに手が届く神アプリである。

 タマちゃんのおかげで、俺は安心して食事をしたり睡眠を取ることが出来るというわけだ。



 いやもちろん、通知が来るからって任せっきりにしてるわけじゃないよ。天彦達の様子は何度も見に行ってる。


 天彦は、あの日の宣言通り諦めずに試行錯誤を繰り返した末、まだ完璧とまでは言えないものの、攻撃を受け止めるのでなく受け流すことで応対出来るようになっていた。


 最近は防御だけでなく攻撃する手段を得るために、短剣の扱い方を教わってるようだ。


 それでも他二人との実力差がいかんともしがたいのは、なんとも辛いところだろうが。

 周囲からは、大器二人とおまけの一人って評価になってるのも今のところ変わってないみたいだし。


 俺が聖痕を移し替えたことが原因でこうなってるとも言えるので、こちらとしても見ているだけで胃が痛くなる光景だった。


 タマちゃんからは「仮にあのとき天彦に選択権があったとしても、間違いなく聖痕の移動を選択したはずなのだから、気にする必要はない」だとか「そんなことに気を取られるくらいなら、どうやって天彦と紬生を結びつけるのかに頭を使うべきでしょう」なんて言われてるんだけどね。



 まあそんなこんなで、俺は持て余した時間を救世主達を見守ったり部屋で運動したり勉強したり、たまにアリスレンティアを観て回ったりして過ごした。あとネトゲも多少はね?


 そして幾日か後の夜、部屋で風呂上がりの牛乳を飲んでいたらスマホが震えて、画面を見るとタマちゃんからのプッシュ通知が届いていた。


「いよいよ訓練も終わり、天彦達は明日旅立ちの時を迎えます。その前に少しお話がしたいので、今からアリスレンティアに来て下さい」


 おおーあいつらついに旅立つのかー……て、うん?

 お話ってなんだ? 文面を読んだ感じだと、向こうでなんか起きたってわけじゃなさそうだけど……壮行会でもするとか?


 俺はいぶかしみながらも、スマホを操作しアリスレンティアへと移動した。

初評価を、なんとお三方からいただきました!

すごく励みになります、ありがとうございました!

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