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八話 爆誕のとき

 過去に、他者に聖痕を移し替えたという前例がないため、あくまで推測となりますが――。


 そう前置きをして、タマちゃんは語り始めた。


「聖具が、精霊により適正を見出された人間に宿るという話は覚えていますね? その適正とは一体どういうものなのかという話なのですが、どのような適正なのかは聖具毎に異なります。例えば聖剣であれば『勇気』といったふうに。どんな逆境にも立ち向かっていく普遍的な勇気が、聖剣の力を決定づける要因なのです」


「……それで、聖壁の場合はどうなんだ?」


「聖壁は『想い』の強さをその力へと変える聖具です」


「……ん? 『想い』って気持ちってことだよな? どんな気持ちでもいいなら、天彦にも適正はあるんじゃないの? というか、下北沢くんに強い『想い』なんてあったのか?」


 あんま褒めたくないが、天彦の紬生清夏に対する恋心は結構なもんだと思う。

 それに勝るくらい強い気持ちを、下北沢くん(仮)が持ってたとは思えないんだけどな。


 大声でシモネタ言っては内輪だけで盛り上がって、教室の空気が微妙な感じになってるのにも気づかず、むしろ「俺ってほんとこのクラスのムードメーカーだわー」て得意げな顔しながら女子の様子を窺ってたあの下北沢くん(仮)だろ?

 正直信じられん。


「ジメイ、最初に聖壁が宿っていた人物は、シモキタザワではなくキノシタジュンイチという名ですよ。それはさておき、確かにアマヒコさんにはキノシタよりも大きな可能性があるといえます。ですが聖壁の力の源である『想い』は、ただあるというだけでは駄目なのです」


「……どんな気持ちじゃないと駄目か、種類が決まってるってことなのか?」


「いえ、重要なのは『想い』の種類ではなく想いの発露はつろ、つまりは自身の持つ強い『気持ち』を隠さず表に出すこと。それが聖壁の強さの源となります」


「なるほど、天彦の強い気持ちってのは恋心なわけだから、それを全面に出せば――てそれ、要するに告白しろってことじゃないのか!?」


 あまりに突拍子もない話に気が動転し、思わず声を荒げてしまった。


「告白はもちろんですが、その気持ちを素直に表し続けることが重要です」


 おいおい、常時スキスキ光線を出し続けなきゃ駄目ってことじゃないのそれって。

 思春期の真っ盛りの男子には、ハードル高すぎない?


 世間体も羞恥心も、あるんだよ?


 しかもあのヘタレな天彦が? まともに会話どころか、目を合わすことすら出来ないでいたのに??


 いやいや、いくらなんでも無理ゲー過ぎるだろ!


 つかそもそも、脈はあんのかって話でもある。


「ちなみに、万一告白して振られたりしたら……」


「どちらの世界でも、振られた相手に好意を示し続けるというのはあまり推奨される行為ではありませんね。見方によってはストーカー行為ということになるのではないでしょうか」


 ですよねー。

 それどころか普通に気持ちが萎えるとか、心が折れるなんてことも十分に考えられる。


「仮に聖壁の性能が今の状態のままで、『生み出すモノ』を倒せる可能性は?」


「不可能ではありませんが、勝率は大きく変わるでしょう」


 だよなぁ、くそ。

 負ければクラスメイト達は、滅びの危機にある異世界と運命を共にすることになる。

 その可能性を高めたってことだよな、俺が。


 天彦の気持ちはこの際無視して聖壁を元に戻そうにも、運命の改変は一回だけって話だったし不可能だろう。


 もしかして、積んでんじゃねーのかこの状況は。

 俺がゲームバランスを壊したせいで……っ。


「お悩みのようですね、ジメイ?」


「見ての通りだよ。なあタマちゃん、なにかいい方法は――」


「可能性は決して高くありませんが」


「なんかあるのか!?」


「信じて応援するのですよ、ジメイ。私と共に、アマヒコさんの恋の行く末を見守りましょう」






 恋を見守る? 応援する? 誰が? 俺が? 天彦の?


「そもそもです。確かに聖痕を移したことにより生み出すモノに勝利する確率は下がりましたが、それはあくまでも確率の話であって、元のままなら絶対に勝てたということではありません」


 あっけに取られる俺に、タマちゃんは言葉を続ける。


「さらに言うなら、想いの強さという指標のみで計るなら、キノシタよりもアマヒコさんのほうが圧倒的に適正が高いといえるでしょう。つまり、アマヒコさんの恋が成就し想いを発露出来るようになれば、キノシタよりもはるかに大きな戦力となります」


「さあジメイ、決意を新たに生まれ変わるのです。『恋のキューピッタージメイ』爆誕のときですよ!」


 何言ってんのキミ? そんなキャラだったっけ? キャラ崩れてない? 大丈夫??


 最後の力のこもった演説は聞き流して、俺は考える。


 あの天彦に、愛の告白なんて出来るんだろうか。

 確かに訓練中に見せた真剣な表情の天彦なら……という気はしないでもないけど、それでも天彦は天彦である。


 どう想像力を膨らませてみても、告白に踏み切るようなイメージが湧いて来ない。


 応援。恋のキューピット。俺が。クソ雑魚ナメクジが。うーん。


「応援って言ってもさ、なんか出来ることあんの?」


「残念ですが、現状ではありませんね。見守ることしか出来ません」


 だよな……。


 俺の恋愛経験がゴミ以下なのは置いておくにしても、そもそも聖玉の力は観察とかストーキングなんかの「知る」ことにかけてはとんでもない性能を発揮するが、言ってしまえばそれだけだ。

 俺が異世界にいる人間とコミュニケーションを取れないなら、それを活かす術がない。


 やっぱ積んでんじゃんね。


「ですが、それはあくまで現状での話です。メニューに〈交信〉という機能があったのは覚えていますか?」


 ああ、そういや接続不良って表示されて、使えなかった機能があったっけ。


「交信は、本来は遠距離の相手と意思疎通を図るために備わった力だったのですが、現時点ではアプリ化による変質の影響を受け、上手く機能しない状態にあります。それを精霊に頼んで使えるようにしてもらいましょう」


「いや、頼んでって……精霊って神様みたいなもんなんでしょ? そんな簡単に、頼んだらやってくれるもんなん?」


「大丈夫ですよ、多分」


 また多分かよ。心許ないにもほどがあるんだけど。


「他に、なんか可能性のある方法は――」


「ありません」


「いや、もうちょっと考え――」


「ありません」


「……ないの?」


「ないですね」


 まじか……。


「大丈夫ですよ、ジメイ。アマヒコさんと、そして〈全てを見通し、導く宝玉〉であった、私の言葉を信じて下さい」


 なにか確信みたいなものがあるんだろうか、自信すら感じられるタマちゃんの言葉に、俺は曖昧に頷くことしか出来なかった。



 ――こうして俺はタマちゃんと共に、天彦の恋を見守ることになったのだった。









「そういえばさ、下き……じゃなかった、木下くんの強い気持ちってなんだったんだ?」


「好みの女の子とイチャイチャして、あわよくばその先まで行きたいという下心、つまり煩悩ですね」


 ……なるほどね。確かに発露させてたわ。

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