七話 そして核心へ
これはすごい……というか酷い。酷すぎる。
紬生清夏が手をかざすと、まばゆく輝く刀身の、紬生の身の丈くらいはありそうな巨大な剣が出現する。
それを横薙ぎに振るうだけで、身構えていた数十人の兵士達が吹っ飛んでいく。
○双シリーズか。
ぶっ飛ばされた兵士達に向けて里見優羽が輝く杖を向けると、兵士達の体が光に包まれ、その体についた傷をみるみるうちに癒やしていった。
そしてまた、紬生にぶっ飛ばされるというループが始まる。
なんというか、圧倒的すぎる。
これは訓練というより、シゴキに近いのではなかろうか。
目の前で繰り広げられているのは特に酷い場面だったが、それ以外にも紬生はたった一撃で壁に大穴を空けたりしてたし、里見は殺傷力の高そうな稲妻やら炎やら氷のつぶてやらを、その杖からバンバン打ち出してもいた。
あれが紬生の聖剣に、里見の聖杖の力なんか……。
タマちゃんの説明によると、聖剣は唯一無二の威力を誇る聖具で、聖杖は全ての属性魔法を扱える聖具だそうだ。
なるほど、「救世主」だなんて崇められるだけあって、どっちも反則的な性能をしてるな。
今見てるのは城内にある兵士達の訓練場での光景で、時間軸としては天彦達が救世主認定されてから二日後の出来事。
二人共、まさに一騎当千といった様相である。
それに引き換え天彦はというと――。
訓練場の端で、一人の兵士にぶっ飛ばされていた。
「こ、来いっ!」
立ち上がった天彦の手から輝く盾が生み出される。しかしそれは兵士からの剣撃によって、パリンと割れて消えてしまった。
一応、受け止めれてはいるんだが。だが勢いまでは殺しきれていないようで、天彦は攻撃を受け止めるたびに、後ろへと飛ばされてしまう。
相対する兵士のほうはなんとも気まずそうで、どうしたら良いのか分からないといった表情だ。
うん、確かにこれは心が折れそうになるな……。
これもタマちゃんから聞いた話だが、天彦の聖具である〈聖壁〉は守りに特化した聖具であるらしい。
「全ての害意を退ける鉄壁の盾」という風に伝わっているらしいのだが……天彦が作り出した鉄壁の盾らしきものは、如何せんショボかった。
まずなによりも小さい。サイズ的には宅配ピザのMサイズくらいだろうか。少なくとも、確実にLはないだろう。
さらに、他の二人の聖具と同じで盾も発光してるんだけど、光具合がこれまたしょっぱい。なんというか、川辺で揺れるホタルのような儚さがある。
そして、見るからに薄い。ペラペラである。
むしろあの頼りない見た目で、一撃とはいえ兵士の攻撃を防いでることを賞賛したくなるくらいの見てくれだ。
やっぱどうしても紬生と里見に比べると……。
見劣りするというか、率直に言って次元が違う。
「……っ、まだだ!」
天彦は飽きることなく盾を出し、攻撃を受け止め膝をつく。
それにしても、まさかあの天彦がこんなに真剣に訓練に取り組んでるとは。
まあ、紬生に良いところを見せたいって気持ちもあるんだろうけど、多分それだけじゃないんだろう。
少なくとも俺が知ってる天彦は、格好つけようとして失敗したらすぐに「フン、くだらないな……!」などと文句を言って投げ出してしまうタイプだったはず。
実際に少し前の体育であった、試合形式での野球の授業でもそうだったし。
近くで短距離走をしていた女子(というか紬生)にアピールしようと自らピッチャーに名乗りを上げたくせに、四球と死球を繰り返し満塁を背負った挙句「ジメイ、あとは任せた」て唐突に俺にピッチャー押し付けて逃げたのを、忘れてねーからな。
ちなみに「ここはエースであるお前の力が必要だ」て天彦に言われて、なぜか他のクラスメイト達からも「頼むぞエース!」「この場面を抑えられるのはお前しかいない!」なんて持ち上げられて(今考えると、あんな失点不可避な場面では誰もピッチャーなんてやりたくなかったんだろう)、その気になってマウンドに上がって大炎上したっていう記憶のほうは、出来れば抹消したい。
……とにかくだ、天彦の落ち込んでた原因は間違いなくこれだろう。
ここまで圧倒的な力量差を見せつけられたら、そりゃツラいよなぁ。
別の日の訓練も覗いてみたけど、天彦についてはそこまで成長が見られなかった。
他の二人は、さらに手が付けられない感じになってたけどね。
俺はタマちゃんにお願いしてログ機能を終了し、天彦の個室へ戻ってきた。
さっき天彦が呟いてた「このままじゃ僕は」の後には多分「紬生の役に立てない」とか「紬生を守れない」なんて言葉が続くんだろうな……。
変わらず項垂れたままの天彦を見下ろし、俺は考えを巡らせる。
「ヘイ、タマちゃん。天彦が――」
タマちゃんに問いかけようとしたそのとき、天彦の口が動いた。
「やっぱり、この聖痕が僕のモノじゃないからなのかも知れない。最初に確認したときは確かになかったはずだし、アイツも盗られたとか言ってたしな……。自覚はないが、もしかしたら僕が……」
そう言って、天彦は自身の手のひらに刻まれた刻印を見つめる。
「いや、仮にそうだったとしても、僕はこの力を使って清夏さんを守ると決めたんだ! どれだけ実力差があろうが、絶対に……!」
しばらくして顔を上げ、吹っ切れたような、やけっぱちのような声色でそう宣言すると、体を横たえベッドへと潜り込んだ。
「……こっちに来て、もう一週間か。限定イベントは諦めるとしても、PSOのアニメ、二回も見逃してしまっているな」
「慈明のヤツ、僕が見逃した放送、録画しておいてくれてたり……いや、アイツはそんなに気の利くヤツじゃないか」
「というか、なんでアイツだけこの世界にいないんだ。アイツがいたら、もっと――」
天彦の独り言は聞き取れないくらい小さくなっていき、それから少しして寝息が聞こえてきた。
さっきまで天彦が落ち込んでいるのを眺めていたけど、今は俺の気分のほうが落ち込んできている。それも凄まじく。
天彦が紬生のことを、独り言では「清夏さん」呼びしてたのを揶揄する気力すら湧いてこない。
「――ジメイ、聞きたいことがあったのではないですか?」
さすがタマちゃん、良いタイミングで声を掛けてくるな。
全然嬉しくないけど。
少し迷ったあと、俺は意を決して問いかけた。
「……天彦の聖具の力が弱いのは、俺が聖痕を移動させたことが原因か?」
「肯定です、ジメイ」
予想通りの返答に、俺は本気で頭を抱えた。