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五話 タマちゃん

 手にしていた漫画をパタンと閉じて、俺はため息をついた。


 だめだ、ずっと読みたかった漫画のはずなのに上手く頭に入ってこない。


 先送りにした諸々のインパクトが大きすぎて、全く集中出来なかった。



 ……やっぱり、ちゃんといろいろ確認しておくべきだよな。



 一瞬だけ、施設の人に報告するべきなんじゃないかとも思ったが、もしこのファンタジーな現象が俺以外の人間には起こらない場合、未知のウィルスで脳がやられてしまったと判断されてしまうのではなかろうか。


 まあ、脳がおかしくなってる可能性も完全には否定出来ないけどさ。


 とにかく、あの長ったらしい検査をもう一周ってのは出来れば遠慮したい。


 まずは可能な限り情報を集めて、そのあとで報告するかどうかを考えるとしよう。


 というか、スマホが返却されて来るまでの間に中身もいろいろ調べられたんじゃないだろうか。それで問題なかったから返ってきたんだろうしな。



 そう自分を納得させて、俺は再びスマホに手を伸ばし聖玉アプリを起動させる。

 すると、瞬時に視界が先程の石造りの部屋へと移動した。



「……ん?」


 なんかおかしい。

 部屋の内装は変わってない。なのになぜだろう。


 元々薄暗い部屋ではあったのだが、さっきは吹き抜けの窓っぽい四角い隙間から光が指していたのに、今は周囲を探るのにも苦労するほどに真っ暗だ。


「夜……なのか?」


 窓っぽい隙間を覗いてみると、遠くに門のようなものが見え、そこには灯りがともっていた。


 てか、結構デカい建物だな。王様がいるみたいだし、ここは城なんだろうか。


 しかし、やっぱり夜みたいだけどどういうことだろう。

 俺が部屋で現実逃避していた時間は二十分くらいだったと思うんだけど、そのわずかな間に日が落ちてしまうってのは考えにくいんだけどなぁ。


 時間の流れ、一日の長さがこちらとは違うとか?

 うーむ、わからん。とりあえずこれも後回しにしよう。





 さて、それじゃあこれからどうしようか。

 適当に歩きまわってみようかとも思ったが、その前に。


 俺は、手の中のスマホ画面へと視線をやる。

 画面中央ではアプリアイコンと同じ紋様が、ゆらゆらと揺らめいていた。


 先にこっちを調べておくべきか。


 おっかなびっくり揺れる紋様をタップしてみると、ガイドメニューっぽいウィンドウが現れた。


 〈マップ〉〈検索〉〈交信〉〈音声ガイド〉〈通知〉〈ログ〉〈設定〉という項目が並んでいた。


 メニューだけみると、わりと普通のアプリっぽい。


 とりあえず〈マップ〉を選択してみたら、よくある地図アプリのような地図が画面に表示された。


 ふむ、拡大、縮小なんかのやり方も、地図アプリとまんま同じだな。

 ただまあ、見たこともないような地形が並んでるけど。

 上部に表示されてる「アリスレンティア」というのは地名なんだろうか?

 


 とりあえずマップを閉じて、次は〈検索〉をタップする。


 こちらも、スマホにデフォルトで入ってるみたいな検索ウィンドウが表示された。


 うーん、これも後回しでいいや。


 続いて〈交信〉をタップ。すると処理落ちしたみたいなカクカクとしたレスポンスで「交信環境を確認しています」という画面が表示され、そして固まった。

 タップしたり、ホームボタンを押してみても、うんともすんともいわない。


「あれ、おい……? まさかフリーズした?」


 なんなんだ、くそ。電源切って強制終了するか?

 しかし今の状態でそんなことして、戻れなくなったりしたら笑えないしなぁ。


「……お、直ったか?」


 なんか読み込み中だったんかな……。時間はかかったものの画面が切り替わった。

 しかし新しく表示されたメッセージは「接続不良」というそっけないものだった。


 仕方がないので交信を閉じ〈音声ガイド〉をタップする。


「ナビゲータを起動します。よろしいですか?」


 ナビゲータ? もしかしてS○riみたいなもんなんだろうか。

 とりあえず起動してみるか。ポチっとな。


「なにかご用でしょうか?」


 おおおお、機械的な音声だけど、しゃべった。


「えーと、いろいろ聞きたいことがあるんだけど、どうしようかな」


「分かる範囲でお答えしますよ、ジメイ」


 いきなりファーストネームで呼び捨てとは、なかなかフランクな音声ガイドのようだ。


「……なんで俺の名前知ってんの?」


「端末情報に登録されていますので、それを参照しました」


「……なるほど」


「過去のネット検索の履歴や、視聴動画の傾向なども把握しております。確認しますか?」


「必要ない。絶対やめてね」


「了解です、ジメイ。それでは、他にお聞きしたいことはありますか?」


「そうだな、えっとキミは一体……というかキミのことはなんて呼んだらいい?」


「そうですね、ワタシのことは〈タマチャン〉とお呼びください、ジメイ。呼び出すときは『ヘイ、タマチャン』とお呼びいただければ」


 おいおい、俺のことは呼び捨てで自分はちゃん付けかよ。

 なかなか良い神経をしたスマホアプリじゃないか。


「……ヘイ、タマちゃんね、了解。じゃあ早速だけど、タマちゃんって一体なんなの?」


「ワタシは元々〈聖玉〉という聖具でしたが、現在はスマートフォン上に存在するアプリケーションとして生まれ変わりました」


 やっぱり聖具なのか。

 てか元って、生まれ変わったってなんだよ。聖具って生き物なの?


「この端末に入った電子書籍風に言うなら『元聖具だった俺が、転生してスマホアプリになってしまった件』といったところでしょうか」


 ラノベかよ。

 てか、そういうの今いいから。


「で、なんでスマホアプリに?」


「召喚の際に、イレギュラーが起こったためと予測されます」


「イレギュラー?」


「召喚の最終段階、聖痕刻印時のトランス状態のときにジメイが意識を取り戻してしまったこと。その際に紋様が刻まれるはずの手のひらと、スマートフォンが接触していたこと。この二つが重なり、聖痕がこちらに刻まれ、変質してしまったというのがワタシの推察です」


 なんだそりゃ。要するに、バグってこうなったってことか。


 召喚時ってあれだよな、寝落ちからアラームで起こされたらスマホがくっそ熱くなってたとき。


「また、聖玉に宿っていた力はスマートフォン上で行使しやすいようローカライズされています」


「つまり、アプリ化されたってこと?」


「肯定です、ジメイ」



 なんとまあ、インド人もびっくりな推測だ。

 そんなことありえんのか……。まあ、そもそも聖具とか別の世界とか自体ありえんのかよって話だけどさ。



「てことは、そのイレギュラーがなかったら俺も、こっちの世界に飛ばされてたってことなんか」


「肯定です。ジメイも他の三人と共に旅立つこととなっていたでしょう」


 そう考えると、バグって良かった……のか?

 危険云々を抜きにしても、天彦と一緒に旅をするとか、想像しただけでストレスがマッハを超えて、ソニックブームを生み出してしまいそうだし。

 あのとき、ネトゲの約束を取り付けてきた天彦に感謝だな。



 それからもシリ……じゃなかった、タマちゃんに質問を繰り返し、いくつか疑問点を解消することが出来た。


 聖具とは、精霊により適正を見出された人間だけが宿すことの出来る特別な武具であるということ。


 ただし召喚してみなければ何人の人間に、どんな聖具が宿るのかが分からないため多数の人間を召喚する必要があったということ。


 召喚に時差があったのは、単純に術を受けてから影響が出るまでの個人差によるものらしい。

 そこはやっぱり、ウィルスみたいなもんなのね。


 それから、俺の場合は聖玉アプリを使うと、体は元の世界のまま精神だけが異世界(アリスレンティアというのはこの世界の名前だったらしい)とリンクしている状態になるらしいということ。

 だから誰にも触れることは出来ないし、逆に誰からも気づかれることはないらしい。


 召喚の儀式は精霊(異世界でいうところの神のような存在らしい)との契約により縛られているため、召喚者による悪巧みは出来ないとのこと。

 アリスレンティアの危機であると精霊が認めた場合にのみ行うことが出来、危機が去ると同時に召喚された者達は元の世界へと送り返されるということなどなど。


「それで、聖玉ってどんな聖具なの? タマちゃんってくらいだから球体だよな。振りかぶって、敵に向かって投げつける感じ?」


「ジメイ、そのような使い方は推奨しません。聖玉は聖剣のような武具ではなく、補佐に長けた聖具です」


「補佐?」


「『全てを見通し、導くための宝玉』、それが聖玉と呼ばれた聖具です」


 なるほど、分からん。


「タマちゃん、もうちょい具体的にお願い」


「そうですね、チキュウで言うところの占い師、それの上位互換だと思って頂ければ分かりやすいかと。変質してしまっていますが、メニューにある〈マップ〉や〈検索〉などは聖玉の力の一つで、周囲の状況や魔物の位置などを『見通す』ことに役立ちます」


 占い師ね、なるほど。「すべてを見通し、導く」なんて文句はたしかにそれっぽいかも。


 マップや検索はレーダーみたいなもんなのか。事前に調べられるってのは確かに強みかも知れない。

 それからあとで聞こうと思ってたけど、やっぱ魔物とかいる危険な世界なのね。


「他にも、運命の介入への代償として消失してしまった機能ですが、〈分岐点〉を作るというものなどがありました。こちらの言葉で表現するなら、ロードポイントを作るというのが適切でしょうか」


「なにその神機能。つまり、失敗したらやり直せるってことなのか?」


「肯定です。とはいえ、使えるのは一度だけですが」


 それでも十分すぎるくらいの神性能じゃないか。

 すげーな聖玉。でもそうか、消失してしまったのか。


「……ん? てか運命への介入の代償って、天彦に聖痕が移動した件のこと?」


「肯定です、ジメイ。聖玉の力の一つで、こちらも一度だけではありますが、可能性になかった運命を〈改変〉することで手繰り寄せることが出来ました。今回は改変の影響が大きすぎたために、代償として〈分岐点〉の力が消失しましたが」


 タマちゃんからの返答に納得すると同時に、俺の背中から嫌な汗が流れた。


 下北沢くん(仮)から天彦に聖痕が移動したのは、その「改変」を俺が行ったからってことだよな。

 つまり、完全に俺のせいってことで確定なのか……。


 くそーまずいなどうしよう。

「俺のせいで」という要素が加わってしまったら、もう「無責任な第三者」じゃいられないじゃないか。

作中では多分出てきませんが、変質前の聖玉は水晶玉みたいな外見という設定です。

説明回を退屈にならないように書くのって難しい。


昨日初めてブックマークを頂きました! ほんと嬉しかった!

くれた方ありがとうございます! これからも楽しんでもらえるよう頑張ります。

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