表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌編小説集2 (51話~100話)

散歩

作者: 蹴沢缶九郎

休日。電車を三本ほど乗り継ぎ、適当に名前も聞いた事のないような駅で降りる。


駅前の商店街を小一時間ぶらつき、小腹が空いたのでラーメン屋に入る。まあまあの味の醤油ラーメンで腹を満たした後、今度は商店街を抜けて、郊外に足を伸ばす。


テレビ番組でたまに見かける、街ぶら、散歩番組と言えば伝わるだろうか?


私は趣味で、そんな散歩番組の真似事をしている。もっとも、私の場合はテレビカメラが回ってる訳でもないので、無駄に店の店主に話かけたりはしないが…。中には私の事を、変わった寂しい奴と思う人もいるかもしれないが、私はそれでいいと思っているし、趣味とは大体その様なものだ。


人通りの少なくなった道を歩いていると、突然おばさんに声をかけられた。


「あら、あなたさっきも会ったわよね。」


「え?」


このおばさんに会うのも、この町に来るのも初めてなので、勿論そんなはずはない。私は言った。


「いや、お会いするのは初めてですが。」


「嘘よ、その緑色のTシャツに黒いリュック、間違いなくあなたよ、からかわないで。」


冗談と受け取られた様で、おばさんは笑いながら歩き去っていった。おばさんは、きっと私に似ている人間と見間違えたのだろう。同じ服装とリュックの人間など珍しくもない。


歩き疲れたので、喫茶店に入る。すると、店のマスターが笑顔で、


「あ、いらっしゃい。またいらしたんですか?」


と言ってきた。


「…また?」


さっきのおばさんと同じだ。私はこの喫茶店に来るのは初めてだ。マスターに言う。


「それは多分人違いですよ。私はこのお店に来るのは初めてなんで。」


「何言ってるんですか、五分ほど前に出ていかれたばかりじゃないですか。」


「五分前? そんなはずは…。」


何かがおかしい。何かが変だ。立て続けにこんな事が起こるものなのか?


ここまでくると、私は、私に似ている人間に俄然会ってみたくなった。マスターは五分前に店を後にしたと言っていた。走って追いかければ間に合うかもしれない。


注文もそこそこに、急いで喫茶店を出ると、マスターに教えてもらった、その人間が向かった方角に走った。


しばらく走ると、いた。黒いリュックに緑色のTシャツ。そいつの後ろ姿を視界に捉える。自分で言うのもなんだが、本当に似ていると思った。自分で自分を客観的に見たら、おそらくこんな感じなのではないだろうか?


その男まであと少しと迫った瞬間、車の急ブレーキ音と共に歩道にトラックが突っ込み、男が跳ねられた。


一瞬の出来事だった。


私は茫然と立ち尽くしていた。目の前で起こった事故に衝撃を受けているからではない。私は確かに見たのだ。トラックに跳ねられる直前の男の顔を…。


トラックが突っ込む直前、男はこちらを振り向いた。男の顔、それは紛れもない私だった…。


周りが何やら騒がしいのは、野次馬が集まってきたからだろう。ふと私は思った。


「自分の人生で一番最後に見るのは自分…。」


数分後の自分の身に起きる出来事を考えると、どうしてもそう思わずにはいられないのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ