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Electric&Wind

戦技実習を行うグランドには、戦闘用のステージが幾つか存在する。

 僕達が今回戦うステージは1対1用の少し小さ目なステージだ。


 目的のステージには既に相手が集まっていた。相手はデカい奴が二人に細見な黄色い髪の奴が一人だ。

「レジスタのチームが相手か」

 黄色髪の奴はエレク=レジスタという。名前だけは僕も知ってる。というか、右腕が包帯のような物で見えなくなるで巻かれていてすごく目立つ。話したことないからどんな人かは分からないけど。

「なに?」

 じーっと見ていたからか、不機嫌そうに睨まれた。

「あまり俺のチームメイトを脅かさないでくれるか?」

 と、横からグリフィーが睨みをきかせる。いや怖いから。

「フン」

レジスタは鼻を鳴らして目をそらした。

 それと同時に監督の先生が声を張り上げる、

「各チームの一人目は前へ」

 相手の一人が前に出た。

刈り上げた赤髪が目立つ大男だ。

「じゃあ初めは私がやるよ」

 こちらはユニが前へ出る。

「大丈夫かい?怪我しても知らねえぜ」

「大丈夫だよ、だって私は怪我なんかしないから」

 ユニは相手の挑発に全く動じていない。

 と、いうか挑発されてる事に気づいていないのか?

「チッ。まあいい。アルゴ=レングだ」

「ユニス=フォラントだよ」

 乱暴な仕草で懐から手袋を取り出す。

「出ろ、『魔獣の鉄拳(バーバリアンフィスト)』!」

「物質魔術だな」

 手袋は手の大きさの人ひとり握れるくらいの鋼鉄の拳となってアルゴの後方に浮いている。

「さあどうした、早くしな」

「よし、じゃあ行くよ」

 ユニは首から下げている十字架のペンダントを握りしめ、

「輝け『光輝聖槍(ブライトジャベリン)』」

 発動のための言葉を呟いた。

 すると、十字架が輝き、手に身長程度の長さの真っ白な槍が現れた。あれが光輝聖槍。光エネルギーの魔力を、槍に乗せて使用する魔術だ。

「槍使いか。おもしれえ」

そう言いながらファイティングポーズをとる。

「それでは…………始めっ」

「行けぇー!」

 審判の掛け声と同時に右ストレートを放った。すると、待機していた鋼拳が連動するように飛んでいく。

 周りの空気を巻き込みながら突っ込む姿は大砲のようだ。

「よっと」

 だがユニは後ろに飛び大砲のような一撃を躱す。勢いを止められない鋼拳は勢い余って地面に当たり、砕いた。

「チッ」

 アルゴは鋼拳を戻した。

「こっちからも行くよー」

 着地した場所から、ユニは低い姿勢から槍を脇に構え駆ける。

「リーチはこっちが上だ!」

 突進するユニに向けて左ジャブを放つ。

 それを左に跳ねて躱す。

「これなら、どうだ」

 今度は右を一発と左二発。右の鋼拳が着地した直後のユニを襲う。

「それっ!」

 それを光輝聖槍ですべて受け流す。

「やるじゃねえか!」

「えへへー。そうでしょ」

 ユニは嬉しそうに笑った。

「だけど、まだまだぁ!!」

 アルゴはさっきよりも激しいコンビネーションで攻めたてる。しかしその悉くを躱される。

「オラぁ!!」

 強烈な右ストレート。それを飛び上って躱す。

「そこだぁ!」

 また同じ様に地面に激突するように見えたが、直前に進路を変え、飛び上がったユニへ向かって飛んでいく。

「どうだぁ?空中では避けられないだろう」

「マズ・・・」

 鋼拳の一撃でユニは地面に叩き付けられた。直前に防御は間に合ったみたいだけど、大きな隙ができた。

 「遅ぇ!」

 ユニへ向かって鋼拳が飛んでいく。

 その直前、

「羽ばたけ〔光輝刃翼(ブライト・エッジ)〕」

 ユニが魔術を発動させた。

 聖槍の刃の部分から、眩く光る魔力の翼が現れる。

「はぁぁぁ!」

 流れるような動きで鋼拳を躱し、すれ違いざまに槍をふるう。光の翼の一閃が、軌跡を描きながら鋼拳を紙のように両断した。そしてそのままアルゴの方へ駆ける。

「クソッ!」

 目の前に迫ったユニに対して右拳を放つが、難なく躱してアルゴに聖槍の切っ先を向ける。

「参った、降参だ………」

 その言葉でユニの勝利が決まった。

「やったな、ユニ」

「ありがと、ヴァリー」

 ステージから降りてきたユニとハイタッチをする

「いえぃ」

 グリフィーにもVサインをおくる。

 眩しいくらいの笑顔を見せるユニは学園でもかなり人気がある。

 気持ちはわかる。実際すごく可愛い。

「どうかしたの?」

「うん?」

 ユニが僕の顔を覗く。

「何でも無いよ」

「えーうそだぁー」

「ホントに何でも無いってば」

 なんでなんでと顔を近付けてくる。

 近い、近いって。

「もういいか?」

 この笑顔な娘の扱いに困っているところで、またかと言いたげに渋い顔のグリフィーから声をかけられた。

「次、始まるぞ」

 そう言ってステージの方を指す。

「任せたぞ、グリフィー」

「頑張ってね~」

「だと思ったよ・・・」

 次の試合はグリフィーに任せる。

 僕達は大事なところをほぼグリフィーに任せている。

 理由は簡単。三人の中で一番強いからだ。

「学内でも指折りの魔術師のあんたと戦えるとは光栄だな。グリフト=ウィンヴィー」

「そういうおまえも名が通った魔術師だがな。エレク=レジスタ」

「有名になるのも、手間が増えるだな」

「その意見には同意しよう」

――――なかなかに刺々しい雰囲気だ。

 お互いに探り合っているのだろうが。何とも近寄りがたい。

「「…………………………」」

 探り合うような雰囲気を残しながら二人は黙り込んでしまう。

 そこに審判の声が入る。

「それでは次の戦闘を始めます。」

「じゃあ、良い戦いにしてくれよ」

「そうなってくれると良いがな」

 お互いに皮肉を言い合う。実は君たち仲良いんじゃないの?

「では……………始め」

「『アームスエルエクト』発動」

 高く掲げたレジスタの左手が変化する。その手は、鋭さを持った形状になる。また、手の甲の部分四角形のパーツから、それぞれの指へ線が鋭い爪へ伸びている。

「『ウィンディルーラー』起動」

 人差し指と中指にはめられた指輪が微かに光る。グリフィーは一見すると何の変化もない。しかし、風を纏いその場に浮遊して好機を待っている。


 ―――――――――


 静寂が訪れる。

 互いに機を見計らい、動きを止めている。

まるでこの場の全ての物が停止してしまったような、そんな静けさだ。

 ―――ざっ

 地を蹴る音がした。静寂を破り、先に仕掛けたのはレジスタだ!

 とてつもない速度でグリフィーに迫る。常人なら迫って来る事にすら気付けないような速度。残像が残ったかのようにも見える。

 グリフィーの真正面、あと一歩踏み込めば大きな一撃が放てたであろう距離で、レジスタは疾走を止めた。いや、それ以上進むことが出来なかった。

「くっ――――」

 突き出した左手がグリフィーの直前で止まっている。

 互いに距離を開く。

「風か……」

 レジスタはグリフィーの纏う風に阻まれ、それ以上進むことが出来なかった。

「どうした?まだ俺は何もしていないぞ」

 風がグリフィーを守る鎧になっている。

「チッ、もうちょい上げなきゃダメか」

 その言葉と共にレジスタは低く構えをとった。まるで好機をねらう獣のように。

「遅い!」

 だが構える時の一瞬の隙をグリフィーは見逃さなかった。見て取れる程鋭く研ぎ澄まされた風を放つ。

 だが、

「はぁッ!!」

 一閃。

 自ら巻き上げた砂塵を切り裂き、矢のように進む風を一片の怖じ気も迷いもなく、その振りかざした腕で引き裂いた。

「くっ…………」

 怯んだのはグリフィーの方だが、間髪入れずに次の攻撃を繰り出す。

「〔シルフスアロー〕連続発射」

 三つの風矢を立て続けに発射する。

「効かない」

 しかし、それも左手の一振りで打ち消された。

「甘いな」

「!?」

 今の一瞬でレジスタの頭上の空気を圧縮させる。

「〔エアロハンマー〕!」

 グリフィーが掲げた手を振り下ろすと同時に、圧縮された空気が鎚となって落ちる。空気鎚は地面を割るほどの一撃だった。

 土煙が視界を奪う。流石はグリフィーというところだな。相手に合わせての戦術変更と、繰り出しの早さ。この二つがグリフィーが一番強い理由だ。

 土煙が晴れる。そこにレジスタの姿はなかった。

「ボケッとしてんなよ」

 声はグリフィーの背後からした。

「チッ」

 声のしたほうに風矢を打ち込むも、手応えはない。

「ふざけた反射神経だ」

 グリフィーが悪態をつく。

「見えてから避けられるものではないはずだが」

 グリフィーはレジスタ非常識な速さに翻弄されているようだ。

「まあいい」

 言葉を切って。

「ならば次だ!!」

 そう言ったグリフィーの周囲の風が止んでいく。

「なに…………?」

 レジスタは驚いていた。誰が見てもグリフィーは、中距離から遠距離の闘いがメインだ。万が一距離を詰められた時は纏っている風で相手をはねのける。そういう戦い方をする。それなのに自ら守りを手放した。

正直僕にもグリフィーの意図が読めない。

 レジスタがじりじりと距離を詰めていく。

あれだけの材料が揃っていれば少なからず警戒するだろう。

 再び膠着状態に陥ると思われた戦いは、

「間怠っこしい!先手必勝だ」

 三度目の、地を蹴る音で一変した。

 一見無謀に見える攻撃だった。しかし、グリフィーは格闘能力に乏しい。近距離戦は絶望的と言ってもいい。

 レジスタはそれを知った上での特攻を仕掛けた。無謀どころか最もこの場に適した行動と言ってもいい。しかし、グリフィーの目の前までたどり着き、止まるどころか後退を余儀なくされた。

「なかなか詰まらないか」

 おそらくレジスタには今の攻撃が見えていただろう。

 グリフィーの頭上から風矢が襲ったのだ。

一本や二本ではなく、少なくとも数十。頭上にできた空気の渦から発射されていた。

「下手な鉄砲も数打ちゃ当たるってわけでもないが・・・」

 レジスタを見据えて言った。

「さぁ、行くぞ。全て捌いてみせろ!!〔シルフスアロー・レイニー〕」

 空気の渦から風矢が、文字通り雨になって降り注いだ。

「くっ……」

 避けながら、時折右手で打ち消す。

 そうしなければあの雨のような風矢を浴びてしまう。加えてあれは見た目だけじゃなく、性質まで雨のようだ。対象へ向かって飛ぶのではなく、ただ降り注ぐ。言葉にすると簡単だが、実際これを避けるとなると非常に難しい。何せどこに落ちるか判らないものが延々と落ちてくるのだ。どんなに速くても難しいものは難しい。

 現にレジスタもいっぱいいっぱいといった体だ。とにかくこの技は全て避けるのはほぼ不可能。かといって打ち消していくにも限界がある。厄介極まりない技なのである。

 しかしこの厄介な技をギリギリとは言えいなし続ける彼も相当なものだ。どちらにせよ消耗戦ではあるのだが。

「そぁっ」

 と、不意にレジスタが距離をとった。

「んー――いけそうだな」

 またあの獣じみたスタートダッシュの構えをとる。

「どうした、全て浴びてでも一発与えないと気が済まないか?」

「生憎と、俺は一発も貰うつもりはねえよッ!」

 またグリフィーの元へ走りだす。

「させるか」

 風矢を浴びせようとした瞬間。レジスタが視界から消えた。

「なにっ!?」

 そして次の瞬間、二人の距離は零になっていた。

「さすがに自分は巻き込めないよなぁ」

 左手を振りかぶる。

「くっ――――」

 攻撃を切り替えようとするも。

「遅い!!」

 ゴスッという鈍い音とともに、グリフィーの体に裏拳が叩き込まれた

「ガハッ――――」

 僅か一秒の出来事。ゴロゴロと転がっていく。

「チッ」

 舌打ちをしたのはレジスタだった。

「入らなかったか」

 何が起こったのか僕からはよく見えなかった。

「ふぅ…………間一髪だったがな」

 グリフィーも立ち上がる。

 それにしても恐ろしいかな。レジスタは風矢は一つ一つ捌いていたら限がないと、風矢の掃射されるわずかな隙間をくぐって攻撃を仕掛けた。それも接近されたことに直前まで気づかないような速度でだ。

 まあ、それをギリギリとはいえ防御して見せたグリフィーも大概なのだけど。

「仕切り直しのようだな」

「そうみたいだな」

 お互い態勢を立て直し、二人の第二ラウンドが始まろうとした時。

  ドォーン

 遠くから聞こえてきた爆音で戦いは中断された。音の方向を見ると、剣術訓練棟の一部が炎上していた。

「何だ!施設をぶっ壊すレベルの魔術は使えねえはずだろ」

 先生達も慌てて連絡をし始めた。

「グリフィー、僕たちは剣術場を見に行ってみるよ」

「俺はここを離れられない、頼むぞ」

「私も行く」

 ユニを連れて剣術場へ向かった。


「わかった、行くよ」

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