授業:明かされ始める真実
3話だと思います。
三槍統矢にとって、科学が何かを知りたいなら、この世界においての魔法を想像すればいい。
諸君らはどう思うだろうか?
嘘しかない迷信? ありえるかもしれない、ありえてほしい幻想? あるいは、絶対にある現実?
個人差があるかもしれないが、ほとんどの人は1つ目ではないだろうか?
統矢にとっては、2つ目。その後者。ありえてほしい幻想。
ありえないと心の中では気が付いてはいるが、その想像、いや、妄想をやめられない。
あるいはそれは、子供の考えと言えるかもしれない。
とにかく今は、彼が科学をそう思っていることを把握してくれればいい。
全ての話は、今から始まるのだから。
科学。
名も知らぬ女性がそうと言ったわけではないが、少なくとも彼は、一切の魔力を使うこともなく物体を転移させる術を知らなかった。
それになにより、あの鎧……まるで普段着のように薄く見えるし、肌を覆う面積も少ないが、とにかくそれは、彼の持つ常識からあまりに剥離していた。
さらにその鎧は、時折見る胡散臭い科学誌でよく見る物に、よく似ていた。
確かな確証はないものの、しかし彼は、よく考えるとこの状況では、1つさえ確かな確証なんてないことに今更ながら気づき、
「……科学、ですか?」
とりあえず言ってみた。
女性は相変わらず余裕のある笑みを浮かべると、
「ほう……? そこまで動揺させられなかったかな?」
「いえいえ、かなり驚きましたよ。」
かぶりを振って否定する。実際心臓が止まるかと思うほどの衝撃だったし。
「本当に冷静だな……一種の才能かも知れない」
女性はメモを取り出して、
「なるほどね……名前は三槍統矢で、男、冷静沈着、と……大体絞れてくるね……」
そう言うと、熱心にメモを書き出す。
「……あの、説明は」
そう言っても、聞いてる様子はない。
「あの……」
「無駄ですよ。スカアハさんが仕事をやりだしたら、とてもではありませんが話になりません」
女性の後ろで無表情で待機していた少女が、声をかけてくる。どうやら女性はスカアハ、というらしい。変わった名前だ。ハーフだろうか。
「事の説明は、私からしましょう」
「さて……、説明するにおいて、まずはあなたが情報をどれほど理解しているか伺いましょう」
年上である女性には敬語を使っていたが、同年代くらいの彼女には必要ないだろう。
「……ほぼ何も理解してないんだが、俺がどうやら拉致されたこと、君たちが何かしらの俺の知識にない技、というか技術? を持っていること、くらいかな」
「ふむ……私はあまり説明が得意ではないのですが、では、初めから説明していきましょう」
少女の授業がはじまる。
「まず、基本事項から。私を包んでいるこの鎧ですが、あなたの予想通り、科学の技術の結晶です」
彼女が軽く右腕を上げる。金属で出来ている様子にしては、軽そうに見える。
「魔術は基本的に魔力によって動きます。そのため、それと動くためのエネルギーを作るために、人類は物を食べ、水を飲み、空気を吸う、とされています。ここまでは常識の範疇ですし、よくご存知だと思います。
が、化学は違います。デンリョクとかいう、よくわからないエネルギーを使うようなのです。それは、体内で作るエネルギーではなく、外部からもたらされる何らかのエネルギー、とされていますが、真実はまだよくわかっていません。そこについては、私よりかはスカアハさんの方が詳しいでしょう」
「質問いいか?」
控えめに手を挙げてみる。
「どうぞ、何でしょう?」
「さっきから、よくわかってない、とか言ってるが、あんたらは魔術を完璧に使えてるってわけではないのか?」
少女は1つ頷き、
「細かい説明は後でするとして、明瞭に答えるとしたら、Yes、完璧というには程遠い、と言わざるおえません。どころか、使えるではなく、利用している、というレベルですね」
「ふむ。続けてくれ」
「話を戻します。元のエネルギーもわからない、つまり使用する方法もわからない科学ですが、私を含め、少数の人間には使えることが判明しました。今からおよそ850年ほど前のことと言われています」
「850年前……人類が戦争をやめた年……?」
「そうです。人界歴2992年、人類は後に最終戦争と呼ばれる戦争を終わらせ、恒久の平和を誓いました」
「それと科学の発見は、何か関係があるんだな?」
「ええ。大いに。どころか、科学が発見されたおかげで終わった、といってもいいでしょう」
彼女は一息つくと、
「さて、何故人類は戦争をやめたと思いますか?」
ふと気になり、横目で義人を覗き見ると、快活な彼にしてはえらく、表情を曇らせていた。
「少なくとも俺は、人類が争い合う愚かさを痛感したから、と学校で習ったな」
そう答えると、少女は、
「そうでしょうね。表では、そういうことになっているはずです。ですが、真実ではありません」
淡々と言葉を紡いだ。
「人類は、争いを、殺し合いを、やめてなどいません」
……少女の授業は続く。