新世界:繋がる未来、変わる現在
2話です。
夢を見た。
自らの信念を突き通す男の、夢だった。
そうすれば自らが損をすると知っても、決めたことを破らない。
例えその損が、自らの死であったとしても。
それは、真面目とも言える。それは、馬鹿とも言える。それは、正直とも言える。それは、愚劣とも言える。
しかし、その姿は、気高く、美しかった。
死ぬその時まで、そして死んでなお、初志貫徹を果たす。
誰かのために、何かのために。
自らを省みることもなく。
一般的にも、良識的にも、愚かしい行為であることは明確。
しかし、何故だろう。その騎士の背中は、誇りに満ち溢れ、輝いて見えた。
「う……ん」
うっすらと、瞼を開けていく。
目の前には見知らぬ天井。
そこはやはり、知らない場所だった。
「ここは……?」
ゆっくりと体を起こす。
少し記憶が混濁しているようで、あやふやだが、他には特に何もなかった。いつも通りだ。
周 囲を見回すと、割と一般的な部屋だった。特に家具がなくてがらんとしていはするが。
統矢は、その中にポツンと置いてあるベッドで寝ていたらしい。
「えっと……俺、何をしてたっけ……」
そうぼんやり考えていると、
「おう、起きたみたいだな」
そう言って、部屋に入って来る者がいた。
というか、片葉義人その人だった。
「義人……義人⁉」
その顔を見て、やっと思い出した。
「お前、一体どこに行ってたんだよ⁉」
そう、そうだ。確か義人について行って、路地裏でいきなりいなくなって……。
「お前どこに行ってたんだよ⁉ いきなりいなくなって!」
思い出しつつ身を乗り出す統矢を押しとどめ、苦笑いしつつ、
「まぁ、ちょっと落ち着いてくれ。……お前に会わせなきゃいけない人がいるんだ」
そういって、ドアから一歩退いた。
そして、そこから2人の人間が入ってくる。
1人は見た目20歳くらいの女性、もう1人は統矢と同じくらいの年の少女だった。
「邪魔するぞ」
「お邪魔します」
そう言って、彼女らは部屋に入ってきた。
そして、女性の方が
「さて、体の具合はどうかな?」
と聞いてくる。
「えぇと……」
初対面なのでどう対応していいかわからず、義人に視線でヘルプを寄越すが、帰ってきたのは苦笑いだけだった。
「……良好、ですかね。外傷も特にありませんし」
「そうか、良かった。これで話が進めやすいな」
女性は、小さく笑った。
「さて、君はこの状況を説明してほしいだろうね」
「そうですね、説明していただけるなら」
「ところで、私はまどろっこしいのはあまり好きではない。よって、ちょっと端折っていいかい?」
「はぁ……まぁ、どうぞ。お願いします」
「えー、ゴホン」
彼女は、淡々と告げた。
「三槍統矢。君は我々に拉致された」
しばし、時が止まった。
統矢は女性の非現実的な言葉を理解するのに時間がかかったし、女性は統矢の反応を待っていた。
「……何故?」
結局、聞きたいことは多いものの、統矢が発した疑問はそれだった。
それを聞いたとき、彼に動揺はなかった。こんな異常な展開が起きているというのに。
異常すぎて逆に冷静になってしまったのかもしれない。
とにかく、彼が気になったのは、「何故か」だった。
「俺の家は普通の家庭ですし、正直に言って誘拐とかはあまり意味がないですよ」
対し、女性は、感心したように2、3度、うんうんと頷き、
「冷静そのものだな。素晴らしい。それは君の武器になるだろう」
義人は小さく呟いた。
「……ほんと、やけに冷静だな、統矢。俺はかなり取り乱したのに」
女性は、少し考え込んでいたが、
「いいだろう。その疑問に答えよう」
と言って、背後の少女に目配せする。
少女はコクンと頷き、一歩前に歩み出る。
「……?」
訝しげにしている統矢は、今から目撃することになる。
彼の知らなかった世界を。
彼の待ち望んだ科学を。
奇跡を。
軌跡を。
「見ててね……見えないと思うけど」
少女が言いながら、右腕を振り上げる。
魔術……ではない。そこに魔力は見られない。
しかし、
「テレポート」
その言葉が紡がれた時、
「……⁉」
いつの間にか、少女の全身が、鎧に包まれていた。
しかし、統矢は、それを鎧だとは思わなかった。
この世界の一般的な鎧から、金属の服に対魔術用魔術をかけたそれから、あまりにもかけ離れていた。
メタリックでメカニック。
そう言っても、伝わりはしないだろうが。
「どうだ、冷静な君でもさすがにこの奇跡には驚かざるおえまい」
女性が声をかけてくる。
「ところで、こいつが君を拉致した実行犯だ。この小手のところで頭をゴツンとやってもらった。たんこぶの1つも出来てないあたり、君の回復力か頭の固さかは素晴らしい物があるね」
女性が話す言葉が、頭に入ってこない。
奇跡。
今までの常識が、叩き壊された。
その壊された壁の先に、新しい世界が待っていた。
女性が、呆然としている統矢に向かってニヤニヤ笑う。
「ようこそ、こっちの世界へ……君にはこれから、戦場に行ってもらう。兵力確保のために拉致したのだからな」
統矢は人生の中で、初めて「嘘から出た真」という言葉を体験した。