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佐藤という男

「まあ、あがれよ…」

俺の予想と反して目の前に立つ汗だくの男にそう告げた。

そう告げることしかできなかったの間違いか。

不安、疑問、焦り、恐怖…

混じりすぎてなんて呼んだらいいかもわからない心地だ。

矢継ぎ早に喋り続けるこいつの声が聞こえないのもそのせいかもしれない。

ようやく佐藤の言葉が理解できたのはリビングのカーペットに腰を下ろしてからだった。


「なあ、嘘だろ?なあ?」

前半聞いていなかっただけにまるで意味がわからん

まあ言いたいことくらいは検討がつくが。

「今朝のニュース…あれってみなちゃんだろ?昨日一緒に飲んでて……なんにもおかしいことなかったじゃんよっ……なんで…」

こいつも大概俺とおんなじ感想かとか、焦ってる奴見るとわりと冷静になるもんだな。

「つーかさ、お前みなちゃん送ったよな?しかもあの知人の車ってやつ、お前のだよな?」

こいつのこんな青い顔初めて見た気がする。

責めてるってよりは信じたくないみたいな顔だな。

「疑ってんだろ、俺のこと」

「そんなわけねぇだろ!信じたくねぇから聞いてんだよ!大体おかしいことだらけだろうが!」

「んなこといったって、俺が覚えてないって言ったらお前を納得させられんのかよ!」

「……………」

こいつの勢いに乗せられたわけじゃないけどどうしようもなく苛立った。

俺だってわからない。

むしろ教えてくれよ!

なんなんだよ!

何がどうなってんだよ!



「……俺はさ、お前だなんて思ってないよ。大体みなちゃんに会ったのは昨日が初めてだったし、俺らには動機も何もない。第一みなちゃんは坂崎の妹だぜ?」

そうだ、動機がない。なんにもないのにあんな殺し方できるわけが……

「でもよ、俺ら以外から見たら違うだろ?みなちゃんがお前の車で死んでて、昨日最後にみなちゃんと一緒にいたのは送ったはずのお前ってことになってんだ。警察が出す答えなんざ一つじゃねぇか」

いつも調子のいいこいつの真面目トーンなんか滅多に聴けるもんじゃねぇけど、今それを笑うことはできなかった。

佐藤のいう通りだ。

誰がどう見ても犯人は俺だ。

おまけに記憶がないときてる。

捕まるのなんか時間の問題じゃんかよ…


「……なあ、佐藤」

「なんだ?」

「お、俺は…やってないんだよぉ…」

そう絞り出すのに精一杯だった。

身の潔白を示すもんなんかなんにもない。

自分を信じることすら不安で仕方ない。

ほとんど助けてって言ってるようなもんだった。


「…神奈、逃げよう」

「は?」

「直接の証拠がなくたってあんだけ要素がそろってりゃ、警察ははなからお前を犯人にしようとするだろうな。アリバイもないのにそんなのどんだけ弁解したって冤罪確定。だったらもう逃げるしかないぜ?」

「でも、こんなご時世に警察から1人で逃げ切れるわけ…」

「俺も協力する」

「お、お前はかんけーなっ」

「あるよ。そりゃ最有力はお前だけどさ、あの後俺らすぐ解散してんだ。多分容疑者候補は昨日みなちゃんと一緒にいた4人……あー、坂崎はねぇよな。まあ俺も山城もアリバイないし、候補なわけ。だからいーの」

「だけど……」

「うるせーな、お前はいつも俺らのヒーローだったろ?ヒーローがうじうじしてんじゃねぇよ」

ヒーロー………

最近どっかで聴いたっけ?デジャヴ感が…

「ほらもたもたしてっと、マジで警察来ちまうぜ?必要なもん持って逃げんぞ」

「待てよ、あてはあんのか?」

「一旦俺んちに来い。どうせすぐ移動しなきゃだろうけど、応急処置だ。すぐ警察が来るだろうからやり過ごして、次の行動に移る」

「警察がお前をしつこく取り調べしたらどうすんだよ?」

「たぶんいなくなったお前の行方を真っ先に探すだろうからそれはねぇな。聞かれるとしてもお前の行方だろうさ」

「そんだけ疑われてると逆に清々しいな」

「そうと決まったら急ぐぞ。車で来たからあんま怪しまれずに行けると思うけど、アパート出るとき気をつけろよ。日曜だけどもう起きてる住人もいるかもしれない。変な証言されても迷惑だ」

「わかった。先に行っててくれ。すぐ行く」

「おう、急げよ」


そういって静かに出て行ったあいつの背中が頼もしすぎて、いつもの佐藤じゃないみたいだった。今日のあいつはまるで別人だ。

佐藤健二。

あいつとは幼なじみだ。

ひょうきんというか調子がいいっつうか、いつも輪の中心にいないと気が済まないタイプ。寂しがりでうっとーしい。まあ憎めないんだけどな。あいつがヒーローって言ってたのはたぶんガキの頃にハマってた遊びのやつだ。戦隊ものとかスーパーマンみたいなのとか色々やってた気がする。あんま覚えてないけど。


貴重品だけもって静かに部屋を出た。

駐車場に行く途中で誰かに見られている気がしたけど、そういう時はたいがい向かいのサブローだ。あの柴犬も年取ったな。

なんかもう戻れないかもしれないのに、そんなに怖くなかった。佐藤サマサマだよ。


ガチャ………バタン

「わりと速かったな」

「健二」

「おお、なんだよ雄大」

「…マジでありがとうな」

「きーにすんな☆」

「うぜ」




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