幼馴染の一時 夏休み編
先に『幼馴染の一時』を読んでからの方がいいかもです。
夏。学校は夏休みに入り部活に力が入る頃である。それは毎日幼馴染の部屋で本を読んでいる彼女もそうだ。
「美奈、部活おつかれ~」
「おつかれさま~」
森川第一中学校。それが彼女、秋元美奈が通っている中学校だ。ちなみに美奈の幼馴染である冬川和斗は森川第二中学校に通っている。
「明日は部活休みか」
美奈は手元のスケジュール表を見た。そこにはびっしり予定が書いてある中、次の日の欄には『部活休み』とだけ書いてあった。
(明日はなにしようかな)
数少ない休みの日程を考えていると廊下の方で女子が騒ぎ始めた。美奈は気になり丁度廊下にいたクラスメイトに声をかけた。
「何の騒ぎ?」
「秋元さん!校門にすっごくイケメンの男子がいるの!あれはもしかして第二中のプリンス様よ!」
「第二中のプリンス?」
「そうよ!見てあそこ!!」
クラスメイトの子が校門を指差したので美奈が見てみると…
(あれは…和斗?)
校門の傍に立っているのは美奈の幼馴染の和斗だった。和斗は何やら手に持っているスマホでメールを打っているようだった。
(あんな所で何やってるのよ…)
隣でクラスメイトの子が騒いでいる中、美奈は校門の傍で佇む幼馴染を見つめているとメールの着信音が聞こえた。美奈が自分のだと気づきメールを見たら和斗からだった。
『校門前にいるから来い』
「…もうちょっといい感じに言わないのかしら」
仕方なく美奈は和斗のところに向かった。
(…視線が痛い)
和斗の元へ向かっている美奈に気づいたのか、女子たちの視線が美奈に集まった。美奈は視線を無視し、不機嫌そうに和斗の前まで来た。
「お疲れ、奈美」
「何がお疲れよ…いきなり私の学校まで来て、女子は皆騒ぐしこうやって今私が貴方と話してる時点で女子に睨まれているのよ…どうにかしなさいよ」
「えー、だって俺も丁度部活終わったし美奈も終わる頃だろうから一緒に帰ろかと」
「迷惑よ馬鹿」
(次に学校へ行くには相当覚悟しなければならないわね)
女子たちの質問攻めにされる自分を想像し、美奈は溜息を吐くしかなかった。
「…なんかすまん」
「謝るならもう少しマシな感じにして欲しかったわよ」
「あれくらい大丈夫だろう?奈美は」
「確かに大丈夫だけど、私の学校じゃ和斗の事を第二中のプリンスなんて呼ばれてるのよ?そんな奴がわざわざ私のところに来るなんて…明日部活休みだったのが幸いよ」
美奈は再度ため息を吐いた。
「美奈も休みなのか」
「…もってことは和斗も?」
「ああ」
「珍しいわね」
「なんか知らんが急に休みになった…そういえば話変わるけどさ」
「なによ」
「なんで俺、第二中のプリンスなんて呼ばれてんの?」
「知らないわよ」
前から和斗のことは第一中学校の女子の間で人気だったのは知っていたが『第二中のプリンス』なんて名前は初めて聞いたのだ、それをなぜ呼ばれているなどの質問には答えられるわけがなかった。
「実はな、俺の学校の方も美奈に名前があるんだよ」
「…は?」
「確か…第一中のプリンセス」
「……」
自分のもう一つの名前に何かものすごく嫌な感じになりながら美奈は何も言わずただ無言で歩いた。
「明日予定あるか?」
「…無いけど」
ずっと黙っていた和斗にいきなり質問してきて奈美はすこし驚いた。
「明日…2人でどこか行くか」
「どこかって…どこ」
「海は暑いしなー…あ、久々にあそこでも行く?」
「あそこってどこよ」
「自然公園」
和斗と美奈がまだ幼い頃、両方の親に連れられて何回も訪れたことのある自然公園。あそこは木が生い茂り、夏でも涼しい所で有名な場所。小学校まではよく行っていたが、中学に入ってからは一度も行ったことが無かった。
「…行きたい」
「だろ」
「うん、明日」
「中学校生活最後の夏休みだしな…部活ばかりの思い出よりいいだろ」
「うん…ねえ、和斗」
「なんだ?」
「…ありがと」
そう言って恥ずかしそうに歩く美奈に一人は美奈の頭をポンポンと叩いた。そして2人は明日の予定を話し始めた。
そして話しているうちに奈美の家の前に着いた。
「んじゃまた明日」
「寝坊しないでよ?」
「寝坊したら起こしてくれ」
そう言いながら和斗はさっさと家の中に入っていった。
「まったく…相変わらずなんだから」
そう言いながらも美奈は明日を楽しみにしながら自分の家の中に入った。
次の日、美奈は仕度を終え待ち合わせである美奈と和斗の家の間に向かった。
「寝坊しなかったのね」
「ああ、おはよう」
美奈が玄関を出たときには和斗が既にいた。そして2人は自然公園に向かうべく近くの駅で電車に乗り込んだ。
「こうして2人でどこか行くのは久しぶりだね」
「そうだな、お互い部活であまり休みがなかったしな」
中学も部活も違う2人は暇があってもどちらかの部屋で読書をするぐらいだけだったため、2人で出かけるのは本当に久しぶりだった。そして、これから行く自然公園は中学校に入学して初めて行くため美奈は内心ワクワクしていた。
「到着!」
「懐かしいな」
駅に着き、バスで数分して目的地の自然公園に到着した。夏休み中のため家族連れが多く、賑わっていた。
「やっぱここは涼しいな」
「そうね~家族連れも多いし、やっぱり人は多いわね」
「はぐれるなよ?」
「失礼な…はぐれたら連絡するわよ」
はぐれるほど子供ではないと美奈が思った矢先…
「あれ?和斗?」
美奈ははぐれた。周りを見ても知らない人しかいないため美奈は近くにある大きな噴水の場所まで行った。近くのベンチに座り和斗に連絡を取ろうとしたら声をかけられた。
「秋元さん?」
「…宮野さん?」
美奈に声をかけたのは昨日、和斗の二つ名を教えてもらったクラスメイトの女子…宮野遥だった。そのとなりにはもう2人女子がいて他クラスの子だった。
「偶然だね!秋元さんも友達と?」
「うん、そうなの」
「そういえばさ、昨日のことな…「見つけた」」
遥の言葉を遮ったのは和斗だった。
「はぐれたら連絡しろよ」
「しようと思ったわよ」
「お前は昔から言ったそばからはぐれるよな」
「昔から和斗は私を見つけてくるよね」
「目線が違うんだよ」
「貴方の目線を理解したらいけない気がするわ」
「ひどいな」
「今更よ」
「あ、あのう…」
「「何?」」
自分たちを無視して会話を始めた奈美と和斗に遥は恐る恐る声をかけたら2人同時に返事が来たため驚いて声が出なかった。そのためもう二人いた中の1人が代わりに質問をした。
「秋元さん…そちらの人はもしかして第二中の冬川和斗さんですよね?」
「そうよ?」
奈美の返事にもう一人の子が
「冬川和斗さんって第二中のプリンスと呼ばれているあの冬川和斗さんですよね!?」
「昨日、宮野さんが言っていたのだからそうだと思うけど」
その瞬間立ち直った遥の目が輝きだした。
「きゃー!本物が目の前にいるーーーー!!!!!!!」
「み、宮野さん?」
「私!第二中のプリンス様のファンクラブの会員なんです!」
そう言って見せたのは第二中のプリンス会員証と書かれたカードだった。それも会員ナンバー2。
「…なんで俺第二中のプリンスなんて呼ばれるんだ?」
和斗の質問に遥の何かの地雷を踏んだらしい、美奈が声をかけようとしたが手遅れだった。
「冬川和斗、第二中学3年1組主席で入学し定期テストの順位はすべて1位!!部活はサッカー部で入部わずかでレギュラー!!!外見も内心もすべてがパーフェクト!!!!!!!!!!!ちなみにファンクラブは我が第一中に限らず、第二中、第三中、第四中にもあり、離れたところにある第5中までもファンが増え続けているのです!!!!!!!!!」
和斗について終わりやっとか…と美奈が思っていたところ、まだまだ終わらなかった。
「次は秋元さん!貴方です!!!!!」
「わ、私?」
「はい!!秋元美奈、第一中学3年1組主席で入学し定期テストの順位はすべて1位!!部活は美術部でコンクールではすべて優勝!!!その美しい外見だけでなく誰にでも優しく接してくれ、男女関係なく人気度は高く第一中のプリンセスと呼ばれ、ファンクラブは第一だけでなく第二、第三、第四、第五中すべてにあり!会員しているのは男女とも多いのです!!!!!!!!!」
遥の激しい説明に奈美と和斗は顔を見合わした。
「それで!!お二人の関係は!?」
「え、私たち?…私たちはただの幼馴染よ」
「幼馴染!?初知りです!!!!!」
遥たち3人だけで騒いでいるため美奈と和斗はお互いどうしようかと考えていた。
「和斗…なんかごめんね、せっかく誘ってくれたのにこんなに賑やかになってしまって」
「賑やかでいいんじゃないか?それに…」
「それに?」
「美奈のおもしろい情報を聞けたしな」
「ちょっ!和斗!」
「はは!でもなんか妬けるな」
「…え?」
美奈は和斗を見た。美奈の知っている和斗は昔から常に自分の隣にいて、ずっと子供だったというのに…同じ身長だったはずが今では和斗の方が高くなったため、すこし寂しい気分になった。
「ずっと傍にいて自分しか知らないと思っていた美奈の魅力が他の奴らが知ってるのか…」
「…ねえ、和斗」
「ん?」
「ずっと私の片割れでいてほしいの。昔2人でみた本に出てきた2羽でひとつの鳥のように…」
「片割れが離れることの許されない、か?」
「うん…あの時約束したの覚えてる?」
「もちろん」
奈美と和斗はお互い向き合い両手を握り合った。
「「「私」「俺」達は2人でひとつの鳥になり、永遠にずっと大空をはばたいて行こう」」
そして二人は笑いあった。その場にもう3人いることを忘れて。
「まさに劇だね」
「あの二人だからこそ美しい!!」
「ファンクラブのいいネタね」
遥たち三人は静かにその場を去った。三人が去ったことに気づいた2人は駅に向かい、駅から家までの人のいない道を手を繋いで帰っていった。
その間の二人には笑いが絶える事がなかった。
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