声優のお仕事です。
衝撃な事実を知ってからの行動は早かった。
事務所に駆け込み担当者を問いただすと、忘れていた訳ではなく後で渡そうとしていたとか。
なんでも今日来たばかりで、さっき祐太郎さんが持っていたのは偶々仕事場に行った時に直接渡されたからだとか。
ビックリしながらも、嬉しくて頬がゆるんでしまう。
遂に念願のメインキャラクターの声を担当出来るのだ。
一話だけの脇役やマイナーなドラマCDやパソコンゲームの脇役ではない。
週一アニメのエンディングロールに名前が載る回数が格段に上がるのだ。
主人公じゃなくていい、そこまで求めてなんかいない。
私の声を一人でも多くの人に聞いてもらえる機会を与えられたのだ。
私の夢…私の声で笑い、感動を人に与えたいという夢の大きな一歩だ。
「真由ちゃん。おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「では、この日時に○○スタジオに向かって下さいね」
スケジュールに書かれた日時を手帳に書き写し、私は台本を大事に抱えて家へと帰った。
家は学園の近くにあるマンションの12階。
因みに、一人暮らしだ。
声優になってから私は桜華芸能学園に入学するにあたり、親元を離れて学園近くのセキュリティ万全マンションで一人暮らしを始めた。
転生前は25歳で一人暮らしが当たり前だったから、寧ろ親元にいるより気楽でいいのだ。
お風呂に入りゆっくり寛ぎながら台本を開く。
赤ペンを取り出し自分のキャラの台詞を全てなぞり、何回も何回も台詞の練習をする。
頭にしっかり台詞を叩き込んでから、一緒に仕事をする人達を見ようとキャスト一覧を見てみる。
祐太郎さんに見せて貰った時は動揺のあまり見てないし、さっきも役を貰えたという興奮で見ていなかった。
「あっ…!!うそ、本当に…?!」
そこには、私が尊敬し好意を抱いている人の名前がのっていた。
後日、指定されたスタジオに時間5分前についた私は、スタッフと先についていたキャストさん達と世間話をしていた。
祐太郎さんも来ていたが、彼は無口キャラで通っているので会話には殆ど参加しない。
暫くして大半の人が揃ったのに、私のお目当ての人がまだ来ない。
「…どうした」
「あ、…うん。まだ来てないなぁって…」
「ああ…」
時間にルーズというか、マイペースであるあの方については皆が知っている事なので、あまり驚きはしないのだが、今の私にとっては今か今かと待つばかりだ。
「おはようございます。…おや、私が最後みたいだね。お待たせして申し訳ない」
来た!!
この声フェチな私の胸に響くハスキーボイスは、正しく私の尊敬し好意を抱いているその人。
朝霧誠さん。
「全員集まりましたね。それでは、アフレコを開始しましょう」
「「はい!」」
感動もそこそこに仕事開始です。