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第57話 女神の置き土産と絡まり合う「運命の赤」

 女神エリス様が私の部屋を去って(というか強制送還されて)から、数時間後。


 私は、ロビーの掃除をしながら、頭を抱えていた。



「……見にくい。とにかく見にくい!」



 私の視界には、今、通常の景色に加えて、無数の「赤い線」が縦横無尽に飛び交っていた。

 まるでスパイ映画のレーザートラップだ。


 『新機能:【運命の赤い糸】可視化モード(ベータ版)』


 女神様が「お詫びの印」として勝手に追加していったこの機能。

 人の小指から伸びる「運命の相手」へ繋がる糸が見えるという、乙女なら憧れる機能……のはずなんだけど。



「……おじさんの糸、どこに繋がってるの?」



 カウンターでお金を数えているおじさんの小指からは、太くて丈夫そうな赤い糸が伸びている。

 その糸を目で追っていくと……カウンターの奥に飾られた、亡くなった奥さんの写真へと真っ直ぐに繋がっていた。


(……うわぁ。素敵。……これは感動した)


 おじさん、天国にいる奥さんとまだ相思相愛なんだ。


 こういう「ほっこり」なら大歓迎だ。

 しかし、問題は他にある。



「はいよ!ランチの仕込み完了だ!」



 厨房から出てきたメアリさん。

 彼女の小指からは、極太の、もはやロープのような赤い糸が伸びている。


 その先は、ちょうどランチを食べに来た強面の常連客・ガルドさんの小指へガッチリと繋がっていた。


(……うん、知ってた。バレバレだもんね)


 二人はまだ「店員と客」の関係を崩していないけれど、運命的にはもう結ばれているらしい。


 見ていて微笑ましいけど、糸が太すぎて邪魔だ。歩く時に引っかかりそうになる(物理干渉はしないけど)。


 その時。

 カラン、コロン……。



 宿の扉が開き、あの「VIPな常連客」たちがやってきた。



「……邪魔するぞ。今月の監査報告書を持ってきた」



 銀縁眼鏡を光らせたカインさんだ。

 相変わらずクールな表情で、計算機を片手に持っている。



「やあ、紬!近くまで来たから寄ったよ!」



「……非効率だが、君の顔を見ると研究が捗る気がしてな」



 さらに、王太子エドワード様と、シルフィールド公爵ライオネル様まで!

 珍しい組み合わせだ。たまたま入り口で鉢合わせたらしい。



「い、いらっしゃいませ……!」



 私は笑顔で迎えようとして――凍りついた。

 み、見えすぎる。

 彼らの小指から伸びている糸が、ハッキリと見えすぎる!


 まず、エドワード様。

 彼の小指からは、キラキラと輝く金粉が混じったような赤い糸が伸びている。

 

 次に、ライオネル様。

 彼の糸は、氷のように透き通ったクールな青みがかった赤だ。


 そして、カインさん。

 彼の糸は、なぜかギザギザしていて、計算式のような幾何学模様を描いている。


 皆んな、各自の特徴にあった赤い糸をしている。問題は、その「行き先」だ。


 シュバッ!シュバッ!シュバッ!


 三人の糸は、まるで意思を持っているかのように、一直線に私の方へ向かってきている!


 そして――。



「……えっ?」



 私の左手の小指。

 そこには、自分の糸があるはずなんだけど……。


 ぐちゃぐちゃぐちゃ〜っ!!

 絡まっている。

 三人の糸と、私の糸が、まるで猫が遊んだ後の毛糸玉のように、複雑怪奇に絡まり合って、巨大な「赤い団子」になっているのだ!



「な、な、なんですかこれぇぇぇ!?」



 私は思わず叫んで、自分の手をブンブン振った。



「どうした、紬?手に虫でも止まったか?」



 エドワード様が不思議そうに覗き込んでくる。

 その瞬間、彼の「キラキラ糸」が私の鼻先をかすめた。ちょっとうっとうしい!



「な、なんでもありません!ちょっと手が痺れて……!」



 私は必死に誤魔化した。

 言えない。



 「あなたたちの運命の赤い糸が、私の指で大渋滞を起こして交通事故みたいになってます」なんて、口が裂けても言えない!


(……ふん。今日の紬、挙動不審だな。……また何か隠しているのか?だが、その慌てた顔も悪くない……)


 カインさんの心の声が聞こえる。

 そして、彼の「ギザギザ糸」が、私の小指にキュッと巻き付くのが見えた(幻覚)。


(……紬の淹れた茶が飲みたい。……いや、紬の顔が見たいだけか。……非合理だ。恋とは、かくも非合理なものか)


 ライオネル様の「クール糸」も、私の手首に絡んでくる。


(……やっぱり紬の笑顔は癒やされるなぁ。……いつか、僕のお妃様になってくれないかなぁ)


 エドワード様の「キラキラ糸」が、ハートマークを作って飛んでくる。



「ちょっとこれやばい!!」



 私はパニックになりながら、厨房へ逃げ込んだ。



「メ、メアリさーん!助けてくださーい!」



「なんだいなんだい!ゴキブリでも出たのかい!?」



「ゴキブリではないんですけど…、私が受け止めきれなくて… 」



 私は厨房の隅でうずくまった。

 女神エリス様、これは「新機能」じゃなくて「見てはいけないもの」です!

 こんなのが見えてたら、まともに接客なんてできません!


 その夜。


 私は枕に向かって、女神様に祈り(という名のクレーム)を捧げた。



「エリス様!お願いですから、この機能オフにしてください!せめて『常連客フィルター』をかけてください!」



 すると、空中にポワンとウィンドウが表示された。


『システムメッセージ:ご要望により、可視化モードを【ON/OFF切り替え式】に変更しました。……てへぺろ☆』


 最初からそうしてよ!!

 私は、震える指で【OFF】ボタンを連打した。

 フッ、と視界から赤い線が消える。

 静かな、いつもの景色が戻ってきた。



「……はぁ。よかった」



 でも、消えたからといって、糸がなくなったわけじゃない。


 あの「巨大な赤い団子」は、見えないだけで、確かにそこに存在しているのだ。

 勇者アルド様や他の方達の糸も繋がっているのだろうか?



 想像すると嬉しい気持ちと複雑な気持ちが混ざり合っているのがわかる。

 私の「運命の相手」が誰なのか、それは神のみぞ知る……いや、あのポンコツ女神様も分かってない気がする。



 とりあえず、今は「みんなの看板娘」でいさせてください。



 赤い糸の行方は、未来への(ちょっと怖い)お楽しみということで。






ここまでお読みいただきありがとうございました!

新機能は個人的には無い方がいい気がします。運命の赤い糸が見えてしまうと逆に気まずいかなって(^^;;

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― 新着の感想 ―
これはもう、オフにするしかないですよね。 しかし、おじさんと天国の奥さん、メアリさんとガルドさんの赤い糸にはほっこりしました。……尊いです。
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