表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/30

第26話 それぞれの別れと監査役の宣告

 百年に一度の、嵐のような星降り祭が終わった。



 空が白み始め、祭りの喧騒が嘘のように静まり返った宿屋で私は、一睡もできずにフロントカウンターに突っ伏していた。  



 燃え尽きた。真っ白な灰のように。



 昨夜の出来事を思い返す。


 地獄の晩餐会。勇者と魔王(仮)のピーマン同盟。VIP総出の誘拐犯撃退。そして、奇跡のような流星群。



 ……濃すぎた。私の異世界ライフ、一夜にしてクライマックスを迎えすぎた。



「……紬ちゃん、生きてるか?」



「おじさん……。なんとか、宿の物理的損壊だけは、免れたみたいです……」



「ガハハ! お疲れさん。まあ、あんなとんでもねえメンツを、よくぞ無事に泊めきったもんだ!さすがはうちの看板娘だ!」



 おじさんの豪快な笑い声が、疲れた体に染みる。しかし、休む間もなく、チェックアウトの時間はやってくる。私の本当の戦いは、ここからだ。



 最初に動き出したのは、やはり、というべきか。氷の貴公子ライオネル様だった。彼は夜が明けるのとほぼ同時に、完璧な身支度を整えて離れから現れた。その目には、徹夜明けの研究者特有の、熱っぽい光が宿っている。



「世話になった、紬。実に有意義な観測だった」



「お役に立てて、何よりです。ライオネル様」



「……ああ」



 彼は、ロビーの隅(昨夜、魔王がいた場所)を一瞥し、静かに続けた。



「昨夜のトラブルは、計算外だったが……君という存在の特異性も含め、多くのデータが取れた」



(あの空間転移……そして、それを抑え込んだ、君のあの不思議な説得力。……小鳥遊紬。君という研究対象は、実に不思議だ。あの子供も無事で安心した)


 私のスキルに気づいているのかいないのか、相変わらずポーカーフェイスの彼の心の声は、私への好奇心で溢れている。



「これは、昨夜の星の魔力分析の序論だ。王都に戻り次第、詳細なレポートを送ろう。……君にだけ、特別にだ」



 また、あの難解なレポートが届くのか……。  


 彼が差し出した分厚い羊皮紙の束を、私は丁重に(心の中では丁重にお断りしながら)受け取った。


 去り際、彼がほんの少しだけ、口元を緩めたことに、私は気づかなかった。



 次にやってきたのは、対極の存在。

 

 王太子エドワード様が、「紬! 楽しかったよ!」と、太陽のような笑顔で階段を駆け下りてきた。


「昨夜はすごかったね!あのスリル!あの連携!まるで伝説の冒険譚のようだったよ!りりちゃんも無事で本当に良かった!」


 彼は興奮冷めやらぬ様子で、私の両手を握りしめる。



(あの学者ゼノンの力は気になるけど、それ以上に、紬のあの度胸!誘拐犯にも、魔王みたいな男にも、一歩も引かないなんて!ますます惚れ直しちゃったよ!)



「ねえ、紬!やっぱり君は、宿屋のフロントをやっているだけなんて勿体無いよ!僕と一緒に王都へ行こう!君ならきっと王城でも大活躍間違いなしさ!」



「それは、いろんな意味でお断りします!」



 私の即答に、エド様は「またフラれた!」と、わざとらしく肩を落とす。



「……まあ、いいさ。僕は諦めないからね。次こそは、王都に招待するから!拒否権はないからね!」



 嵐のような(そして相変わらず強引な)告白を残し、彼は護衛の騎士団と共に、慌ただしく王都へと帰っていった。


(騎士団長様の、「紬殿、この度も殿下の無茶を……本当に、胃が……」という、切実な心の声が、背中に突き刺さった)



 そして、昼前。



 宿屋の入り口で、勇者アルド様が仲間たちと共に旅立ちの準備をしていた。



「紬さん!本当に、最高の宿だった!これでまた、魔王討伐の旅を続けられるよ!」



 彼は、清々しい笑顔で私に近づいてきた。



(昨夜は、りりちゃんを助けられて良かった!ゼノンさんとも、熱い友情ピーマンを結べたし、紬さんの勇敢な姿も見られた! ……俺、なんだか、紬さんのこと、心の友以上に守りたいって思ってる……? いや、これは勇者としての使命だ!)



 彼の心の中で、新たな感情が芽生え始めているようだが、本人は気づいていないらしい。ちょっと私も恥ずかしい…。



「……そうだ、紬さん!これ、昨夜のお礼と、お土産!」



 そう言って、彼が私に差し出したのは。

 緑色で、独特のフォルムが施された、木彫りの……。



「……ピーマン、の……キーホルダー?」



「ああ!旅先の街で見つけたんだ!素晴らしい出来だろ!これを持っていれば、ピーマンを克服できるかなお思って買ったんだ!二つ買ったから紬さんに一つあげる!」



「は、はあ……ありがとうございます……(いらない……)」



 私は、ひきつる笑顔で、その(呪いのアイテムにしか見えない)キーホルダーを受け取った。


「じゃあ、行ってくるよ!心の友!必ず、魔王を倒して、君の元に帰ってくるからな!」



 彼は、太陽のような笑顔で手を振り、仲間たちと共に、再び旅立っていった。



 お揃いのピーマンキーホルダー……、なかなかシュールだけど、でもプレゼントだし大事にしよう。




 最後に、ロビーに降りてきたのは、ゼノン様とりりちゃんだった。りりちゃんは、すっかり元気を取り戻し、私の姿を見るなり駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きついてきた。



「紬お姉ちゃん!ありがとう!また遊びに来ていい?」



「ええ、もちろんよ! いつでもおいで、りりちゃん」



「……世話になったな」



 ゼノン様が、深いフードの奥から、私を見据える。



(……この娘には、頭が上がらんな。りりを救い、俺の暴走まで止めてくれた。……やはり、悪い人間ではないようだ)



 彼は懐から、一つの小さなペンダントを取り出した。  昨夜、彼が(一瞬だけ)本気を出した時に放っていた黒いオーラと、同じ色の石がはめ込まれている。



「……その、なんだ。昨夜の礼だ。何か困ったことがあれば、これを空に掲げるといい。すぐに駆けつけよう」



「え、あ、ありがとうございます……」



(これ、魔王軍の非常招集アイテムとかじゃないですよね!?)


 私の心のツッコミは、彼には届かない。


 ゼノン様は、りりちゃんの手を引くと、「行くぞ」と短く告げ、宿を後にしていった。



 二人の姿が、白昼の光の中に、まるで溶けるように消えていくのが見えた。やっぱり魔王様だよね?



 こうして、嵐のようなVIPたちは、全員、無事に宿を後にしてくれた。私は、カウンターに今度こそ本当に突っ伏した。



「終わった……。終わったぞ……!」



「ガハハ!紬ちゃん、お疲れさん!ま、あんなとんでもねえメンツが全員、紬ちゃんにぞっこんに見えたぜ? いやあ、モテモテだなあ!」



「からかわないでください、おじさん!」



 私とおじさんが、いつものやり取りを繰り広げていると、静かに有無を言わせぬ声が響いた。



「……小鳥遊紬」



 フロントの隅の「定位置」で、カインさんが腕組みをして立っていた。


 彼の顔には、徹夜明けの疲労と、それ以上の深い、深ーい、混乱の色が浮かんでいた。彼は、私に向かって、ゆっくりと宣告した。



「……監査は、続行する」


「ええええええ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げる私に、彼は、手元の計算機を(もう叩きすぎて壊れかけている)私に見せつけた。



「……昨夜のデータは、異常値が多すぎて、全く参考にならん」


「はあ」


「王太子と貴族がお前の仲介で和やかに会話し、勇者が魔王(仮)にパンを差し出す。……こんな非合理的な事象、俺の経営理論では説明がつかん!」



(……ダメだ。あの女の非合理性が、俺の理論を根底から覆した。……あの老夫婦の時とは違う。これは、経営を超えた、何かだ。……俺は、この『小鳥遊紬』という存在そのものを、解明するまで、帰るわけにはいかない!)


 

 カイン氏は、燃えるような瞳で、私を睨みつけた。



「貴様のその『非効率経営』の秘密を、俺が完璧に暴くまで、この監査は、終わらん!」



 ……私の胃痛、まだ続くんですか。



 こうして、嵐の星降り祭は幕を閉じ、宿屋には(監査役一人を残して)平穏が戻った。



 ……かに、思われた。



 私の手元に残された、ピーマンのキーホルダーと、魔王(仮)のペンダントが、次なる波乱の幕開けを告げているような気がして、私はそっと空を仰いだ。





ここまでお読みいただきありがとうございました!

今回の話は、後日談的な話でした!

次からまた新たな話になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ