盤上の駒
王都の一角。陽光が降り注ぐ優雅な書斎で、二人の貴族が精巧な地図盤を挟んでいた。一人は壮年の子爵、もう一人は痩身の男。盤上には、ゲルニア平原での戦争を模した駒が並べられている。
「ふむ、ドレフィスめ、存外手こずっているようですな。駒の動かし方が鈍い」 痩身の男が、銀のピンセットで傭兵を示す駒をつつきながら言った。
「構わんさ。重要なのはどちらが勝つかではない。どちらが勝てば、我らの懐がより潤うかだ」 子爵は、ワイングラスを揺らしながら鷹揚に答える。彼らにとって、遠い平原で繰り広げられる死闘は、現実の出来事ではなく、ただの遊戯であり投資だった。
「確かに。傭兵という駒は安くていい。壊れても心が痛まん。それに、あの駒どもが消費する剣も弾薬も、馬鹿にならぬ利益を生んでおります」 痩身の男は、今度は両軍の兵糧庫を示す位置をピンセットで軽く叩いた。 「送る食料も、傷口に塗る薬も、ですな。戦とは消費そのもの。動く駒も壊れた駒も、等しく我らの金になる」
「うむ。連中が撃ち合い、斬り合い、喰らい、傷つく。そのすべてが我らの富となる」 子爵は満足げに頷いた。 「そして、死体の山が高く積もるほど、戦後の復興利権という、さらに甘美な蜜が待っている。ドレフィスには、せいぜい長引かせて駒を消耗させてもらわねばな」
子爵は、盤上の名もなき駒の一つを、指で無造作に弾き飛ばした。それは床に落ち、誰にも気づかれることなく転がっていく。
「駒は使い潰してこそ価値がある。特に、名もなき傭兵という駒はな。代わりはいくらでもいる」 二人の乾いた笑い声が、日の光の中で虚しく響いた。




