名状しがたきもの
王都の司法府。首席判事の私室。
間諜からの報告を聞いた首席判事の顔は、初めて無表情を崩し、驚愕に歪んでいた。
「…我々が放ったあの精鋭100が、ぜ全滅? 強化人間だぞ!! 我々の切り札と考えていたものを・・バケモノか・・・『隻眼』と、しかも死んだはずの『獣の女』によってだと?」
「は。…殲滅行為を視認した者がいなかったため詳細は不明ですが、現場は凄惨を極め、強化兵たちの死因は、肉体の欠損破壊が約6割、残りは首側面、こめかみ、上腕、脚の付け根などの動脈が切り刻まれ床はどす黒い血の海となっていました…」
「…しかし馬鹿な。あの傭兵風情が、禁断の遺物(仮面)の呪いと死の呪いを破ったとでもいうのか?」
首席判事は、窓の外を見つめた。
彼は、アレリウス男爵が仕掛けた魔導爆弾や古城の魔力障壁が、奇妙な魔力の奔流によって無力化されていた報告を思い出していた。 あれが、関係しているのか・・・解せぬ。
「…もはや、害獣ではない。人の理を外れた、言葉で言い表せない『バケモノ』が誕生してしまったようだ」
彼の目に、冷たい怒りと、それ以上に強い「興味」の光が宿る。
子爵の狼狽が目に浮かぶ、きっと「愚か者めが! 獣を解き放ったはいいが、己が真っ先に喰われるとは! おかげで城も、強化兵も、私の投資が全てパーだ!」とでも言うな・・。
失った駒と利権。そして、何より、自分たちの盤上で好き放題に踊り、あまつさえ生き延びた二匹への屈辱。己の計画の綻びと、駒の損失を、ただ静かに、そして激しく、噛みしめていた。
新たな悪意が、アポロとシルクに向けて、静かに動き出していた。
『銃弾はタンゴのステップで ~ネームド「隻眼」と獣人シルク~』を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
「隻眼」とシルク、二人の危険なステップに最後までお付き合いいただけたこと、心より感謝申し上げます。
どんな絶望的な状況でも、二人でステップを踏み続ければ乗り越えられる。
そんな「相棒」の絆を感じていただけていれば幸いです。
二人のタンゴは、まだ始まったばかりです。
またいつか、どこかで彼らの新しいステップをお届けできる日を楽しみにしています。
改めまして、ご愛読ありがとうございました。
2025/11/3 終末のソムリエ




