終章:罪の絆
アポロとシルクの戦いは、もはや戦闘と呼べるものではなく、蹂躙だった。
アポロはSkil 2【戦闘】の加速を使い、敵陣を雷光のように駆け抜け、指揮官クラスとスキル持ちや能力持ちの肉体の頭部や首、胴体の中心部を欠損させ、瞬時に無力化していく。
シルクは、妹の身体でありながら、かつての野性的な剣舞を完璧に再現し、襲い来る兵士たちを切り伏せていく。
死の淵から蘇り、アポロが隣にいるという事実が、彼女の集中力をさらに研ぎ澄ませていた。
「隻眼」と「獣の女」。
二人の「背中合わせのアブラッソ(抱擁)」が、この玉座の間で復活しした。
王都から派遣された屈強な精鋭100の手勢は、二人の破壊力とスピードに為すすべもなく、わずか十数分で全滅した。
静寂が戻った玉座の間に、二人の荒い息遣いだけが響く。 シルクは、血塗られた双剣を下ろし、自らの手を見つめた。 妹の手だ。
「…アポロ。説明しろ。何が起きた」
アポロは、サンダーボルトを背中に収めると、シルクに向き直った。
彼は、自らが払った代償については一言も触れず、ただ事実だけを告げた。
「お前は死に俺が、蘇らせた。そしてお前の魂を、ティナの身体(器)に移し替えた」
「…そんな、馬鹿な」
「そうだな。だが、もう二度とは使えん」
シルクは、アポロの消耗しきった表情と、その瞳の奥に隠された何か(=永久の自己犠牲)を感じ取った。 だが、今はそれを問う時ではなかった。
「…そうかい。アタシは、妹の身体で生かされるのかい」 彼女は、自らの頬に触れる。
「…アポロ」 「なんだ」
「…ありがとう。…そして、ごめん。アタシ、あんたを守ろうとして、結局、とんでもない借りを作っちまった」 「借りじゃない」 アポロは、シルクの肩を掴んだ。
「生きろ。お前が生きている。ただそれだけが、俺の戦う理由だ」
その時、シルクは自らの胸元…ティナの身体の胸元に、服の上からでもわかる、奇妙な「熱」を感じた。
それは、呪いによるおぞましい激痛ではない。
温かく、しかし切実な、何かがそこに「在る」という感覚。
シルクが襟元を引くと、そこには、先ほどまでシルク(自身)の身体にあったはずの『薔薇のアザ』が、確かに存在していた。
だが、その色は、絶望を象徴する禍々しい 「黒」 ではなかった。
まるで、ティナの魂が最後に見たかったであろう故郷の空の色か、あるいはアポロが起こした奇跡の光そのものを写し取ったかのような、深く静かな 『青い薔薇』 へと変貌していた。
「これは…」 シルクは、その青いアザに触れる。
アポロもまた、自らの胸元を抑えた。
アポロを救うため、呪いの連鎖を断ち切るために自ら命を絶ったシルク。
その彼女の魂を現世に繋ぎ止めるため、自らの「奇跡」の全てを彼女に尽くしたアポロ。
彼の胸元にもまた、シルクと同じ 『青い薔薇のアザ』 が浮かび上がっていた。
それは、呪いが浄化された証などという生易しいものではない。
ティナの犠牲によって生まれ、 シルクの絶望と自己犠牲によって刻まれ、 そしてアポロの「奇跡(Skil 3)」そのものを注ぎ込むことで、死に至った魂をこの世に繋ぎ止めた紋章だった。
二人は、同じアザという「罪」をその身に刻むことで、互いの魂と絆が繋がった。
「…アポロ。あんたも、これを…」 「…ああ」
アポロは、シルクの頬に触れた。
「お前が生きている限り、俺もこれを刻む。・・・夜だけじゃなく昼間も繋がっちまったな(笑)」
「ばか」
二人は、血まみれの元シルクの躰を綺麗に洗い流しアポロがお姫様抱っこすると、夜明けの光が差し込み始めた古城を後にする。
砦都シルバラードを望む丘の上に来たときシルクは「ここがいい」というので元シルクの躰を地中深く埋葬する。
アポロは「奇跡の力」を占有され、シルクは「妹の身体」という現実を背負う。
そして二人の胸には、互いの魂を繋ぐ『青い薔薇』が刻まれた。
誰にも明かせぬ「罪」を分かち合い、
彼らの本当の絆が、ここから始まろうとしていた。
二人は、再び混沌の砦都シルバラードへと歩き出した。
遠くにオーウェル卿の騎士団の本隊がこちらへ向かってきていた。




