5-1狂気と閃光
続けてアポロは、呪の仮面も破壊すると血だまりの中に横たわるシルクの亡骸を、静かに抱き起こした。
そういえば種明かしのなかった仕掛けが作動せず、なぜ爆破しなかったのか、ブラフだったのか、それともオレの魔力の質が変わったせいなのかわからなかったが、シルクを失ってしまった今はもうどうでもよかった。
シルクの亡骸はまだ、温かい。
だが、その心臓は動いておらず、魂の光は完全に消え失せていた。
隣には、魂を失った双子の妹、ティナの亡骸。
ともに黒い薔薇が刻まれいていた。
「…馬鹿野郎が」 アポロの隻眼から、涙がこぼれ落ちた。
「…なぜ、お前が死ぬ。なぜ、俺を守る。…俺は、お前に守ってもらわなければならないほど、弱くはない…」
後悔と自責の念が、彼の心を灼き尽くす。
(俺のスキル…治癒(Skil 1)は、代謝の加速だ。死んだ人間は、蘇生できない)
(戦闘(Skil 2)は、俺自身の加速だ。時間を戻すことはできない)
絶望が、彼を支配しようとした。
その時、アポロの脳裏に、彼のスキルの本質が閃光のようにひらめいた。
(「生命の加速」…)
もし、俺の能力が、単なる肉体の代謝ではなく、「生命そのものの流れ」を操作するものだとしたら?
もし、この世界に流れる魂や生命力そのものに干渉できるとしたら?
「…そうか」 アポロは立ち上がった。
隻眼に、狂気とも、あるいは神への挑戦とも取れる、凄絶な光が宿る。
「…まだ、終わりじゃない」
彼は、シルクの亡骸の隣に、ティナの亡骸を丁寧に並べた。
双子の身体。瓜二つの器。
ティナは魂を失い、
シルクは肉体を失い死んだ。
だが、ティナの身体は、魂が抜けただけの「器」として、まだ生きている。
(親和性は、高いはずだ)
アポロは、両の手をかざした。
「…動け」
彼の魔力が、周辺の空間、大気、そしてこの世界そのものに満ちる「生命の流れ(ライフ・ストリーム)」に干渉していく。




